必然などまるで信じない運命のひと



桜の花びらが濃い日だった、家に近いこの通り道を通るたび探してしまう人ができた。それまで今まで周りを意識したことなんてなかったのに彼女に出逢ってから世界をよく見るようになった。


商業柄かいつも周りからどう言われているのか気にして、自分らしくって何だと模索しながら生きる息苦しい世界だったから。

見たくないものを避けて通ってきたのに最近はよく世界を見渡している気がする。それは無意識に彼女を探すようになったからだろうか、これが恋かなんて分からない。ただ彼女に会いたい、其れだけだった。


「あ、玉森くん」

今日も彼女はベンチに座って白い猫と戯れている。顎の下をごろごろと撫でられて気持ち良さそうだった。

「その猫、野良なの?」
「うん、名前はまだないなんちゃって」

猫の両足を持ち上げて吹き替える彼女の声に吹き出してしまう、夏目漱石の受け売りか。

「なにそれ、」
「読んだことはないんだけどね」
「わかる、名前はないの?」

「うん、」
「つけないの?」
「つけたら愛着湧いちゃうでしょ?」

「いいじゃん、つけようよ」

砂肝とかどう?と言うと却下された。理由は俺か好きだからというと嫌悪感丸出しの顔でノーと言われた。その次におしるこって提案したらなんでそんなに食べ物ばっかりなのかと怒られた。


「よし、きなこにしよう。」
「それ砂肝とあんま変わんなくない?」
「変わるよ、全然違うよ」

そういう彼女に俺は腑に落ちない。ちなみに何故きなこなのか問うと、せっかく白い綺麗な毛並みをすぐに泥んこにするかららしい。


「長いの?こいつと?」
「名前つけたんだから名前よんでよ、」

名前を呼ぶたびに愛着が湧くもんだよとまた怒られてしまった。

「きなこーまた怒られたよ」

そうやってふざけると笑ってくれる、この顔が俺は好きだ。花が咲くように笑うこの顔が直視できなくて俺はふいと目をそらした。


「そういえば名前教えてないのに知ってたんだね、」
「んー知らない人はいないかなぁ」

それはつまり俺を誰か知っているらしい、まあこの世界にいれば知っててもおかしくない。


「でもね、改めて教えてほしいな」

君の口から。君のことが聞きたいと言われて俺はなぜか胸が高揚した。ああ、いつ振りだろう。自分から自分のことを話せるのは。それがとても嬉しかった。


「玉森、玉森です。」
「え、たもり?」
「え、最近髪切った?じゃないよ」

「ふふ、のってくれた」
「まが抜けてるよ、たまもり。」

「うん、よろしくね玉森くん。」

それから何の話をしてたっけな、いつもどうでもいい話の内容なんか覚えていないくせに覚えておきたくなるくらい家に帰って復習するのだ。あんなことを話したなって。

桃の天然水を飲んでいた彼女がこれを作った人はノーベル賞ものだと意味のわからないことを自慢げに言ってたり、いろはすだったら何味が今まで一番美味しかった?という話をしたりしたな。

彼女ははちみつレモンらしい、俺はヨーグルト味だったなあと話したな。なんでもない話の筈なのにどうして思い出すだけでこうも胸がくすぐったいのだろう。


「…また会いたいな、」

そう思えば口に出していて慌てて手で覆った。口に出すと余計に恥ずかしい。

fin .

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