歪な愛を望んだ結末の果てには


猫みたいな人だと思った、彼がこの店に来たのはまだ半年も経ってなかったと思う。ふらっときて、まるで道がわからなくなった子猫が迷い込んできたみたいで。一度聴いてみたことがある、何度も来てくれる彼に。なんでこのお店だったのか、他にもたくさんお店はあるのに。

そしたら彼は言ったんだ。

「名前ちゃんがいたからかな、」って

だから私も言ってやったんだ。伊野尾さんが酷い人でよかったと。遠慮なく嫌えるからと。


「それの方が酷くね?」
「…ふふ、嘘です。」
「うん、嘘にして。嫌わないで。」

そう言った彼の声はいつもより低くて周りは静寂で私の耳によく響いた、呟いたようなそんな言葉だったけどそれが切実で寂しそうに聴こえたのは私の勘違いなんだろうか。

そしてやっぱり酷い人だと思った、嫌いになんてさせてくれないくせにと。


やっぱり彼は酷い人だ。
よく小さな嘘をついて私の気を引いておいて、突き放してそれでも離してくれなくて。

意地悪なことをいって私を怒らせて、そんな顔も可愛いと私を黙らせてしまう。

私が他のお客さんにばっかりだと、たまに拗ねて構ってほしそうにじっとこっちを見てくるのだ。あの瞳で熱い視線を向けられるから私は焦げた砂糖菓子のようなカラメルに成ってしまいそうになる。

本当はとっくに気づいていた。
あの瞳が私を見つめていること。その熱を孕んだ瞳が何かを告げていること。きっとそれは恐らく私とおんなじなこと。

だから本当はこの感情が何なのか知っているのだ、ただ認めてしまいたくなかっただけ。思い上がりだと勘違いだと自分を律していたかったから。


だけど、ようやく私は甘い溜息をつけたような気がした。

あの熱を孕んだ瞳は、伝えられない気持ちに気づいてほしいかったんだと。さっき彼に触れた唇に手を添える、温もりは残ってなんかもういないけどそこに確かに触れたのだ。赤みは増してもっと彼を欲している、次に会ったらどうしよう、きっと彼を離してあけられなくなってしまうかも。

自分を律していたのはこんな醜い欲望を彼に知られたくなかったからで、そして彼を独り占めにしたいという私の全てを曝け出してしまいそうになるから。

ああ、でも今度会ったらきっと剥がれてしまう。醜くて欲望にまみれた彼を欲している剥き出しの瞳で彼を見つめて離さないだろう。


fin .

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