朝焼けとあなたの溜息で埋もれて



he side .

ごめんね、その言葉を何度も繰り返して俺の心をかき乱したまま彼女は帰っていった。


「…泣きたいのはこっちの方だわ」

縛られてた手を解いたら跡が残っていてその跡を眺めてかるく撫でる。それから汗といろんなもので塗れた身体を洗い流すためにシャワーを浴びる。

なのにまだ胸がざわついている。考えるのは今さっきまでいた彼女のこと。


俺のこと好きだなんて知らなかった。あんな顔をして、あんなに自分というもののキャパシティを超えて俺を好きだという取り乱した彼女が憫然でそれがひどく興奮したのも事実だ。いつもは大人しい彼女があんなにも人のことで熱情するのが意外だった。

そんなことばっかが頭によぎる。


「…馬鹿っ、その気になるな」

俺は頭を叩いて我にかえる。あれだけのことで頭を支配されるなんて愚かにもほどがある。今度会ったら無視して、睨みつけて、もう関わらないようにしないと。

じゃないと俺には彼女がいるのに不誠実すぎるだろ。



そう思うのに、瞼の裏に焼き付いてるのは俺の首に必死にしがみついて離れがたいという気持ちを孕んだ、瞳を潤ませて、開いた口から甘い吐息と声がもれて、白い肌に流れる髪から甘い匂いがしたそんな彼女の姿。

俺は忘れるためにベッドの方へと足を向ける。


忘れろ、忘れろ。

そう思って向かうと外はもう明るくて紫色をした朝焼けだった、あまりにも綺麗で俺の考えていた心とは不釣り合いすぎてなんだか笑える。

それを見て今日は寝不足だなと決め込んだ、そして今日はもう日付をまたいだので土曜日。明後日彼女にどんな顔をして会ったらいいのかを考えなくては。

それから深い溜息がこぼれる。それはすこし熱を帯びた吐息のような溜息。


「…はぁ、どうかしてる」

彼女のあの甘い声で玉森くんと、名前を呼ばれるたび胸が疼いた。心がちりちりと焦げていきそうで悩ましいこの気持ちを忘れるために俺は無理やり瞼を閉じた、だけどやっぱりその瞼の裏に残っているものが頭から離れてくれなかった。

ぼろぼろと涙を流して泣くあの壊れそうな姿を、ごめんねと何度も繰り返し呟くか細い声が、自惚れでもどうしようもなく俺をすきだという気持ちに苦しそうに顔を歪める彼女にひどく興奮して、あの顔をもう一度見たいと思ってしまう自分がいた、


俺はまんまと彼女の罠に嵌められたようだ。


fin .

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