今日もわたしの頬は雨で濡れるの
she side .
「…ねぇ、なんで泣いてるの?」
本来なら女の子の私が泣く場面なのに、そう思いながら目の前で涙を流す弱々しい玉森くんが愛おしい。きっと皆はあなたのこんな弱いところは知らないんだろうな。それともあの子は知ってるのかな。
「ふざけんな…やめろって」
口だけは強がるあなた。でもここは私に触れられて喜んでる。私はヒールを脱いでストッキングもそこら辺に放ってあなたに見てもらいたくて綺麗にしたネイルを施した指先で玉森くんのベルトを外す。カチャカチャって音がしてなんか卑しいね。
玉森くんが悪いの。確かに私は玉森くんが想ってるような純粋な子じゃなくてどちらかと言えば真反対の淫猥な女だし、可愛くなんかないし、話もあなたと合わないかもしれない。でもそれでも玉森くんをこの世界で一番愛しているのは私なのに。
気に食わない、気に食わない。
どうしてあんな子が好きなの?
どうしてあんな子が気になるの?
どうして私じゃ駄目なの?
「なぁ、苗字。俺彼女いるって知ってんだろ」
なのになんでこんなこと、そうやって問うてくる玉森くんの真意の方が私はわからない。好きな人を好きにしたくなるのはあたりまえの欲でしょう?
玉森くんの腕はあなたがしてたネクタイでドアノブにくくりつけて身動きが取れない状況にある。だから私の言うことしか聞けない玉森くんにすごく興奮するの。
「なぁ…んっ、」
今、ふざけるのも大概にしろよって言いたかったのかな。でも残念、それは聞いてあげられない。可愛い柔らかい唇を私が塞いでしまうから。ああ、これじゃあどっちが男で女かわからないね。
想像よりも柔らかい玉森くんの唇を奪ってると思うとすごく興奮してね止まりそうになくなる。唾液が絡まりあって玉森くんの吐息がもれるたび私もつられて呼吸がはげしくなる。
触れたかった愛しいものに触れられる歓びは私を高揚させていく、頬に手を添えて包むように止まらなくなって噛みつくように味わうようにキスをする。すこし瞳を薄めてもれる玉森くんの吐息に私の愛が混じりあっていた。
「舐めてあげるね、」
「は、ちょ…まじでやめろって」
眉間にしわをよせて嫌悪感を漂わせた顔も私には興奮材料にしかならなくて、玉森くんのそれに触れると体を震わせるあなたが可愛くて仕方ないの。
上下に擦ると先の方からあなたの興奮してる証が出てくるからそれを私は愛でて舐め上げる。
「…気持ちいい?」
「はぁ…まじで…やめろって」
「ねぇ、さっきから同じことしか言ってないよ?」
「…っあたり、まえだろ」
こんなの付き合ってもないのにおかしいだろって玉森くんは言う。
「…これがあの子になら嬉しいの?」
「…は?」
「あたりまえだよね…彼女だもんね、」
でもね、玉森くんが好きなあの彼女よりも私はずっと前から私は君のこと好きだったんだよ。ずっと見てたし、何にも行動しなかった私が自業自得なんだろうなって思ってたよ。だからね、こんなことは一度きり。君に嫌われていいから。
「…苗字?」
「だから…彼女には内緒だよ?」
そういって私はスカートをすこし捲し上げて彼の上に跨った、私は玉森くんだけが好きだからこんなことした事もないんだけど見たことのある知識でどうにか乗り越えようと思うんだ。
大丈夫、ちゃんと濡れてるし入るはず。想像してたよりも玉森くんのは大きいけどきっと入るはず。
そうやって入れようとしてたら目が交差して私は玉森くんの瞳が見たいくせに私の姿は見られたくないなんて矛盾が芽生える。
「…あんまり見ないで」
「何それ、こんなことしといて…」
呆れた顔でいう君。でもね私で感じるあなたを私は見たいけど、あなたで感じてる私は見られたくないの。だってきっとすごく嬉しくて変な顔してるし、あなたの綺麗な瞳に欲にまみれた醜い私を映すのはどうしても罪悪感が芽生えてしまうから。
「んんっ…きっ…つ」
「ちょ…無理やりすぎっ」
「もうちょ…っと」
「ちょ…やめろって。まじで後戻りできなくなる」
そうね、玉森くんの身体も心もあの子の物だって言うのね。だからかな、その言葉を聞いて余計に後悔してもいいから絶対に私のものにしたいって思ったの。
ぜんぶ入ったらもう好き勝手。熱くて硬くて心地いいあなたの物に支配された気になって必死で腰を振った、上手に飛び跳ねて目の前で涙に濡れるあなたの顔を至近距離で見つめてた。
声が枯れるくらい、愛を叫んで、名前を愛しんで。
ただ彼の泣きそうな声を私は聞いていた。感じたくないのか必死で声を我慢する姿が、溶け出しそうな瞳が、身体を震わせる彼が堪らなく愛しかった。
ああ、私だけのものに成ればいいのにと願いながら夢中で恋をした。そして腰を振った。
「あ、あっ…あん、」
「っ…はっ…ぅっ」
「ねっ…イキそう?」
「…うるさい、そんな訳」
「強がらないで、ねぇ…一緒にイキたいっ」
「ふざけんなっ…」
「ね…お願いっ、一緒にイこ?」
「まじで、ゴム…してねぇんだから」
「わかってる…だから一緒にいくだけ、ね?」
快楽のせいか真面な考えが出来なくなっていた玉森くんは顔をふいっと逸らして了承してくれはしなかったけど、もうどうにでもなれと言うのか許してくれた。だから私は彼の首に抱きついた。
「ふふ…嬉しいっ。」
絶頂が近づいてきて出し入れする速度を速める、中が擦れてもう感覚が麻痺してきた。奥がきゅんきゅんして締めつけもひどくなるのがわかる、その度に辛そうに心地よさそうに玉森くんの表情もすこしだけ歪む。ああ、今だけは私だけの物。
その時だった、気が緩んだのか跨ってた足を滑らして彼の胸板に倒れ込んでしまう。それと同時に今まで宙で出し入れしてたのに全体重があそこに掛かって彼のが奥まで貫く形になってしまった。思わず高い声がもれる。
「ひゃ…あっ…ぅ」
「…馬鹿っ」
なんとかイキそうになったのを堪えたのか身体をふるふると震わせて私を睨みつける。
「…あっ、」
「馬鹿…はやくどいて…まじで出るから」
「ご…ごめんなさいっ」
思わずいつもの敬語に戻って、腰を浮かせて抜く。すると抜いた瞬間に散る液体。間一髪だったなと彼に感謝してしまう。これは事故だったのだ。
「…はぁっ、」
玉森くんが大きな溜息をつくから今までと違う罪悪感が芽生えてつい謝ってしまう。
「ご…ごめんね?」
「…それどっちの意味で?」
玉森くんの口調はひどく怒っていて、あたりまえだけど彼が我慢してくれなかったら本当に危なかった。
「足…滑らせちゃって、」
「…そこは無理やり襲ったことだろ」
また深い溜息を吐く。私は不謹慎にもすこしだけ軽口で話してくれる玉森くんが嬉しくてつい笑ってしまう。そしたらやっぱり怒られた。
「わたし謝らないよ…」
「…は?」
「無理やりしたこと謝らないっ」
「…」
「すき…なの。」
「…っ、」
「玉森くんのこと好きだから、無理やりしたこと後悔してない。たとえ嫌われても後悔しないから」
だから今だけは見ないで。
私が泣く資格なんてないから、泣きたいのは玉森くんの方だから見ないで。
そうやって玉森くんの瞳を手で塞いだ。しばらく涙が止まらなくてどれくらいした頃かな、なんとか涙が止まって彼の縛ってた腕を自由にした。わりと強く縛ってたみたいで跡になっちゃって私はそれは全力で謝った。だけど彼はそんなことに怒ってはいないようだった。
「ご、ごめんね…ほんとにごめんね。」
「…」
「でもね…やっぱり後悔はしてないよ」
「…、」
「…それもごめんね、」
何にも喋らない玉森くんが何を考えてるのかわからなくて私はただ謝ってその場から逃げるように帰った。
気がついたら紫色の空をした朝焼けでこんな時間になっていたことに気づく、今日寝不足になることを詫びればよかったと検討違いなことを思いながら。
帰り道に思い出すのは、発情した彼の吐息と、深い溜息。それからあんなことをしても言葉は突き放すのに何だかんだ優しいところ。私のことを気遣って我慢して大事にならないようにしてくれた。
ああ、やっぱりどうしようもないくらい好きだなあ。
どうしたって嫌いにならせてくれない。罪な人。だからね、さっき止めたはずの涙がまた溢れ返してくるの。ただ玉森くんが好きなだけなのにね、どうしてこうも人生は上手くいかないんだろう。
fin .