小説3 | ナノ

爪先立ち



「ねぇ、待って…」

切羽詰まるように降り出した声は噛みつくような君のキスで塞がれてしまった。隙間もないほど密着して息すら吸えない。裕太くんのつけている香りが匂って其れだけがすべて塞がれたわたしの全てになる。


玄関に入った途端、荒々しく口付けされて後頭部と腰に手が回されて逃げ場はなくされた。彼が怒ってるのは私の所為だ。そんなに怒るような彼じゃないけどこれは私がいけない。


私と彼は一回りとはいかないが年の差がある、それがいつも悔しくて彼のそばにいれることが当たり前になるような釣り合う大人の女性になりたかった。裕太くんが目を追うような、あの人綺麗だなって言うようなそんな目に留まる人に私はなりたかったのだ。

そんな背伸びした行動、慣れない高いヒールを履いて今日は出掛けた。服装もすこし無理をして買った物を着て。これだってお店に入るだけで緊張したとばれたらきっともっと裕太くんと釣り合わないって差が大きくなって悲しくなるのだ。だからそれを隠して出かけたのに、気がついたら知らない男の人にしつこく声をかけられてなんとか巻いて帰ってきたら終電を逃してこんな真夜中になってしまったのだ。

いつも遅くなるなら連絡をいれるし、帰ってきて謝りもするんだけど今日に限っては巻くのに必死で連絡のことをすっかり失念していた。更には裕太くんの隣を堂々と歩けるような釣り合う女性になりたくてなんて口が裂けても言えなくてそんなことをはぐらかして説明している間に彼の怒りが頂点に登った。


「…その格好、誰に見せたかったの?」

ずっと押し黙って聞いていた彼の声を聞くのはいつもより低くて愛想がなく、しかもたった一言というのが怖かった。それから冒頭にもどり、噛みつくようなキスをされている状況に戻る。


「あの…裕太くん?」
「応えたくないんだったらいいよ、」

「…え?」
「言う気にさせるから、いつも手加減してたけど、今日はしないよ?」

口調は優しいのに声が冷たくて、更に背中に触れている扉もおどろくほど冷んやりしていてここが外に近いんだと思わされる。


「待ってここで?」
「…うん」
「やっ…こんなとこ外に聞こえちゃう」
「聞かせてあげたらいいじゃん、」

ぶっきらぼうに告げる裕太くんはやっぱり怒ってるし、冷たくて怖かった。するりとスカートの中に手が入ってきて秘密部に触れる。だけどそれはいつもみたいに優しい愛撫じゃなくて意地悪で私は必死で彼の首に手を回してしがみつく。

だけどヒールを履いていても埋まらない身長のせいで爪先立ちみたいになる。それが快感を煽って身体の熱が上がっていく。くちゅくちゅとやらしく響く音が反響する。細やかに動く彼の手が花びらの間を撫でて、たまに隠れた花の蕾をいたずらに弾く。その度に腰が砕けそうになって彼にしがみつく。だけどこれはそれを許してくれない。


「ほら、ちゃんと自分で立って」

舌を絡め合ってだらしなく垂れる私の唾液をあなたは手で拭って半端に脱がせた胸元に擦りつける。桃色の乳房が見えるとそれを口に咥えて舌で転がす。その間にも手は止まらなくて何度も出し入れされてだらしのない液がこぼれていく。

慣れない高いヒールで重点が取れない私ががくがくと震えて彼に捕まることも許されなくて申し訳ない程度に服にしがみつくのだけを許された私は彼を見つめて許してと懇願することしかできない。


「や、もう…立ってられな」

喘ぎそうになりそうな声を抑えてようやく振り絞って伝えたそれは彼の一言で片付けられた。


「…まだだよ」
「嫌っ…なにして、」

掴んでいた彼の服をそっと外されて、そういうところで優しさが滲み出るところも狡いと思った。しゃがみ込んで脚を開けさせられて間に顔を埋める。それから見上げて言うのだ。


「…びしょびしょ、」

そういって嗤っていつもならゆっくりと時間をかけてなるべく恥ずかしくないよいように、痛くないようにと必要最低限濡らす為の準備のようなもので優しく扱ってくれるのに今日の彼の舌はそうじゃなかった。

吸うような卑猥な音をわざと漏らしているようなそれを聞こえるように拡散するような行為、指についた滴る液体を私の目の前で舐めてみたりと淫猥極まりなかった。

花の蕾をちゅうちゅうと吸われて、彼の息がかかる度に止まらない愛液が悔しかった。彼にしか感じられなくなったこの身体が羨ましい。


しまいには、中に温かい湿り気のある舌が入ってきて侵されている感覚だった。と同時に彼の指が奥に当たって身体が仰け反ると自然に伸びた手が彼の頭を離そうと押しつけた。だけどそんな弱々しい力じゃ敵わなくて、弱く感じる其処ばかりを責め立てる彼にとうとう立てなくなって脚がガクガクと震えるのが止まらなくて泣きながら懇願するしかなかった。


「お願いっ…ほんとにもう無理、」
「駄目…」
「ごめんなさいっ…謝るから許して」
「駄目っ…」

「ゆうたくん…お願いっ…何でもするからもうこれだけは許して」

そういってようやく止まった彼の行動に私は力尽きて彼の方へと倒れこむ、それを抱きしめ返してくれる腕は優しくて背中を子供をあやすようだった。


「ほんとに馬鹿、それ一番言っちゃいけないやつでしょ…」

呆れたように言うけど、私は焦点が合ってなくてとろんとした瞳のまま彼を見つめる。それから自然と求めるように彼の唇に触れた。


「…裕太くんすき、だいすき。」

そういって彼の胸にもたれかかった、とくんと聞こえる一定の音がメトロノームのようで安心する。誰より裕太くんがすき、何かとなんか賭けられないけどきっとこの想いは本当だから疑わないで。


「あ〜もう…」

許してあげないつもりだったのに、と顔は見えないけどぎゅっと抱きしめ返されていつもの優しい甘い声にもどる。ああ、私はやっぱり君のその声のトーンが一番すき。自分勝手でごめんね。

うとうとしだした私に寝ないでと声が降ってくる、裕太くんのそれもまだ収まりきってないけど限界。


起きた時にどうしてそんなに大人ぽくなりたかったのと問われて、悔しくも裕太くんの為だと理由を聞いた彼がまた私に襲いかかってくるであろうことはまだこの時の私は知らない。


fin .






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