小説3 | ナノ
夢のまた夢を見ていたの
「…といっても教えられるほどじゃないんですけど」
春だし、ベリー尽くしの一品を作ろうということになりまずは食材を近くのスーパーに買うことにした。調理器具が全然ないという家とは違い、彼女の家にはたくさんあるようでお邪魔させてもらうことになったんだけど。
一人暮らしの女性の家に上がりこむというのは割と緊張する。
「まず、ベリーの調達ですね」
いるのは、苺とラズベリーとブルーベリーですねと言ってる俺は彼女の声が全然頭に入ってこなかった。隣にいる彼女のはじめて見る私服、いつも上げている髪がくくられていないこと。どれもが新鮮で気が気じゃない。
「…玉森さん、聞いてます?」
そんなことを考えていたらいつの間にかついてしまった彼女の家。両手には材料の入った袋をきちんと持っていた、やばい俺途中から記憶がない。
正直もうお菓子作りなんてそっちのけで彼女の匂いで充満されたこの部屋でふたりでしてしまいたい。そんなストレートなことを考えてしまう。いやいやでも落ち着け、俺。そんな最初からガツガツしてると嫌われる、というかまともに喋るようになってくれたのもつい最近のことだし、まだ彼女のことあんまり知らないのに。駄目だろ。
そんな自問自答を繰り返す。
だけどいつの間にか始まった彼女の料理教室は案外わかりやすくて料理初心者の俺でも簡単だった。