小説3 | ナノ

夢の

彼女からの連絡を待ってみた俺だったが一向に来ないので痺れを切らして俺からラインした。ほとんど一方的だけど無視はできないのか律儀な性格なのかきちんと返事を返してくれるのが嬉しかった。

彼女を好きになるのに時間はいらなかった。


彼女が人間として欠落してる部分はあった、会った時勿体無いなって思ったんだ。もっと愛想よく普通に喋ればあんなことも言われないで済むのにとお節介なことまてま考えてしまう。それは彼女には言わないけど。

彼女が優しい人だというのはすぐに分かった、図書館に行っても小さい子供やお年寄りには本を取ってあげて、探している人がいると自分から声はかけられないくせにそっと分かりやすいところに本を置いていたりと目につく。俺もそうすればよかったのかと邪な心が出てくるがそれを何とか収める。

ラインでもそれは伝わる、夜遅くに返事をするときは夜分遅くにすみませんと一言。ありがとうという時には必ず一回の文章で二回ありがとうが入ること。次第にようやく俺たちはすこし距離が縮まったように感じた。彼女も少しずつ自分のことを話してくれた。

言葉は選んで話さないと誤解を生んでしまうから怖いと。ゆっくり選んでいると遅くて相手を苛つかせることも、無視しているように思われることもあるのだと。何より言葉で人を傷つけることが怖いと彼女は言うのだ。


一度、なんでも良かった。なんて言われてもよくて返事なんて期待してなかったのに、俺が弱音を吐いた時があった。きっと誰かに聞いて欲しかったのだ。嫌なことが断れなくて嫌になると。自分で自分を嫌いになると。

すると彼女は言ってくれたのだ。


「断れない、はっきり言えない人は、誰かが傷つくのが嫌で、人の傷まで自分で背負ってしまう強くて優しい人だと思います。」と。

踏ん張ってればいつか笑えるのか、頑張ってればいつか報われるのか答えなんて見えないけど君が許してくれたような気がした。



お馴染みというべきだろうか、今日も今日とて図書館に訪れていた。といってもする事がなくて彼女の本を整理するのを眺めてた。といっても図書館では喋ることはない、だからかまだ彼女の声を聞いたことがなかった。だから大抵独り言だ。


「ん〜、これは手強いかなぁ」

まるで芸術のような菓子の写真がその本には載っていて俺では到底作れそうにない。だけどこれが作れたならきっと褒められるだろうなぁと思い耽る。今撮ってる映画はパティシエの役、宣伝なども兼ねて料理番組にも出演するが手早く綺麗なものが作れたらいいのだが自分の力量ではここまでのものは作れない。


「…無理だなぁ」

すると優しくふわりと降ってくるような声が聞こえた、それに俺はいろんな意味で驚きを隠せなかった。俺は頬杖をついて本を見ていた筈で、周りには誰もいない。いるのは彼女だけ。


「…私でよければ作り方教えましょうか?」

彼女が喋ったことにも驚き、出された提案にも驚き、正直ついていけない。待て、俺は何を言われたんだ。聞き間違いじゃなければ一緒に作りませんかと言われた。一緒に?


「…やっと、」
「…え?」
「やっと声が聞けた…っ」

思ってたよりも柔らかくて耳触りのいい優しい声だった、俺はつい嬉しくなって本から目を離して彼女の方を見る。今までほんとに独り言のようで俺が話しても返事は返ってこないのがあたりまえだったので特に本から目を離すことはなかったのに。

彼女もこちらを伺うように顔を覗き込んでいたので、距離はわずか数センチだった。彼女の髪がさらりと肩から落ちていて甘い花のような香りが俺の鼻先をくすぐる。

それに慌てた彼女が後ろに下がるので俺はそれを手を掴んで引き止める。


「…ち、近いですっ」

そしてその距離を離さない、ようやく近づけた気がしたんだ。触れる声の距離が近い、こんなにも近くに彼女を感じる。


「…は、離してください」
「…やだ、」
「なん…で、」
「だって本気で嫌がってないから…」

こんな狡い言い方をして卑怯だと思う、我ながらそうは思うけど止まらない。今すぐに彼女の存在を確かめたくて仕方なかった、この腕に閉じ込めてしまいたかった。


「…やっ」
「…ほんとに嫌なら逃げていいよ、」
「…っ、」
「でもそうじゃないなら…」

止めらんないよ、そう言って口づけた。触れるようなキスはふにゃりと形を変えて柔らかくてぷっくりした唇がすこし冷たかった。それが俺の熱を帯びていく。

顎に親指を添えてすこし下に引っ張ると閉じていた唇に隙間ができる、すると泣きそうな瞳でこちらを見つめてくる。その間から舌を滑り込ませて口内を犯す、というかここが図書館だったことに今気づく。すっかり忘れていた。


死角になった隅の机では人はほとんどいない、のをいいことに俺の拍車は止まらない。桜色をした唇が唾液で色濃くなって艶やかにきらめいていく、彼女は放心状態というのかまっすぐに俺を見つめて我に返ったように口を手で塞いで、顔を真っ赤に染める。それよりも耳が赤い。


「抵抗しないのは…そういう事ってことでいいんだよね?」

言質を取るかのような言い方で彼女にはを追い込む、卑怯な手口だというのは自分でも分かっていた。だけど俺も彼女を逃がしてやる気はない。だから顔を染めて小さく頷くだけで精一杯だった彼女を抱きしめる。そしてほっと息を吐く、それは甘い溜息。それから耳元でつぶやく。


「…色々、無理やりでごめん」

罪悪感はあった、強引すぎるのも理解していた。だけどやっと彼女を捕まえた。この腕に。

ひらりと落ちていく花びらを掴むように、彼女をようやく掴めたのは春も終わりそうな頃だった。


fin .






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