小説3 | ナノ

案外さ、其れだけで優しくなれるね

俺は懲りもせずまた図書館に来ていた、けど前までの俺とは違う。ただひたすらあてもない人を探すために来たんじゃない、彼女に会いに来たのだ。

明確な理由で堂々と胸を張れることが嬉しくて俺は浮かれていた、何も知らずに。


受付にいた彼女の姿を見つけて胸が高鳴る、春の日差しの光が柔らかくガラス窓から入ってきて彼女を照らす。もちろん彼女だけじゃないのだが、俺の目には映らない。それが頬や髪に優しく触れている、その横顔があまりに綺麗で見惚れてしまう。


そして意を決して声をかけた。

「あの…これあなたのですよね?」

今まで集めていた、というより自然に集まった紙切れの一部を彼女に見せた。というか意図的に集めてたなら俺、気持ち悪すぎるだろ。

ただ予想と違い彼女は首を横に振る。


「…えっ?」

彼女は俯いてまるで初めて会ったかのようなふりをする、いや確かに会ったのも二回目でほぼほぼ初対面だけどその反応はないだろ。

「いやだってこの字、」

どう見ても一緒だ。似ているだけと言われればそれまでだが俺には何か分からないけど絶対的な自信があった。だけど何も喋らない、肯定もしない彼女に俺はたじたじだった。

すると都合よく四十くらいの年の瀬の女性が横やりをいれてくれた。


「あら、何か借りられますか?」
「いや…そう、じゃなくて」
「ああ、この子喋るの苦手だから勘弁してあげて」

顔は可愛いんだけど、愛想がねぇ。と女性は言う。接待と笑顔がなくてこの仕事向いてないのよねぇと聞かれてもいないことをペラペラと喋ってくれる。それでもそれ以外の仕事、本の整理や発注などはきちんとしてくれるから助かるのだとまた聞いてもいないことをペラペラ喋る。

俺は絶対的な自信があって、彼女との繋がりを消したくなくて近くにあったメモとペンを握る。そして自分で思うのだ、どうしてこんなに必死になっているのだろうと。


「…これっ」

それを不思議そうな顔はしてるけども、その紙切れは受け取ってくれた。それだけのことが嬉しかった。


「話すのが苦手ならLINEでなら話してくれますか?」

いつでもいいのでお話してくれませんか?
まるで恋する中坊みたいだったがこうするしかなくて半ば無理やりその受け取った紙切れを返されないよう手を後ろで組んだ。

それから誰かが入ってきたのか後ろの自動ドアが開いて、風がふわりと押し入ってくる。すこし隠れ気味だった彼女の前髪が浮かび上がって額が見える、そしてその瞳も。

その瞳はまっすぐに俺を見つめていた。

声は聞けなくても、君の瞳に俺はいた。


fin .






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