小説3 | ナノ
曖昧におわるんだ
変なメモがあったその次の週、俺はまたその図書館に来ていて料理本を探していた。するとまたひらりと落ちてきた、メモ。
幾つか本を見ていくとまるでわざとなんじゃないかってくらいメモが挟まっていた、けれど俺が見るものみるものに挟まれているので段々と宝探しのような気分になって気がつけばその本を探していた。まるでメモがなかったら外れの本だと言わんばかりに。
そしてこれが誰なのかすごく気になった、それというのもただの興味本位だけではなかった気がする。そうでなければ俺の性格上ここまで気になりはしないと思う。何か惹かれるものがあったんだろう。というのも書かれているのがどこか憤り感があるからだ。その字も綺麗な字というよりはすこし雑でほんとにメモ書きと言ったような書き方の字だった。
「料理の適量ってどれくらい?」
「それがわかれば皆、料理本なんて見なくて済むから」
それに思わずくすりと笑ってしまうくらい。確かに俺も思う。適量って人によるだろうって。
スプーン大さじというのもどのスプーンが標準の大きさだよ、と憤慨してしまう。料理がまるっきり分からない人には酷な表し方なのだ。
それに憤慨している彼女はどこか自分と似ているんじゃないかって自意識過剰になって、会ってみたいというよりもどんな人なんだろうと興味があった。
俺はこの本を借りたことがある人のリストを見ればわかるだろうと思ったがそれを調べてもらったが果てしなく借りた人が多くて調べる気力を失った。
家に帰っても悶々とする日々、それからストーカーぽいとは思ったが犯罪すれすれといったような気もするけどメモが挟まっていた本をいくつか取り合わせて借りた人の名前を照らし合わせた。それで重なる名前を探したがそれでも意外と多い。しかも、名前も歳も性別さえ分からないのでは探す手立てもない。わかるのは字の筆跡だけ。
けどなぜか俺は絶対的に女性だと決めつけていた、そうであってほしかったのだ。きっと俺はこの人を好きになるといった直感があったからかもしれない。その感情にはその時は知らないふりをしたけど。
そんなある日、撮影が終わったのが遅くて閉館ぎりぎりに駆け込んで本を借りたのだが帰る間際に前を見ていなかった不注意のせいでそこの司書さんにぶつかり、本を運んでいた箱を派手に落としてしまった。
「わ、すみません…」
慌てたように司書さんは拾い上げるので俺も手伝う、本を拾うのに夢中で向こうは気づかなかったみたいだけどお互い同時に気づいたものがあった。仕事のメモだろうか、色んなスケジュールが書かれているそのメモ帳が開けて落ちていた。それに手を伸ばすときに気づいた、この筆跡を見間違うわけがない。探すあてもない、何も知らない、筆跡だけが唯一知るもの。
「…この字、」
つい口から出てしまった言葉、拾おうとすると重なり合う手。それは女性特有の細くて長い綺麗な手だった。
そして目があった、なぜか瞳は怯えているようで焦りなのか何なのか分からないけどその瞳はすこしだけ困惑していたのは分かった。すぐさまそのメモ帳を拾い上げて立ち去ろうとする彼女の手を掴んで俺は引き止めた。やっと会えたんだ。
「…待って、確認したいことが」
すると彼女は頬を赤く染めて俯くからそれにつられて俺も力を弱めてしまう。するとそれを見計らったようにするりと抜けだす。
「あ…待っ、」
言い切らないうちに軽くお辞儀をして彼女は去ってしまった。だけどあんな一瞬でも顔は覚えた、想像していたのとはすこし違った、強気な発言からは思いがけない印象だったから。
だけどあの手を掴んだとき、ようやくいつも掴めなかった花びらが掴めたような気がしたんだ。
やっと君を見つけた。
fin .