小説3 | ナノ
必然などまるで信じない運命の人
恋人になって何回目になるか数え切れなくなったいつもの休日デートの日。なんとも春の木漏れ日があたたかい快晴の日だった。彼女の黒髪が日差しに透けてやわらかな赤みのある春色に染まって向けられる笑顔が可愛くて調子が狂う。付き合ってずいぶん経つのに俺はいつまでこうなんだろうか。
彼女と出逢った頃、俺はちょうど当時付き合ってた彼女と別れたばっかりでそんなに好きだったという訳でもないと強がりをいうくらいに好きだった。だからはじめて彼女に逢ったとき素敵だとは思ったけど俺の好きなタイプではなかったし傷心したてで態度も悪かったし、だから彼女のことは全然好きじゃなかった。
だから俺は言ったんだ。
「俺は君をすきにはならないよ」って。
今ではあの頃の俺よ死んでしまえ、と思うほど彼女に盲目だ。それでもやっぱり俺の好きなタイプと聞かれればそうでもない。だけど今では何をしても彼女のする一挙一動が可愛いと思えて仕方ない。
「ゆうたくん?」
そうやって顔を覗き込んできた彼女に回想から連れ戻される。さらりと肩から流れる髪が俺の鼓動を攫う。動揺を隠して俺は問う。
「あ、なにどうした?」
「うん、あのね」
これどっちの方がいいかな、と問うてくる。よく女子のこのどっちがいいという質問に男は辟易するらしいが俺は別にそんなことはない、寧ろ意見を委ねられるのが頼られてる感じがしていい。それも彼女が言うからなのだろうか。
「春だしね、差し色でそっちの冒険した色でも可愛いけどね」
「やっぱり?」
でもねこっちの色もめったに見ないいい具合の大人しい色合いで捨てがたいんだよなぁと悩む彼女に笑みがこぼれる。ああ、もうほんと可愛いな。どうにかしたくなる。
「ゆうたくんって私のこういう買い物付き合ってくれるけどつまんなくない?」
大丈夫かと聞かれてそんなこと微塵も考えたことがないと頭を過ぎる。
「うん大丈夫。それに俺とくに靴すきだし」
「そうなんだ、女性ものも?」
「男性ものもすきでよく俺も自分の靴たくさん買っちゃうけど、女性ものも見るのすきだよ」
「ふーん」
「やっぱり男はヒールのある靴なんて履けないし、種類も多いしね」
見てて飽きないよというと俺があまりにも楽しそうに喋っているのが面白かったのか彼女はくすくす笑ってる。それが恥ずかしくて俺は話を逸らした。
「それでどうするの」
「ふふ、顔少しあかい」
「もういいから」
「春色だ。」
「もういいって、恥ずかしいからやめてほんと」
「でもほんとにどっちにしようかな」
最終的にどっちが似合うと聞かれてやっぱり俺は彼女に似合いそうな大人しくて控えめな色のほうの靴にした。
「サイズは?いける?」
特に問題なしということでお買い上げした。会計を待ってる間あらためて彼女の靴のサイズを確認して聞いていたがやっぱり小さい、男と女にはこんなにも差があって君がこんなにも小さくて消えてしまいそうなのがなんだか怖くなってしまった。
それから食事をした。お酒が弱い彼女は甘めのカクテルを一杯。これで十分だ。彼女は物足りなそうな気もしていたがあんまり酔っている彼女を他の男に見せたくない。酔った彼女はふわふわと誰かれ構わず付いていきそうで気が気じゃないからだ。彼女の出されたお酒は桃とピンクグレープフルーツの混じったカクテルで交じり合ったリキュールが境目をつくっていた。
俺は対照的にジントニックを頼んでいた、この酒がおいしい店は大体どの酒も美味しい。
食事が終わってから彼女が席を立って手洗いに立って戻ってきたときその唇が先ほどより潤って赤みを増していた。化粧直しだったらしい。そんな些細なことに気づける自分が少し女慣れしているような気もしてすこし自負の念が押し寄せた。
「紅、ひきなおしたんだね」
「え、あ…うん」
照れたように下を俯く彼女が可愛い。って俺重症かもしれない。そんな気がして軽く頭をつつく。くらくらするのは酒に酩酊してるのか、それとも綺麗な夜景に同調されているのかきっと理由は単純で彼女に恋をしているからだ。そしてこの時彼女は幾つめかの嘘をついた。それを俺は馬鹿みたいに誤魔化されて気づけなかった、脳内お花畑でいい気なもんだった。
車の中で家についてなかなか降りれずに沈黙の中、さっきの理由を聞くことにした。
「俺とキスしたかったから?」
そう言って応える前にその口を塞いだ、もう我慢ができなかった。これでも我慢したほうだ、俺はいつだって彼女に触れたいと思ってるから。やわらかな感触が触れる。それは思いのほか甘くて味なんてしないのにもっと深く彼女を求めたくて後頭部を固定して食らいつくかのようなキスをする。そして唇が離れるとようやく応えた。
「ばか、えっち。」
「えっちでいいよ」
そう言って俺は止まない欲を彼女に求めた。触れると彼女はすこし熱っぽくて火照っていた、瞳は潤んでまるでドラマのワンシーンみたいだ。仕事でもこんなにも感傷的にならないのに彼女といるといつも鼓動が静まらない。俺はあと何回繰り返せば彼女に慣れるのだろうか、きっとそんな未来は見えない。
fin .