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花に噛みつく

「まじ、はじめて?」

シーツに流れる髪、見下ろされる感覚、全てが初めての感覚で心臓の音がうるさくて気を失ってしまいそうだった。慧くんとはじめて会った日から半年、とうとうこの日が来た。


「胸、小さいけど嫌わない?」

そんなことを言うと、そんなこと気にしてたのって言われて大きいのでも小さいのでもなんでも好みです、なんていつもの軽口を叩く。


「…脱がせていい?」

その普段よりより低い声と静かな夜のせいでいつもと違う空気が流れた、緊張が増す。着ていた服を脱がせていかれる、なんかこれ恥ずかしい。しかもいつでもと思って準備していた勝負下着のはずなのにそれを見られるのさえ恥ずかしい。白地に花模様が描かれていて真ん中は赤いりぼん、お揃いのショーツはそのままでブラははぎ取られた。


「…あんまり見ないでっ、」
「それ無茶な質問じゃない?」

私と違って余裕そうな反応に苛立つ、もちろん慧くんははじめてじゃないんだろうな。それがなんだか悔しい。


「…慧くんのはじめてってどんな人だったの?」

「それほんとに聞きたい?」
「…っ、」

「聞きたいなら別に話すけど、いいの?」
「…やっぱり、やだっ」

泣き目で訴えると頭を撫でられて、まあ俺が初めてじゃないのはごめんって謝られた。それから耳元ででも、と呟く。


「…その代わり上手いよ、俺。」

そう言われて複雑な気持ちだった、それから気持ちよくさせる術知ってるから覚悟したほうがいいと言われて逃げ腰になった。

それから私の乳房に舌を這わせる、まるで花を噛むみたい。桃色のそれに慧くんの桃色の唇がくっつく、それがこんなにも変な気分にさせるだなんて。思わず手が動いて抵抗しようとすると簡単に押さえつけられてしまう、可愛い顔しててもやっぱり男の子なんだって知ってしまう。


「や…っ慧く…その舐め方やぁ、」

キスだって最近ようやく深いキスにも慣れてきたのだ、なのにそれ以上に執着に絡める舌が視界に入って頭がぐるぐるする。慧くんの舌で掬われたり、頬張られたり、吸われたり、甘く噛まれたり。身体の奥が疼いて仕方ない。


「…そんな初々しい反応されても困るんだけど、」
「は…っぁ、も…ぉ駄目」
「…もっと苛めたくなる」

ついまた手が伸びると、邪魔と言われて押さえつけられる。何回かそれを繰り返すと慧くんがとうとう痺れを切らした。


「え、やっ…なに?」

くるりん、と手首を返されて一緒に巻きつかれたタオル。後ろ手で縛られた。なにこの技術、どこで学んだの。


「…邪魔、」

ちょっといつもより乱雑な言葉になって余裕がないように感じられた。そのまま寝転がされると足を開かされる、思わず閉じようとするけど間に入ってきて閉じられない、しかもそこに顔を埋める。


「…ちょっ、それほんとに駄目」
「駄目じゃないでしょ」

きっと染みをつくってる其処を下着の上から舌を這わせる、段々濡れてくると溝のふちをなぞられて腰が浮く。


「ひ…っぃ、あぁ…んぅ」
「…なに、可愛い反応しちゃって」
「お願いそこ駄目っ…やぁ…馬鹿ぁ、」

身動き取れない状況で余計に感じてるのか身体の中からどろりと何かが溢れ出したのがわかった、散々弄んだらすこし下着をずらして長い指が入ってくる。最初は痛みに顔を歪めたけど、擦れるたびに何か違う感覚に変わっていった。慧くんのものがわたしの中に入ってる感覚が変で、それでいて官能的で生理的に涙が出た。


「…泣くほど気持ちいい?」
「違…っう、」

必死で反論するけどそれが気に食わなかったのか慧くんの指が一本から三本に増えた。


「嘘つきにはお仕置き、」
「やぁ、酷っ…」
「俺、素直な子がすきだからなあ」
「…っ、」

そう言って何度も出し入れをするから絶頂にいきそうになる、だけど迎えそうになると一度止めてまた動き出すの繰り返し、そのもどかしさから更に感じて快感が止まらない。


「言ったらやめてあげるよ?」

「…んぅ、気持ち…いっ」
「…その顔、やばい。」

顔は見れないから横を向いて恥ずかしくて堪らないのを押し殺して精一杯告げた言葉、なのに慧くんの指は止まらない。


「やぁ…なんでっ、」
「名前が悪いんだよ」

可愛いから、そんなこと普段冗談でしか言わないくせにほんとにそう思ってくれたんなら嬉しいと思った。慧くんの周りには綺麗な人なんかたくさんいる、その中で私なんかが可愛い訳がない。でもそれとこれとは別。


「言ったら…やめてくれるって言っ…たのにっ」
「それはマジごめん…止めらんない、」

とうとう絶頂を迎えようとした時に感じた異物、それはさっきの物とは計り知れなくてもう勝手にほどけて自由になった手で顔を隠した。それさえ引き剥がされて私の感じる顔を見下ろす、こんな慧くん見たことないよ。


「あ〜入れちゃった」
「やぁ…痛いっ、」
「中…気持ちいい。」

私のことなんかお構いなし、腰を振る速度も早い。わたし初めてなのに。大丈夫すぐに慣れるからなんて根拠のないこといって止めてくれない。わたしは痛みと快感で身動き取れない。


「ね、やばいね、これ…」
「…わ、かんないっ」
「すごい締まってるよ、ほら。」

奥までつかれて一瞬息がつまる、わたしは何かに堪えるのに必死で慧くんの腕を強く握りしめる。たまに頭を優しく撫でてくれるのだけはせめてものの優しさだとしても酷い。


「…ほらここ、俺のこと離したくないって締めつけてくるよ」

「ひ…っん、んんっ、あん…奥まであたって」
「それにちゃんと応えなきゃね、」

噛み合わない会話、繋がる部分だけは素直で受け入れてしまってるわたしの身体も、わたしの身体に挿入してる慧くんのも誤差のないように締めつけて、締めつけられて快感が高ぶっていくだけだった。大きく身体を揺さぶる慧くんはなんだか嬉しそうで気持ち良さそうでわたしはそんな余裕なんかなくて熱い塊に射抜かれてどこかに飛んでいきそうな思考を必死で止めた。

息遣いと喘ぎ声が激しくなって揺さぶる身体も限界に達すると何か熱いものが放たれて一気に脱力した、ただ呼吸することだけを覚えているようにその場から動けなくなる二人。


「…名前可愛いすぎ。」
「…慧くんらしくないよ」
「こんな俺、他じゃ見せないもん」

「…わたしが特別?」
「…あたりまえじゃん」

ならこの痛みも倦怠感も許せるかなって思った、だけどとりあえず瞼がもう上がらなくて必死で慧くんの前の空いたシャツの裾をつかんで離さないまま気が途切れた。


花に噛みつく
( 甘い花ほど )
( 中毒になって止められない )

fin .





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