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子猫の甘い結末


わたしが猫だったらいいのになあ、って思った。ほら猫って温かいし触り心地よさそうだし、もふもふしてて思わず触りたくなるでしょ。そんな特権がほしかった。

だからと言ってほんとうになるとは思わなかった。気がついたら4本足で見慣れない街を歩いていた、なんだかお腹もすいてきた。そういえばどうやって生きていけばいいんだろう、猫の世界にもルールとかあるのかな。そんな的外れなことを考えて歩いていた、昨日まで普通に仕事していて部屋で眠ったはずなのに今はわけのわからない道を歩いてる。

知ってる道にも出なくて心細くて歩き疲れて休んでると急に体が宙に浮いた。


「…お前、迷子?」

そうなのかな、でもね家にも帰れないの。どこに家があるのかもわからないから。困った顔をしたのが伝わったのかすこし汚れた毛並みを撫でてくれて家に連れて行ってくれた。シャワーは気持ちよかったけど触られたくないところも洗われちゃって複雑な気持ちだった。これいつ人間に戻るんだろう、てか戻ったらやばくないか。

まさか、自分の彼氏に拾われるとは思わなかったなあ。そう思いながら慧の部屋を見渡す、何回も来てるから新鮮味はない。


「よし、綺麗になったね」

ドライヤーで乾かしてまでもらっちゃって私だからいいけどこれ他の子にもやったら嫌だなあ、なんて猫相手にも嫉妬してる。心狭い子だな、わたし。

上から心地のいい独り言が聞こえる。すこし男性にしては高い声、たまに愚痴を言うとき言葉遣いが悪くなる。これ私だから聞いちゃってもいいんだよね、猫だから誰にも喋れないし、喋ろうとも思わないからね。だけど慧が撫でてくれる手が温かくて眠たくなってきた。

すると急に頭を撫でていたのに顎を触ってくる、それから耳の裏。そこ弱いからあんまり触らないで。気持ちよくなっちゃう、甘い声が出ると慧も嬉しそうで手を止めない。


「…なに、気持ちいいの?」

にゃぁ、と鳴くと抱っこされてキスされる。それからまた頭をくしゃくしゃって撫でられる、この感じなんかいいなあ。そんなことを思い浮かべてたらまた夢の狭間を行き来する。



「…名前、名前?」
「…ん、慧ちゃん?」
「こんなとこで寝てたら風邪ひくよ、」

そういって見渡せばソファーの上だった、そっか慧の帰りを待ってる間に寝ちゃったんだ。起こしてくれた慧ちゃんにお礼を言って上体を起こすとシャワーを浴びたのか髪が濡れていてタオルを首に掛けていた、それからキッチンで何か作ってる。


「ごめんね、寝ちゃってて」
「いいよ、別にむしろベッドで寝てくれてて良かったのに」

そしたらわざわざ起こしたりしないのに。と言われてそれは嫌だと言い返す。


「…慧ちゃんに起こされるのなんか嬉しいからいいんだ」

「なんだよ、それ」
「だって起きたら一番に慧ちゃんに会えるんだよ?」

幸せでしょ、と返すと馬鹿だなあと返されて隣に腰かける。目の前には入れたてのホットミルク。なんか猫に上げるような飲み物だなと思いながらまあ冬だからホットミルクかと納得して頂いた。なんか温かくてまた眠たくなってきちゃった、慧ちゃんも帰ってきたしはやくベッドで寝よう。そう思ったら慧ちゃんが話しかけてきた。


「なんか夢みてたの?」
「なんでわかるの?」
「なんか嬉しそうだったから」
「うん、慧ちゃんが出てきた」

「どんな夢?」

いつものたれ目で此方をみる、なんだかリアルな夢だったなあと今更ながらに思う。そして夢なんかすぐに忘れちゃう方なんだけどこんなにはっきり覚えてるなんて愛の力なのかな、なんてね。


「教えない。」
「はぁ、なんで?」
「なんででも。」

そう言うとちょっと不機嫌そうになってそれからまた得意げな顔で横目に見てきた。持っていたコップをテーブルに置いて私の脇腹にするりと手を伸ばして抱き抱えた、夢と違ってすこし重そうに。そりゃ人間だからね、まあ慧ちゃんからしたら私なんか小ちゃい方なんだろうけど。慧ちゃんの膝にまたがるような形で真正面で向き合う。


「なら、言う気にさせるだけだな」

そういってわたしのパジャマのボタンを外していく、キャミソールが見えて抵抗しようと胸を押し返そうとするとその手首をとってキスにはぐらかされる。こういうとこ本当にずるい。

執着するようなキスをして吐息がこぼれる、力が抜けてきて体重を慧ちゃんに預けるとむくりと大きいものがあたる。


「…なっ、」
「もう勃っちゃったんだけど?」

早いって言おうとしたらキャミの中に手が入ってきて胸を揉まれる。ていうかそんな触り方しちゃ駄目。ずるいよ、そんな触り方。


「…あ、やぁっ」
「言う気になった?」
「わかった、もう言うから」

大したことでもないし、隠すことでもないし普通に話そうとしたら唇にやわらかい感触。ふわりとマシュマロがぶつかるような感覚。


「駄目、まだ言わせない。」

それ結局、慧ちゃんが都合いいだけじゃんと謀られたことに気がついたのは真夜中の2時。ああ、もうさっきまでの眠気なんか飛んでいっちゃった、だけど目の前の嬉しそうな楽しそうな慧ちゃんの顔を見ると怒る気にもなれなかった。

子猫の甘い結末
( いたずらな人に )
( 可愛がられてしまいました。)

fin .





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