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ぐるぐるまわる


次の日、なんだか彼女と顔を合わせずらかった。いつも見せていた無邪気な笑い顔でさえも昨日みた君の顔が浮かぶから。


「…大ちゃん聞いてる?」
「え…あ、うん。」
「うそ、今の絶対聞いてなかった」

「ごめんって。」

そういってお弁当のウインナーを口に頬張る彼女、だけど昨日までの何も知らない俺じゃないから可愛いなあなんて思えない。あの口で知りもしない電話の相手とそういうこともしてるわけで、あの恍惚とした彼女の顔が浮かんで消えない。

すると彼女が得意げに仕方ないなあ、と呟いた。



「私はとっても優しい、なので大ちゃんに許しを与えよう」

「何それ、」
「駅前の新しくできたケーキ屋さんで奢ってくれるなら許してあげよう」

そういう彼女、だけど俺はそのお箸を持つ手も昨日の液がついて絡まったものにしか見えなくて、見えもしないのに昨日見た下着さえ鮮明に思い出せるほど頭から離れなかった。もう彼女を昨日みたいな何も知らないままで見られない、ああ俺まじで変態ぽいじゃんか。


「今日の帰りだからね、」
「はいはい…」

それからお礼にと卵焼きを一つくれた。


「…これでお礼って見返り軽くない?」
「文句いわない、わたしの手作りだよ」

彼女はお弁当を自分で作ってるのは知ってた、だけどそれを聞いて少し嬉しくなった。彼氏じゃなくても彼女の手料理を食べられるなんて。卵焼きくらいで手料理って大げさかも知れないけど。

その卵焼きは甘くて俺好みの味だった。すると目の前で彼女が花が咲くみたいに笑った。


「大ちゃん、元気なかったから特別だよ」

とかいって本当は上手くできたから大ちゃんに食べてほしかったんだと言って笑う彼女は無垢で昨日まで俺が知っていた彼女のままだった気がした。


「そんな人に奢らせるのはいいのかよ」
「それはそれ、これはコレだよ」

そうやって花咲く季節に同化するように笑う彼女は頬も桃色に染めるから可愛くてつい頭をくしゃりとした、すると髪型がくずれるといって怒るから、調子に乗ってもっと頭を撫でると帰りのケーキ屋で俺の財布が泣かされた。


ぐるぐるまわる
( 色んな感情 )
( 本当の君を知りたくて、知りたくなくて )

fin .





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