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"君がすき"

やっぱり改めて君がすきだと思った、何をしててもどんなことでも君の一挙一動が可愛くて、眉をしかめて怒ったり、頬を染めて照れてたり、遠慮がちに笑ったり、お世辞にも綺麗といえない泣き顔だったりそれでも俺はすき。

そのぶさいくな泣き顔を馬鹿にする人がいるなら俺だけは好きでいてあげるだとかクサイ台詞だって恥ずかしいけどいってあげるから、俺を好きになればいいのにって思う。俺を好きだったらなって思わずにはいられない。


彼女とは同じ大学、同じ学科のいわゆるクラスメイト的な存在でしかない。だけど俺は初めて会ったときから恋心を抱いていてそれに気づいたのは彼女に彼氏がいると知った時。いない、なんて訳ないと思ってはいたけど実際いたって知った時はちょっと胸が苦しかった。

くだらないことで笑いあえる友達、だけど意識せずにはいられない僕の好きなひと。そんな人がまさかそんな人だったなんて思わなかった。



「…ん、っ…駄目」

今日の講義が全部終わって俺も帰ろうとした時、部屋の前の傘立てに傘を忘れたのを思い出して駅の近くまで結構歩いたが明日も雨が降ったら傘が一本しかない俺は困ると思って戻ったら、彼女が一人でそういうことをしていた。

俺は息をするのも忘れて静かに部屋を覗いた、取っていた講義がそんなに人気のないものだったから部屋もそんなに広くなくてこじんまりとした部屋だったけどそのせいか部屋に彼女の声がよく響いた。

そして彼女が誰かと電話していることがわかった、スピーカーにしていて向こうから声が聞こえる。


「…見えない、もっと見えるようにして」
「…でもっ、」
「早く、」
「…やっぱり駄目だよ、誰がくるかもわかんないし」

どうやら彼女に一人でするように言ったのはこの相手だとわかった、俺は見たら駄目だと思いながらも高揚感に浸って目が離せなかった。純情だと思っていた彼女の淫らな姿、好きなひとの顔が火照るようなそんな恍惚な表情をみて興奮せずにはいられなかった。



「…ほらもっとよく広げて見せて、」
「ん、っ…んん」

「指…増やして、」
「…っふ、ぁ」

「…イキそう?」
「…あっ、もう駄目ぇ」

言われるがままに応える彼女は純情なままでそこが可愛くて、その指図をするのが俺であったなら、またそれに応える彼女を想像するとひどく興奮した。息がしずらくなって胸が締めつけられるような感覚がした。だけど彼女の発した一言で急に冷める。


「…んぁ、…涼介っ」

その名前は彼女の彼氏の名前だった、そのまま達した彼女は蒸気を発していて溶けそうな目で放心していた。

それに俺は一つの感情が芽生えた、それは色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざりよくわからないものだった。ひとつは嫉妬、彼女を好きなように指図できる彼女の所有物である名前しか知らない相手に。ひとつは悔しさ、俺の見ていた、知らない彼女がいたこと、そしてそれを当たり前のように知っている相手。ひとつは絶対に俺のものにはならない彼女のこと。

もう一つは、彼女自身が周りの目なんか気にせずそういうことをしていたことに頭がパニックになった。彼女には涼介という彼しか見えていないこと。


"君がすき"
( それはきっと僕がきみに )
( 一生いえない言葉 )

fin .





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