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はつはる
わたしは今日、はじめてのデートをする。それは好きな人じゃなくて、でも相手は優しい人でわたしの好きな人と負けないくらい綺麗な顔立ちの私にはもったいない人。
わたしの好きな人といえば好きな子をデートに誘う方法を私に聞いてくるような人、わたしが大ちゃんのこと好きなこと知らないから仕方ないんだろうけど。わたしだけに教えてくれた大ちゃんの好きな人、それはわたしだけに教えてくれた特別感と知りたくなかった事実の両方をもたらして心はぐちゃぐちゃ。
そんな時わたしに告白してくれた人がいた、ずっと好きだったと。返事はいつでもいいと言ってくれた、それは。
「…名前ちゃん大ちゃんのことすきでしょ?」
「なんで?」
「名前ちゃんが大ちゃんを見てるのと同じくらい俺も見てたんだよ、ずっと」
名前ちゃんのこと。そう言われて心がきゅうって苦しくなった。好きな人に好きになってもらえない気持ちをこの人は知ってる、それでいて知っててもなお好きだと伝えてくれた。
「今…返事聞いたら駄目なのわかってるからさ、友達からはじめよう」
「…」
「…それでちょっとでも好きって思われるように頑張るから」
そしたらその時、返事聞かしてくれないかなって泣きそうな顔で笑っていうから。了承した、はじめてのデート。いろんな意味で緊張する、洋服でこんなにも悩んだりして、でも大ちゃんとはじめてのデートだったらと思うと悲しくなる。こんなにも一生懸命に選んでも会うのはわたしの好きな人じゃない、伊野尾くんはすごく良い人だけどやっぱりはじめてのデートは大ちゃんとしたかったよ。
駅に着いて待ち合わせ場所に行こうとするといきなり手首を掴まれた、驚いたけどこの手の感触は覚えがある。
「…なに、粧しこんで?」
「…大ちゃん、」
「デート…?」
そういって眉間にしわを寄せる、私を好きじゃないくせにそんな顔しないで。期待なんてもうしたくないの。
「そうだよ…悪い?」
「…駄目、」
「…は?」
「…行ったら駄目。」
「なにそれ大ちゃんに関係な…」
「…ある」
「離してっ…」
「だめ、絶対行かせない」
「大ちゃんなんか勘違いしてるよ」
「なにが?」
「仲のいい友達が他の友達に取られるのが嫌なだけなんでしょ」
だったら放っておいて。大ちゃんがいったんじゃん。あの子が好きだって。どうやってデートに誘おうかなって人の気持ちも知らないで誘って。道路の脇道に植えられた桜並木の花びらが舞う、それが視界に入ってきた、こんなにお洒落しても大ちゃんが見てくれないんじゃ意味ない。
すると掴んでた手を引っ張られて抱きしめられる、大ちゃんの匂いがして好きが溢れる。やめてよ、こんなにひっついたら好きって気持ちが抑えられなくなる。それが涙になってこぼれる。
「…違うくないよ」
「…え、」
「俺は名前がすきだよ、」
「…でも大ちゃんっ」
「ごめん…都合いいけど今気がついた」
「…っ、」
「名前を誰かに取られるの嫌だ」
「なに…それ馬鹿、ずるいよっ」
ぎゅうっと強く抱きしめあってさっきまで皮肉に思えた花びらが祝福してるみたいに舞う。私も都合のいい見え方をしてる。
「俺のそばにいて…すきだよ。」
「…って」
「…え?」
「もう一回…言って…っ」
「…俺のそばにいて、名前がいないと駄目だよ」
そういって口づけをした、けど桜の花びらが二人の唇にちょうど割り込んできて塞がれる。それに二人してすこし微笑んだ。
「…邪魔された、」
「ね、もう一回…やり直し。」
そういってすこし濡れた唇でキスをした、目元を拭っているとまた噛むようにキスをしてくるから離してってさっきまでみたいにいうけど離してくれない。
「…駄目、もう離さない」
それから伊野尾くんに電話した。そして胸が痛くなった、誰かが幸せになると誰かが悲しむっていうのは抗えないみたい。電話越して何かを言おうとする前に、声が聞こえた。
「…よかった、」
「…え?」
「大ちゃんと上手くいったんでしょ…」
「…うんっ」
「俺名前ちゃんの笑った顔すきだからさ、きっとこれからはもっと幸せそうな顔見れるよね」
いつも私は笑っててもそれは上手くなかったのかもしれない、ずっと見ていてくれた人が言うんだもん、間違いない。ごめんねとは言えなかった。今度からはほんとの嬉しい顔見せられると思うから。
「…これからも見ててくれるの?」
「…うん、俺は名前ちゃんが好きだから」
それだけは譲らんない、って震えた声で言うから私も声が震えそうだった。ありがとう、伊野尾くんのわたしを想ってくれる気持ちがあまりに純粋で嬉しくなるよ。
「…名前?」
「…ん?」
「電話おわった?」
「うん、」
「じゃ今からは俺だけを見て」
そういって差し出してくれる手に掴まってはじめてデートをした、桜が舞う綺麗なこの街で好きな人と手を繋ぎながら。こんな幸せなことってないね。
ねぇ、今日からはわたし…ちゃんと笑えてるよね。
はつはる
( はじめてのきみ )
( 全部をいちからはじめようよ )
fin .