※10話ネタです


結局一点差で敗退を迎えた野球試合の後、男子のみで騒がしい更衣室で渋い顔をしたスガタがタクトを呼び止めた。なんだろうと首を傾げるタクトに、スガタはひとつ溜息を吐くとタクトの前に屈んでその剥き出しの足に触れた。瞬間、タクトの全身が強張る。
「っいった…! ちょ、スガタ、いたいっ」
「まったく……当たり前だ、あんなに勢いよく滑り込んだんだから痛くないはずないだろう」
触れるタクトの足には乾いた泥と血に紛れ無数の擦り傷が痛々しく刻まれていた。それに足だけではなく腕も同様に。
試合中に盛大に滑り込んだ上、二組名物の双子の姉であるヨウ・マリノを巻き込んでの転倒劇を思い出し、スガタは僅かに眉を寄せた。その後も度々会話を交わしていた2人の様子にスガタはずっと落ち着かなかった。
タクトが自分から他人に声をかけるのは、どちらかと言えば珍しい。
人懐っこい性格に見えて存外警戒心が強いのか、タクトは話しかけられれば答えるもののその逆は少なかった。自分にも他人にも興味がないとスガタを評したタクトもまた同じだと感付いていたからそれも不思議ではなかった。そして、例外としてワコが特別であるのも出会いを考えれば可笑しな話ではない。
だからこそ、先程のようにタクトから屈託なく接しているのを見るとえも言われぬ思いに駆られるのだ。
マリノの片割れであるミズノとの件も同じで、何か大事なものを奪われたような幼い感情がスガタを支配し続けていた。
「……血はもう出ていないけど消毒くらいしたほうがいい。着替えたら保健室行くぞ」
「ええ〜、保健室なんて大袈裟だよ。こんなの舐めとけば治るし」
「じゃあ舐めてやろうか?」
「っいえ、結構です冗談です! ごめんなさいっ」
慌てた様子でぶんぶんと首を横に振るタクトに、残念とスガタが引き結んでいた口元を緩めてみせる――そしてそれを見てタクトが苦笑して。
こんなふうに穏やかな心地で過ごせるのはやはり彼だけだと改めて思う。今まで誰にも吐露できずにいた鬱屈した感情を真っ直ぐに受け止めてくれたタクトだけだと。
――だから、見知らぬ誰か≠ノ関心を持ったりせずに、ただ自分だけを見てほしいと願ってしまうのだ。
こんなどうしようもない独占欲を知ったらきみはどうするのかな?
声に出さずそんな問い掛けをタクトに向けながら、スガタは昏く微笑んだ。


伝えられない嫉妬



やっぱり不器用なスガタさんでもうお姫様だっこで保健室行っとけ!な話。
@10-1208

モドル
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