「タクトくん、今日時間ある?」
終業を告げる鐘の音に教室中が一斉に騒がしくなる中、ごそごそと鞄に教科書やノートを詰め込んでいるタクトに声をかけてきたのはワコだった。
いつもならこのままワコとスガタとタクトの三人で部活へ向かうのが定例なのだが、今日はその部活動は休みなのだ。だからこその誘いである。
「んー? えーと、多分何もなかったかな」
部活が無ければ、これといった趣味もないタクトにはやることはあまりない。
ざっと本日の予定を思い浮かべてタクトが曖昧に頷くと、ワコはにっこりと笑った。
「本当? じゃあちょっと買い物に付き合ってくれないかな。ルリも一緒なんだけど」
その言葉にワコの背後に目線をやると、何やら期待に目を輝かせているルリの姿があった。友人同士の彼女たちがよく行動をともにしているのは知っているし、タクト自身ルリにはよくしてもらっている。なので、ルリの同伴を倦厭するつもりもない。
「うん、いいよ」
だから、断る理由もないしと同じくにっこりと笑い返したのだが、その瞬間不意に後ろから伸ばされた手に肩を掴まれた。突然のことに驚いてタクトが振り返ると、不機嫌そうに眉を寄せるスガタが立っている。
いつの間に背後まで来てたのと赤い瞳を瞬かせるタクトにスガタは大仰に溜息を吐いた。
「……いいよじゃないだろう。タクト、お前約束忘れたのか」
「なんだったっけ」
「今日は僕の用事に付き合うって言ってただろ」
首を傾げるタクトに眉間の皴を深くしてスガタが答える。普段感情をあまり表に出さないスガタにしては珍しい表情だ。幼い頃からの付き合いであるワコでもそうそうお目にかかれない不機嫌全開なスガタの様子に、まったく免疫のないルリは驚いている。
けれど、そんな彼を前にしてもタクトは気にする風もなく「言ったような言ってないような」と腕を組み考え込んでいた。
「確かに言ったよ。とにかく――ワコ、悪いけどタクトは僕が連れて行くよ。ほらタクト」
僅かに表情を緩め、ワコに向き直りそう一言断ると、スガタはタクトの腕を掴んでさっさと歩き出してしまう。それに慌てて鞄を取り落としそうになりながらも、タクトはワコとルリに謝るように片手を上げて見せる。
それらを何も言えないまま見送って、ワコとルリは顔を見合わせた。

(なんだか二人とも急に仲良しになったみたい?)


仲の良い二人



9話で驚きの進展を遂げていたけど、クラスメイトからはいつも通りとしか思われていないのかもですがルリあたりは敏感そうなので。打ち解けたことでスガタはタクトに対してちょっと我侭になっていたらいい。そんな日常話。
@10-1204

モドル
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -