※カプというより夜間飛行でわいわい

放課後、日直だからと遅れて演劇部に顔を出したタクトを迎えたのは、やけに楽しげに話し込んでいる部員たちの姿だった。女性が四人も集まれば多少騒がしくもなるのは不思議ではないがそれにしても異様な盛り上がりを見せていた。
「あっタクトくん! お疲れさま」
タクトの登場にいち早くワコが気付き笑いかける。その頬は感情の高ぶりを表すように紅潮していて、タクトははてと首を傾げた。
「どうしたの、何かいいことでもあった?」
「ふふふ、すっごくいいことだよ」
ね、部長!とでも言うように意味深な視線がサリナに向けられる。サリナもワコの視線に気付いてミステリアスに微笑み、その隣に並ぶジャガーとタイガーもくすくすと笑っていた。
なんだか分からないが自分がいない間に何かあったらしい。
彼女たちの態度をそう解釈し椅子に腰を下ろすと、隣に座っていたスガタに詳細を聞こうと向き直った。ワコと同じくタクトに労いの言葉をかけてくれるスガタもまた、どこか楽しげだ。
「一体僕が来るまでに何があったの?」
「ああ、今度の舞台について話していたんだ」
「タクトくん、大抜擢ですよ〜」
スガタのあっさりとした説明にジャガーの興奮冷めやらぬという声が続く。
だが、それだけではなんのことかさっぱりだ。
「大抜擢って何が…」
「あのね、今度の主役にタクトくんが選ばれたんだよっ」
まったく話が見えないタクトにワコが笑顔で口を開く。
そして、突然もたらされた「主役」という大役にタクトは驚いてサリナを振り向いた。全ての決定権を持つのは部長である彼女であり、この配役についても最終判断を下したのは彼女のはずだからだ。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。今回はね、少し趣向を凝らしたくてキミに決めたのよ」
タクトの目をまっすぐに見つめ返し、膝の上の副部長をあやしながらサリナが微笑む。
「趣向……ですか?」
「そう。キミにしかできないことよ。だからよろしく頼むわね――お姫様役」

…………

「ええええ?! ち、ちょっと待ってください、主役とか端役とかそれ以前に性別の問題がっていうかおかしくないですか?!」
「あら、女は女役で男は男役だなんて固定観念はよくないわよ」
完全にパニックに陥っているタクトをそれはそれは楽しそうに見遣り、サリナは周囲を見回して鷹揚に頷いた。
「もちろん皆の意見も聞いた上での配役よ。それに演技初心者のキミのために最適な相手役も選んだことだし」
「お姫様のお相手を務める王子様役はスガタ坊ちゃまなんですよ!」

…………

「あ、あの? 姫も男で王子も男……??」
曇りひとつない眼鏡を光らせテンション高くタクトに語るジャガーとそれに相槌をうつワコとタイガーが、タクトに更なる追い討ちをかけてくる。
なんだかもう気が遠くなりそうだ。いや、実際に遠のきかけている。
「あ、もちろんキスシーンもあるからそのつもりで」
「……」
続くサリナの言葉と上がる女子の歓声に、もはや突っ込みを返すことも諦めタクトは机に突っ伏した。
もうこのまま寝て起きたら夢でした――とかあればいいのに。
ちらと横目にスガタの様子を伺うが、いつも通りの穏やかさでタクトの視線に緩く首を傾げるだけで。
「キスの練習でもしておく?」
ガラス抜きで。
隣でくすくす笑うスガタを恨めしく思いつつ、その言葉で妙に頬が熱くなるのを自覚して尚更顔を上げられなくなるタクトだった。


とある日の部室。



すごく定番ネタ。本番では事故かなんかで間違いなくキスしちゃうはず。
部長難しいです…。
@10-1126

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