「タクトくん、はい」
向日葵のような笑顔を見せるワコにより、ぽんと手のひらに乗せられた菓子を詰め合わせた小さな袋に視線を落としてタクトははて、と首を傾げた。
「今日って何かあったっけ? バレンタイン……は先月だったよね?」
クリスマスやハロウィンなどお菓子が関わるような行事をいくつか思い浮かべるも、どれも三月とは掠りもしない。唯一ホワイトデーがあるにはあるが、それは女性であるワコから贈り物をする日ではない筈だ。少なくともこの日本では。
しきりに首をひねるタクトにワコはくすりと笑った。
「今日はね、ありがとうの日なんだって」

□□□

居候先である屋敷に戻ると、先に帰宅していたスガタは珍しく広々とした庭先で読書を楽しんでいるようだった。
心地好い日差しが落ちる東屋の一角に腰掛けているのを見つけ、タクトは軽い足取りで近付いていく。それに声を掛けるまでもなく反応したスガタは開いていた文庫本から顔を上げ、口元を綻ばせた。
「お帰り」
「ただいま!」
ちょっと遅かったんじゃないか、と僅かに肩を竦めるスガタにタクトはへらりと笑い抱えた鞄からごそごそと何かを取り出すと、ぱっとスガタに差し出した。それを条件反射でスガタは受け取るが、青いセロファンでラッピングされたものにやはり首を傾げてみせた。
「これは……?」
「今日はありがとうの日なんだって、ワコが言ってたから」
タクトの言葉にスガタは、ああと頷く。学校で会った時にタクトと同じくスガタも同じように彼女からお菓子を詰めたものを受け取っていたのだ。
その時に確かに彼女はそのように言っていた。
「これは僕のありがとうの気持ち」
「居候させてもらってる恩返し、か?」
手にしたものに目を細めて呟けば、タクトは少し考える素振りで上向きまたすぐにスガタに視線を合わせる。
「それもあるけど」
「けど?」
「出会ってくれてありがとうに、助けてくれてありがとうでしょ、あと友達になってくれてありがとう……それと、」
浮かぶのは照れくさそうな柔らかい笑顔。
促すように触れた手は穏やかな温度でまるで春の木漏れ日のよう。
どちらともなく額を合わせて、まるで秘密を共有するように小さく笑みを交わした。

「「好きになってくれて、ありがとう」」

あたたかな気持ちで満たしてくれるきみに感謝をこめて。


ありがとうの日。



今日はありがとう(thank you)の日らしいよと聞いて。
@12-0309

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