他愛ない約束を交わせる喜びと、それを叶えることの出来る幸せ。
そのすべてを与えてくれたのは、星降る夜に出会った輝ける少年だった。

『――熱中症? 大丈夫だって。水分はマメに取ってるし、ほとんど教室に篭もってるしさ。こっちは南十字島ほど暑くないしね』
スガタは心配性だなあと苦笑混じりの声が僅かに掠れて耳に届く。高校を卒業し、進路を分かち離れて暮らすようになったことで、携帯電話越しの会話は毎週末の約束事になりつつあった。スガタは島にありながら有数の規模を誇る大学へ進み、タクトは実家から通える範囲にあるという学校へと進路を決めた。互いの目指すものが違うのは当然で、寂寥感を抱えつつも互いの夢のために離れることになったのだ。
「お前の大丈夫はあてにならないからな。目の届くところにいてもらわないと心臓に悪いよ」
『そんな僕が子供みたいに……』
不貞腐れた様子が目に見えるような声音が伝い、スガタはくすりと口元を緩めた。
週末の電話だけでなく平日もほぼ毎日メールで連絡を取り合っているが、それだけでは物足りない。同じ屋根の下で生活を共にしていた時を思い返せば余計にその想いは強くなった。
長いようで過ぎてしまえば星の瞬きのように一瞬だった三年間の高校生活。それまでの人生と同じ、何も変化の無いまま終えるのだろうと思った青春の一ページを煌めきに満ちた日々に変えたのは、紛れもなくこの携帯越しの彼だ。
ふと視線を流せば、まだ一年生だった頃にスガタとタクト、そして幼馴染であるワコとともに撮ったプリクラが視界に留まった。ワコの誕生日のお祝いの一環として撮ったそれには楽しそうに笑う三人の姿が写っている。
それぞれが抱える宿命の重さをそれぞれに秘めて、けれどスガタはこの時には全てを終わらせる道を見据えていたし、きっとワコも見えない未来を遠い夢のように感じていただろう。その中でただ一人――タクトだけは、三人で歩んでいける拓けた世界を信じ続けていて、そうしてそれを実現してしまった。生死すらも躊躇わない驚くほど真っ直ぐな想いが世界を塗り替えて、颯爽と救い上げてくれた。
「……まるで王子様だな」
『え、なに?』
目に見えずともきょとんとした表情でいるのだろう彼をその声音に感じて、スガタはまた笑みを零した。笑うこと、誰かを信じることを思い出させてくれたのもこの無邪気な王子様だと思うと少しだけおかしくて――それから愛おしい気持ちが込み上げてきて、そうなれば益々傍に居ない寂しさが心を占めていく。
「タクト」
『うん?』
けれど、過去の自分なら押し潰されそうなそんな想いすらも、今はもう怖れることもない。
「週末、空けておけよ」
会いに行くから――するりと落ちた言葉に一瞬の沈黙を経てタクトの嬉しそうな声が耳に飛び込む。
『……っ、わかった! 楽しみに待ってるよ!』
子供みたいに浮き立つ心を隠しもしない素直な言葉にスガタが思わずと小さく笑えば、つられたように受話口の向こうで笑う声がした。そうして、迷子にならないでよねなんてからかいを含ませるタクトと二人、手帳片手に週末の予定を立てながらの夜は更けていった。

他愛ない約束を交わせる喜びと、それを叶えることの出来る幸せを噛み締める。
どんなに遠く離れたとしても大丈夫。
大好きな人を追っていつだって走り出すことが出来る。
僕らを隔てる檻は、もう、無いのだから。


幸せな約束を言の葉に



あれ?ちっとも遠距離恋愛っぽくならなかった…
@11-0430

モドル
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