※やまもオチも意味もありません。ぬるくR18。


「スガタくん? きみ、何してるのかなぁ?」
「なんだと思う?」
無理矢理浮かべた笑顔を引きつらせて問い掛けるタクトに、スガタもにっこりと笑んで問いを返した。学園の女子生徒の間で王子様スマイルと密かに囁かれるその爽やかすぎる笑顔も、今のタクトからすれば悪魔のそれに違いなかった。
「……えーと、壁に、押し付けられてる? ような気がするよね?」
「なんだ、わかってるんじゃないか」
正解、と笑みを深くするスガタは実に愉快そうだ。タクトの両腕を纏めて頭上で押さえ込んで壁際に追い詰められているこの状況を楽しむ余裕は、残念ながらタクトには無い。
主に場所的な意味で。
「あのー……ここ、寮だよ」
知ってると思うけど、と消え入りそうな声でタクトが言うもスガタの笑顔は1ミリも崩れない。むしろ「そうだね」などと可愛らしく(タクトにとっては憎らしく)首を傾げて相槌を打った。
そもそも何故こんなことになっているのかと考える。
今日は金曜で、帰りはいつも通りそのままスガタの家に直行する予定でいたのだが、休み明けまでに用意して置かなければならないものを寮に忘れた為、放課後こうして赴いたのである。土日はスガタの家に入り浸りだし月曜はそこから通学するのが当たり前になっていて、休み中にわざわざ一度寮に戻るのは面倒だと思った……のが敗因だったのだ。特に、一緒に行こうかなんて爽やかに提案してきたスガタにあっさり肯いてしまったのが悔やまれる。
「タクト、嫌なの?」
不機嫌というよりも悲しげに眉を寄せて見つめてくるスガタに、タクトは慌てて首を振った。
「っそうじゃなくて、いやって言うか――」
誤解を解こうと口を開くのに被さるように、ガコン、そんな重い何かが落ちる音とそれに慌てる声が壁越しに聞こえた。驚いて、見えるはずもないのに壁を振り向くタクトにスガタは「なるほど」と呟いた。
「壁が薄い、と」
「そういうことっ。だから、な、やめようって」
どうにかこの状況を打破しようと小声で必死に捲し立てるタクトを見遣り、スガタはゆっくりと顔を寄せると妖しく微笑んでみせた。押さえられた手に力がこもる。
「声、我慢できるよな?」
――悪魔、なんかすっごい悪魔がいます!
背中を嫌な汗が伝うのを感じながら、タクトは目の前で笑うスガタを気の遠くなる思いで見上げた。

制服は脱ぐのも脱がされるのも簡単だなんて今まで考えもしなかったと、タクトは片手で器用に釦を外していくスガタを妙に関心しながら見遣った。先に外されたネクタイはご丁寧にタクトの両手首で可愛らしい蝶結びに利用されている。比較的緩めに結われたそれが簡単に解けるだろうことは分かっていたけれど、タクトは諦めてこの状況に甘んじていた。
体格的にはタクトとスガタでは然程変わらないし抵抗しようと思えば出来る。けれど、しない。何故なら――後が怖いから、というのが理由のひとつ。
「考え事?」
タクトのシャツの釦を外し終わって、直接肌に手のひらを這わせてくるスガタが口を開く。僅かに不機嫌さを滲ませているのは多分気のせいじゃない。
「……スガタが器用だって思ってただけだよ」
あながち嘘でもない言葉にスガタの眉が訝しげに跳ねる。
学校生活の中ではそうでもないが、タクトが彼と過ごす時間に彼以外のことを考えるのをスガタは嫌う。隙さえあればキスをしたがり、時間が許す限りタクトを抱きしめて離れたがらない。あの涼しい顔で何事もスマートにこなす少年が、嫉妬心も独占欲も人一倍強い。
こんなこと、クラスの誰も――きっと古くからの付き合いである少女だって知らないはずだ。そう思うと妙な優越感が湧き上がり、スガタに強く求められることにタクトも満更ではなくて――むしろ嬉しくて。これも抵抗しない理由のひとつだった。
「本当?」
「ほんとっ」
疑っている風に、けれどからかい混じりに首を傾げるスガタにタクトも笑みを含めて返した。それを見てスガタが微笑んで口唇を寄せてくるのにタクトは目を閉じて受け入れる。
触れるだけの軽いものから徐々に交わりを深くして、どちらともなく舌を差し出し縺れ合わせる。その間にもスガタの手はタクトの肌を辿り、脇腹や臍を撫でて胸へと続く。くすぐったさに身体を捩ろうとするタクトを深い口付けで封じて、胸の飾りを指先が遊ぶように触れた。
「ふ……ぁん…」
優しい動きで触れるだけかと思えば時折押し潰すように強い刺激でもって翻弄してくる。自分の手ではなく彼の手だからこそ齎される快感にタクトはいつも不思議に思う。どうしてスガタが触れていると思うだけでこんなにも気持ちよくなるのか、なんて。
――好き、だから?
「ほらまた」
「…っひゃ、……や…あ」
なに考えてる、と拗ねたようなスガタの声が耳元で響いてタクトは首を竦めた。そのままぺろ、と耳朶を舐められ柔く噛みつかれ、タクトはたまらずスガタへ手を伸ばそうとして――ネクタイで拘束されているのに気付いて持ち上げかけた腕をそっと下ろした。
「あ…ん……ねぇ、すが…たぁ」
「……なに?」
これ解いちゃだめ?
名を呼ばれてスガタがタクトの耳朶を解放して顔を上げれば、潤む瞳でそう伺ってくるタクトと視線が絡む。スガタは僅かに思案して数回瞬きすると意地悪く微笑した。ダメ、と小さく唇を動かしてタクトの腰を抱き、しなる背中に合わせて突き出されるかたちになった彼の胸へとキスを落とす。十字の傷跡を片手でなぞりながら無防備な胸の突起を口に含み、ざらついた舌で舐め上げた。
「っ! っい…ん、うぁ……」
大きな声が出そうになるのをタクトはとっさに蝶結びを揺らして手の甲で抑える。
その行為にタクトが弱いのを承知でわざと焦らすようにゆっくりと愛撫するスガタは、彼の耐える様子に薄く笑んで胸の飾りに軽く歯を立てた。
「やぁ…っ、あぁ」
快感に震え声を漏らす彼を見つめ「タクト、声」とスガタが実に楽しげに笑う。
誰のせいだと、唇を噛んで涙目になりながらタクトもスガタを睨むが、その眼差しが彼を煽ることにしかならないことをタクトは気付いていない。もっと啼かせて、困らせてやりたいとスガタの内なる征服欲をタクトはいつも無意識に刺激する。
「タクト」
「……ふぇ?」
「もっと可愛がってあげるから、」
我慢しろよ――そんな不穏な言葉にタクトが腰を引きかけると、スガタの色白で美しい手がタクトの制服のベルトをやはり器用に抜き去っていった。ジッパーを下ろす鈍い音にぞわりと期待に肌が粟立つのを、戒められた手でどうにか目の前のスガタのシャツを掴んでキスを強請ることで相殺した。唇を舐めて歯列を割って侵入してくるスガタの柔らかい舌に自らも絡めて。
薄く開いた視界に熱っぽい琥珀が覗いてそっと細められる。
腹部を掠めてゆるりと下降するスガタの手がタクト自身に触れて、堪らず肩を震わせた。
「ふあっぁ……んぅ…!」
すでに熱を持ち始めているそれを形を確かめるようにスガタの指先が動く。悪戯に敏感な先端を撫でて溢れる先走りに彼の指が濡れるのを感覚的に察して、タクトは羞恥に耐え切れず口唇を離すとスガタのシャツの肩口に額を押し付けた。
「キスはもう終わり?」
笑みを含んだ低い声がタクトの耳を擽る。
そんな余裕があるかと文句のひとつも言いたかったが、口を開いたが最後まともに言葉を発することも声を抑える自信もタクトには無かった。
タクトを追い上げようと緩急をつけて的確にいいところへ触れてくる彼の手のひらの動きに意識を散らすべく歯を食いしばる。その様子にスガタは口角を上げて、目の前で震えるタクトの肩に唇を寄せると、甘く噛み付いた。ほんのりと跡が残るくらいに歯を立ててちろと舌で辿る。そんな刺激にもタクトは身体を揺らして、少しだけシャツから顔を離すと恨めしげにスガタへと薄っすらと涙に濡れた紅い瞳を向けてくる。
わかってないなあとスガタが小さく零すのに、タクトは湧き上がる快感に眉を顰めながら不思議そうに瞳を瞬かせた。
「タクトが悪いんだからな」
「っな、に……ぃあっ…が…」
「タクトの匂いがするのが悪い」
途切れ途切れに紡がれる濡れた声音にスガタは淡く微笑み返す。酷く理不尽なことを言われてタクトは一瞬ぽかんとなるが、すぐに顔を真っ赤にしてまたスガタのシャツの胸へと突っ伏した。なんだよそれ、と身体に触れられるのとは違う妙な気恥ずかしさに襲われて全身が熱い。
不意に髪を撫でられてそろりとスガタを見上げれば、穏やかに名を呼ばれ口付けが落とされた。
「…んんっ、ふぁ……ん…っ」
顎を捕らえられ深く交わらせられる。キスで声を封じ、下肢に伸ばされた手が遠慮ない動きでタクトを翻弄した。握り込まれて激しく扱われて、口付けに呼吸を奪われ朦朧としかける思考に快楽の波が止め処なく寄せる。
「――っん…んぁ、やぁ……あァっ」
そうして弱い部位を引っかかれ、ぶるりと身体を震わせてスガタの手にタクトは精を吐き出した。視界がちかちかと瞬いて軽い眩暈に目蓋を閉じて。襲う倦怠感に荒い呼吸を繰り返し、ぼんやりとしながらも落とされる口唇に弱々しく応えた。
いつもなら彼に腕をまわしてもっと近くに感じれるのにと少しだけ不満に思いながら、タクトは未だ結び目が揺れる両の手ですっかり皺になってしまったスガタのシャツにしがみついた。そんなどことなく子供っぽく映る動作にスガタは小さく笑って、タクトの癖のある柔らかい赤髪を穏やかに梳いてやった。愛しくて仕方ないというように、前髪をかき上げて露になった額にスガタが口唇を寄せる。
「やっぱり僕の家に行こうか。……ここじゃタクトの可愛い声が楽しめないし」
我慢してるのもそそるけどね。
照れもなくこちらが恥ずかしくなるようなことをさらりと言ってのけるスガタに、タクトは何と返していいか分からずに頬を赤く染めた。
そもそも我慢しろと言ったのはお前だと突っ込む気にもならないくらい、彼に触れられることを望んでいる自分に自覚があるだけに厄介だと内心頭を抱えた。
好きになったら負けと言うけれど、これほど巧い言葉もないと先人の言に感心を禁じ得ない。
「――スガタ」
「うん?」
「今度はネクタイ無し、な」
綺麗な蝶結びの布端を咥えて軽く引いてみれば、いとも簡単に解けて重力に従い力無く床に落ちた。やっと自由になった両腕でスガタに抱きついて、より近くに彼の体温を感じれることにほっと息を吐く。スガタはタクトの匂いに煽られると言うけれど、タクトにとっての彼の匂いも麻薬のように身体に沁み込んで惹きつけられるようだった。
それがなんだか悔しくて悔しくて、相反するように愛しくて。
好きになったら負け?
ならばきっと僕らはどちらも敗者だと、タクトは瞳を閉じると蕩けそうに微笑むスガタに自ら口付けた。


潔く負けを認めます。



あんまり我慢してないな…という事で、アンケートにて残念っぷりを許容して下さる方の多さに反省から戻って参りました。正直また反省必須な気がしてます。難しい。
11-0201

モドル
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