※双子です。


高校入学間もなく行われる身体測定、その結果が書き込まれた用紙を手にタクトはさも不機嫌そうに眉を寄せた。思ったことがすぐに顔に出る双子の片割れを見てスガタは嘆息すると、タクトの皴の寄る眉間を指で突いた。
「どうした? やけに不満そうだけど」
「――これ、絶対間違えてると思うんだけど」
ずい、と面前に出された紙片を「近すぎて見えないよ」とスガタは苦笑して受け取り、少しよれたそれにざっと目を通す。そこにクラスと氏名が間違いなく書かれているのを確認して首を傾げると、タクトが口を尖らせた。
「名前じゃなくて、身長のとこね」
言われるままに身長の項目に視線を走らせると、175cm、と記載されている。
「僕と同じだな」
「いやいやいや、絶対僕のほうが高いって! 1センチは違うって!」
頭のてっぺんで手のひらを水平に掲げ身長を測るジェスチャーをしてタクトが喚くのを、スガタは溜息とともに腕を組んで見つめた。もはや身体測定の度に繰り広げている気がするこのやりとりをよくもまあ飽きないものだと思う。
二人は外見こそあまり似ていないが、そこは双子ゆえなのか体重に多少の差異は出ても身長は毎回きっちり同じ数値をはじき出す。
それについてスガタは特に何も感じないのだが、タクトはどうやら違うらしい。彼の中では僅か1センチだろうが5ミリだろうが少しでも高いことに意味があるようだ。
「そんなのお前は癖毛だからその分だろ」
少しの癖も無くいつもきっちりとセットされたスガタの髪とは違って、タクトのそれは一見寝癖のように跳ねている。まさに彼の無邪気さを表し元気良くひょいひょいと風に揺れるその様は見ようによってはその分嵩まして見えなくもない、けれど。
手を伸ばしてそんなタクトの頭をぽんぽんと撫でて散らばる赤髪を押さえてやれば、タクトは一段と眉間の皴を深くした。ああまた機嫌を損ねてしまったかなとスガタは思うが、タクトをからかったり意地悪く接したり、見せる反応がいちいち楽しくてつい遊んでしまう。毎日、それこそ朝も夜も共にしているのに飽きないあたり、彼の毎度の身長問答にも文句は言えないかもしれない。
「むぅ…なんかその余裕がむかつくんですけど……」
頭を撫でられたままじと目で睨まれてもなんの威厳も無いし可愛いだけだぞ、とは空気を読んで言わないでおいた。あまり怒らせて「スガタとは口きいてやらない」などと言い出されては困る――過去に経験しただけに。
「なんだ、タクトは僕と一緒じゃ嫌?」
子供のように頬を膨らませる片割れの赤い瞳を覗き込んで問いかければ、据わらせていたそれをきょとんと瞬かせてスガタを見つめ返してくる。こういう幼い仕草も昔から変わらない、スガタの彼を好きなところのひとつだ――とは、やはり口には出さない。
スガタの発言の意図を深く考える風でもなく、タクトは手持無沙汰に胸元のネクタイを玩びはじめると「そういうんじゃないけど」ともごもごと呟きを零した。予想通りの返答にスガタは小さく笑うと、未だ気分を下降させているタクトへと手を伸ばした。そのまま彼の両の頬に添えて鼻先がくっつきそうなくらい顔を寄せる。
至近距離に見える温かな夕陽色、これもスガタの宝物のひとつ。
「僕はタクトと同じで嬉しいけどな」
スガタとは違う大きく猫に似たつり目が不思議そうに瞬きを繰り返す。
「だってその方が、こうしてすぐ近くにタクトの顔が見えるだろ」
こつんと額を合わせ甘やかな笑みを浮かべてやれば、タクトは途端に顔を真っ赤にして口をぱくぱくしだした。
近すぎる距離には何も思わないくせに、言葉で好意を表されるのにはどうにも弱い。
子供の頃からスガタが過保護に守りすぎた弊害か、色々と鈍すぎるタクトには直球で向かわなければ伝わらない事が多かった。その手間の掛かるところすら愛しいと思ってしまうあたり相当重症かもしれないと、スガタ自身自覚しているが今更変えられるものでもない。
「っ……顔なんて毎日見てるだろっ」
「それが毎日見てても飽きないから不思議だよな」
――もちろんタクトが相手だからだけど、とはやっぱり言わない。
キス出来そうなすれすれの距離、タクトの瞳に自分だけが映っているのにスガタは満足げに笑って、頬に触れていた手のひらをそっと離した。


そんな一連のやりとりは、白昼堂々と――開放感に溢れる昼休みのクラスメイトが見守る中で行われていた。


「スガタくん、また牽制してたでしょ」
購買に昼食を買出しに行っていたワコは、教室に戻るなり呆れた視線をスガタに向けた。受けたスガタはといえば肩を竦めて「なんのことかな」とわざとらしく首を傾げてみせるだけだ。どんなに追求し続けたところで暖簾に腕押しとばかりにひらりとかわされてしまう。
この喰えない幼馴染は出会った頃からちっとも変わらない――それはもういっそ清々しいほどだ。
「……ほんと、タクトくんのことしか考えてないんだから」
先程のスガタとのことで早速カナコにからかわれているタクトを見遣り、まったく困った双子だと、ワコは溜息とともに苦笑した。


同じ目線で



アンケにて双子可愛いとのコメントを頂いたので甘味成分を足してみました。いや甘いと言うより甘やかしてる…?悪い虫を追い払うことに余念がないスガタさんです。身長同じくらいだなーとは思ってましたがまさかのぴったり同じとかさすが公式。
@11-0119

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