くるくるくるくる、瞬きをする間も止まることなく表情を変えていく。
喜怒哀楽の感情をありったけ詰め込んだような存在の彼を見ているだけで、同じ思いを共有しているような感覚を得られる。楽しいことも嬉しいことももちろん負の感情も、彼と同じものを感じることが出来るのはささやかながら自分を楽しませた。
けれど人間とは欲深いもので、いつしかそれらの表情を自分以外に向けられているのは些か面白くないと思ってしまうようになってしまった。
親しそうに見えれば見えるほど、その想いは強くなるばかりだった。
「ヒロシー、悪いんだけどシャーペンの芯貸して」
「なに、後で返してくれんの?」
芯を切らしたらしいシャーペンを示し頼んでくるタクトに友人のヒロシは楽しげに軽口を返した。言葉遊びのような揚げ足取りにタクトも「意地悪言うなよ」と不貞腐れて眉を寄せるが、もちろん表面上のことだ。すぐに気を取り直したように笑い、ヒロシもそんなタクトにしょうがないなと苦笑して芯が入った小さなケースをひょいと投げて寄越した。難なくそれを受け止めたタクトは軽く礼を言うと窓際の自分の席へと戻っていった。
ただそれだけのこと。クラスメイト、ましてや仲の良い友達同士ならなんのこともないありふれた一場面。
なのに面白くないと思ってしまうのは、自分が彼に対して抱いている感情に起因するのだとスガタはそっと溜息を吐いた。

「どしたのスガタ。全然箸進んでないけど」
天気も良いしとタクトに誘われ中庭で昼食をとることにしたスガタだったが、いまいち食欲も湧かず手にした弁当箱をそのままにぼんやりしているとタクトがきょとんと顔を覗き込んできた。彼の昼ご飯として用意されていたメロンパンはすでに無く、手には男子高生が好んで飲むのは珍しいイチゴミルクのパックが握られている。育ち盛りなのにそれしか食べないから細いんだと口には出さず、スガタは見つめてくるタクトを見遣り目を細めた。
「あんまりお腹も空いてなくてね。よかったら食べていいよ。メロンパンだけじゃ足りないだろ」
それは本当のことだ。タクトのことを考えていたら胸がいっぱいで何かを口にする気も起きない。
そんなこと当の本人に伝えられるわけもなく、ほとんど手付かずの弁当をタクトに差し出そうとすると彼は困惑した様子でスガタをその紅い瞳に映した。
「食欲ないなんて風邪でもひいたのか? 具合悪いなら保健室でも行く?」
言葉とともに伸ばされた手がスガタの額を覆う。その分近づいた距離にイチゴミルクの香りが鼻先を掠めていく。
不意の接触にある筈のない熱が出そうだとスガタは苦笑いを浮かべ、触れるタクトの手をとった。
「……大丈夫だよ、風邪とかじゃないから」
それとも嘘でも病気なんだと言ったらきみを独占できるのかななんて、意地悪く思う。
触れ合う手のひらの温かさが心地好くて掴んだまま放さずにいると、タクトは不安げに寄せていた眉間を緩めやわらかく微笑んだ。
そんな表情の移り変わりからも、目が離せない。
「スガタってさ、見た目のわりに甘えたがりだよね」
小さな発見を喜ぶようにタクトがくすくすと笑う。
見た目のわりにとはどう意味だとか気になることは多少あったが、間近で見せるタクトの笑顔の前では些細なことだ。
甘えたがりだなんて評されたことは初めてだけれど、それもこれもタクトだからだと彼は気付いているのだろうか。
――もっと近くで、その感情のすべてを見られたらいいのに。
昼休みを終える鐘が鳴るまでスガタはタクトの手のひらを放すことはなく、タクトもそんな彼にただ笑うだけで。
穏やかに流れていく時間を二人で過ごしていた。


恋で知ること



タクトへの独占欲を思い知るスガタさんと彼の一面を知って喜ぶタクトの図でした。
まだ片思い設定だったはずなんですが、これもう付き合ってますよね…
@10-1230

モドル
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