※前半と後半の温度差。よくわからないが長い。多分R18。
 以上のことが許せる心の広い方向けです。





流れ星に願いをかければ叶うなんて、信じられていたのはきっと、あの誕生日を迎えるまでだ。


きっかけはとても些細なことだったと思う。
いや、きっかけなんてスガタにとって在って無いようなものだったのだ。
週末の恒例と化してきたシンドウ家での泊りがけでの稽古の後、スガタとタクトは綺麗に整えられたベッドに並び話し込んでいた。
小テストの結果についてだったり、掃除中に起きたアクシデントを面白おかしく解説したり。それから、クラスの誰が誰を好きだとか、誰と誰が付き合っているだとか。
そんな他愛もない話をしていたはずだった――少なくともタクトだけは、そう思っていた。

夜闇に静まり返る室内に粘着質な水音が響く。
「…あ、い……やだって」
「嫌? そんな筈ないだろう。きみのここはこんなに悦んでいるのに」
「ひ…っ…はあ…」
先程から執拗にタクト自身に舌を這わせ容赦なく追い上げてくるスガタを制止するように首を振り、タクトは形にならない声を零した。とろとろと溢れ続けるものを愛しげに舐め取るスガタは、そんな彼の様子に薄く笑い、その日に焼けていない白い足をゆるりと撫でる。
「ねえタクト。タクトは僕のものだよね、僕だけの」
――きみを形作る全てが僕のものなんだよ。
タクトの汗で額に張り付く前髪をそうっとかき上げてやりながら、まるで彼を縛る呪文のように囁く。そうしてその唇で、ぼんやりと輪郭を失くしていくタクトの意識を繋ぎとめるように口付けた。
「んん……ぅん…」
怯えたように引っ込んでいる舌を誘い出すように絡めとり、息苦しさにタクトの目尻に涙が浮かぶのを暗い悦びとともにスガタはじっと眺めていた。少しずつ溢れ流れていく透明な雫の美しさも、時折唇を離した折に伝う唾液の妖艶さも、すべてがスガタを悦ばせる。
「本当に、タクトは可愛いなあ」
キスから解放され荒い呼吸を繰り返すタクトの頬に軽く口付け、スガタはその長い指先をまた彼自身へと伸ばした。先程の口淫での愛撫と深い口付けにすっかり勃ちあがりとろけているそれに指を絡め溢れ出る蜜を掬い取ると、その更に奥のタクト自身触れることのない場所へと擦り付けた。
「っひゃ…な、なに」
驚くタクトをよそにスガタの長い指が解すように秘部をなぞる。時折わざとらしく指先を浅く潜らせて、その度にタクトは声にならない吐息を漏らした。
ありえない場所にありえない人物が触れているという冷静ではいられない状況に、完全に思考能力を奪われつつあるタクトからはすでに抵抗の言葉は出てこなかった。
「指、入れるよ」
「あっ、はあ……ぅん」
タクトの返事を待つでもなく差し入れられるスガタの指がゆっくりとタクトを蹂躙していく。一本二本と徐々に増やされ妖しく蠢く指先に、最初のうちこそ違和感に唇を噛んでいたタクトだったが、すぐにそこから齎される快感に我慢できずスガタを引き寄せた。秘部を侵す手はそのままでタクトの胸へと舌を這わせていたスガタは、タクトのその行動に目を細め淡く微笑んだ。
視線の先では、今にも零れそうな涙の膜を大きな茜色の瞳に湛えスガタ映しているタクトがいる。
綺麗だ、と思う。
そんな彼の瞳に映されることができる自分は幸福だとも思う。
この状況が彼の望んだことではないと分かっていても、自分が押し付けたことだと分かっていても、僅かな時間だけでも彼を独り占めできる幸せにスガタは喜びを噛み締めていた。
胸に大きく残る傷跡に唇を落とし、また誘うように薄く開かれたタクトの口唇に口付ける。幾度も角度を変えて繰り返される行為によってタクトの意識が逸れているそのうちに、さらりとした太腿に指を滑らせてそっと力を入れ割り開く。
急く感情を押さえつけるように空いた手でタクトの少し癖のある茜色の髪を撫で、唇から頬、額へとキスを降らせる。苦しくない程度に片足を折り曲げさせれば、先程じっくりと解した秘所がスガタを誘うようにひくついていた。
彼に己を受け入れさせることで、全てが終わるのか――それとも始まるのか。
答えの無い、いや、決まりきった自問自答にスガタが自嘲気味に口元を歪ませると、不意にタクトの手が頬に触れた。
驚きに見つめる先には、弱々しくも明確な意思を持った紅の瞳。
初めて朝日の下で彼を見たあの時に、強く惹かれた、スガタを捕らえて離さない美しい瞳だ。
「…ス、ガタ」
「――なに?」
「僕のこと、すき、なの……?」
迷子のようにどこか不安げな心許ない表情でタクトがスガタを見上げる。
彼が何を求めて問うたのかなんてスガタには分からない。
けれど、答えはひとつしか用意されていない。
「ああ。好きだよ――タクトだから、好きなんだ」
自分たちが生きるこの閉鎖された世界に前触れも無く現れたイレギュラーな存在。誰にでも明るく接して隠し事なんてないかのように振舞うのに、大事なことは何ひとつ見せない。こちらが近付けばその分また距離を取り離れていく。そのくせその開いた距離に悲しげな表情を浮かべたりする。
放っておけと、気にするなと言うほうが無理だと、そう気付いた時には手遅れだったのだろう。
好きに、ならない筈がなかったんだ。
星降る夜の出会いから、スガタの心はいつも彼に向かっていたのだから。
感情を抑え吐き出されるスガタの言葉にタクトはゆっくりと瞬きをすると、やわらかく口角を上げた。
「そっか、」
それなら、いいや。
吐息にかき消されそうな呟きにスガタが目を見開く。そんなスガタにタクトは苦笑いを浮かべ、頬に触れていた指先を動かしスガタの薄い唇にそっと添わせた。
「すきならいいよ……僕もスガタのこと、すき、だし」
やっと言えた、と弱々しく笑うタクトに、スガタはいてもたってもいられず口付けた。
どうしてそんな簡単に自分が欲しかった言葉をくれるのだろうか。
どうしてそんな風に優しく笑いかけてくれるのだろうか。
終わるのか、始まるのかと自問自答しておきながら、終わることだけを考えていた暗く沈む心をあっさりと救い出してくれる。まったく、何もかもイレギュラーだ。
気が済むまで口唇を重ね、ようやく解放してやると、潤む紅い瞳が恐る恐るといった体でスガタを見上げてきた。
「つづき……するんだよ、ね?」
「それはもちろん。タクトの許可も下りたことだし」
にっこりと最高級の笑みでスガタが囁いて、タクトの顔は限界まで赤くなったような気さえした。
「ううぅ〜さっきのやっぱな…」
「ナシは無しだからな」
「スガタのいじわるーっ、って、ひゃっ」
逃れようとするタクトの細腰を押さえ、放っていた彼のものに指を絡ませる。ドクドクと触れた分だけ脈打つそれは、少しの刺激にも敏感に反応を返しスガタを楽しませた。
「も……やだ、はやく」
吐き出させる直前まで追い上げては手を止めるスガタに焦れて、タクトが急かすように言葉を零す。
早くしたいのは、スガタとて同じだ。けれどそれでタクトを傷付けてしまっては意味が無い。
「スガタは……はっ…心配性、だよ」
「タクト限定でだけどね」
ぬるりと指先にまとわりつくそれを見せ付けるように舌で舐めとり微笑みかけると、タクトは羞恥に耐え切れず顔を腕で覆った。見せる反応がいちいち可愛らしく映るのは何故なのかなんてどうでもいいことを考えて、スガタは引き返せないところまで堕ちている自分に苦笑した。
好きも愛してるも、そんな言葉ではきっとこの気持ちの全ては伝えられない。
だから。
「痛かったらごめん」
「そんな怖い笑顔で言わないでよ…あ、ぃ…っ、あぁっ」
確認するように一度二本の指をタクトの中に挿し入れぐるりと慣らすよう動かしてみる。僅かながらも弛緩しているらしく、タクトの様子を窺ってみても痛みはあまりないようだった。そっと指を引き抜き、浅く呼吸を繰り返すタクトの両足の間に身体を割り込ませると、その肉の薄い太腿に口付けた。
自分でも驚くような熱がタクトを欲しているのがわかる。終わりではなく始まるための行為だと思うとスガタは泣きたくなる程の喜びが胸に去来した。そんなスガタにタクトは腕を伸ばし、青く流れる髪を梳いて笑った。
それが合図だというようにスガタはゆっくりと腰を進め、タクトの中へと自身を埋めてゆく。タクトとスガタ自身のものでぬめりを持ったそこは、思いのほか拒絶を見せずスガタを呑み込んで、タクトは熱を逃がすように大きく息を吐いた。痛みは思ったよりないが、違和感だけはさすがに拭いきれずタクトが眉を顰める。
けれど、確かな熱をもって己を圧迫する存在に嫌悪などひとかけらもありはしない。むしろ、もっともっとと貪欲に求める心がタクトを支配しているようだった。
「全部、入ってるの……わかる?」
「う、ん…あっ…」
「タクトの中、すごく熱い」
「…すがた、も、ね」
「そう?」
抑えた笑いに続いて、ごめん、動くから、と耳元でスガタが囁き腰を引いた。ずる、と異物が這いずる感覚にタクトが形を成さない声を上げる。眠っていたはずの燻ぶる快感を湧き上がらせるようなスガタの動きがタクトを翻弄しているようだった。
ぎりぎりまで引き抜かれて再び挿入されるそれが最奥を突く度に背中を撓らせスガタを締め付ける。悩ましく紡がれる嬌声の合間にスガタの名を呼ぶタクトの中で、意図せず質量を増す自身にスガタは苦く微笑した。
我慢なんてできるわけがない――この可愛いひとの前で。
快楽に沈むタクトが愛しくて、スガタは動くのは止めずにタクトの傷跡にそっと口付けを落とした。それすらも刺激になるのかタクトが震え、スガタをまた煽る。
「さすがに――もう、限界かも」
「す、が…っ、ぁあ……はっあ、ああ…!」
タクトの身体を縫い止めるように彼の手のひらにスガタのそれを絡ませ押さえ込むと、一際強く腰を打ち付ける。その反動でタクトの秘所がスガタを逃すまいと収縮し、軽い眩暈のようなものに襲われる中、スガタは溜まった熱を解放した。眼下では、同じく熱を放ち荒い呼吸で、タクトがぼんやりとスガタを見つめていて。二人を包む気だるい空気は、けれど不快なものではなく、時の流れを緩やかに感じさせた。
「大丈、夫…?」
そんなちょっと場違いな気もするスガタの言葉にタクトが苦しげな吐息で肯き微笑む。悲観も後悔も見えない穏やかさで、絡めた指先にありったけの想いを込めるように握り返す。
幸せが形を成したらきっとタクトになるんじゃないかとスガタは思う。
閉ざされた世界で何不自由ない暮らしを約束され、けれどなにひとつ自由になるものなんてなかった日々。わかりきった未来を目指し、ただ時間を刻むだけの現実味の無いモノクロームの世界に、色を運んできたのは紅く煌めく流れ星。
疎ましくも羨ましくも焦がれる気持ちもない交ぜに、気付けばその星を手に入れたいと強く願っていた。学園中の誰もがその星に惹かれているのを知っていたから、いつか浚われてしまうんじゃないかと心が波立って落ち着かなかった。
そんな苦しい日々が続くなら、いっそ自分の手で壊してしまえばいい――浅慮だと言われようが、もうスガタにはそれしか残されていないように感じていた。
なのに。
「すがた」
掠れた声が名を呼ぶのにスガタは視線で応え、首を傾げ続きを促す。そのどこか子供じみた動作にタクトがちいさく笑う。
幸せを象った少年はそれだけで輝いて見えた――そう、紅く煌めく流れ星、だ。
「ありがとう」
なのに、その星は逃げることなくスガタを待って、また世界に色を溢れさせる。
紡がれる言の葉のひとつひとつが優しく波紋を広げていく。
重荷としか感じえなかった宿命も、彼に出逢うためのパズルのピースだったのかもしれない。
「……ああ」
そんなふうに思えることが嬉しくて、スガタは淡く微笑み、タクトの穏やかに瞬く紅い瞳を見つめ返した。
「僕も、ありがとう――タクト」

もう流れ星に願いをかけたりなんてしない。
自分だけの輝ける星は、今、この腕の中に在るのだから。


Shooting star×my only star



書き慣れないものを書きました(反省中)
@10-1218

モドル
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