*ジューンブライド*


高校生の頃から社会人になって数年の間、私には付き合っていた彼がいた。彼と別れた理由は、彼の海外支店への転勤。英語も出来ないし日本でやりたいことがたくさんあった私は、なくなく彼と別れる事に。正直この人と結婚するんだろうなと思っていたので、彼が日本を飛び立った日から私は、毎日のように枕を濡らしていた。

そんな事を2年近くも繰り返していた私を惨めに思った友人が、私に男の人を紹介してくれた。早く次の恋に行って過去は忘れてしまえ、と。その人と二人で会うようになったり、二人で出掛けるようになったりと、気がつけば次第に惹かれていきお付き合いを始める事に。

その人は私に凄く優しくしてくれるし、毎日が幸せだと感じるようになった。そんなある日、その人からプロポーズを受けた。もちろん、返事はOKで。そして今日、その人と結婚をする。





「――守ル事ヲ誓イマスカ」

「はい、誓います」

片言の神父さんの新郎への誓いの言葉が言われ、これから夫となる人が答えた。次は私の番。凄く、緊張する。

「アナタハ、コノ男性ヲ、ソノ健ヤカナ時モ病メル時モ、喜ビノ時モ悲シミノ時モ、富メル時モ貧シキ時モ、コレヲ愛シ、コレヲ敬イ、コレヲ慰メ、コレヲ助ケ、ソノ命ノ限リ、堅ク節操ヲ守ル事ヲ誓イマスカ」

すぅ。と小さく息を吸い、誓いますと答えようとした時、「ねぇ、後ちょっとだけ待ってー」と声がする。驚いて声のした方に視線を向ければ、周りより幾分か頭の飛び出している人たちの横で、更に少し背の高い紫色の髪をした高校時代の後輩が手を挙げていた。いきなりの出来事に皆の視線は彼に釘付けで、静かだった教会内が一瞬にしてざわざわと騒ぎ出す。

「あ、あつし?お前、何言ってんの?」
「そうじゃぞ、声を出してはいかん」
「空気読むアル」
「いやだって室ちんが」

「え、」

敦くんが放った言葉に、思わず声を漏らす。辰也が、なに…?ふと出てきた懐かしい名前に、昔の思い出が鮮明に脳裏に浮び出す。だんだんと目頭に熱いものが込み上げてきた。次の瞬間、

「その結婚!…ちょっと待って、くれないか」

ガチャり―とチャペルの扉が開いたと思えば、そこには手で扉を支えながら膝に手をつき、走ってきたのかゼェゼェと息を切らしている辰也の姿が。結婚式には似つかわしくない私服姿の男性の突然の登場に、騒がしかった会場がさらに騒がしくなる。

「たつ、や…なんで、」
「ごめんね、いきなり。今朝日本に戻ってきたんだ。それでアツシに連絡したら、キミが結婚するって言うもんだから」

そう言いながら彼はゆっくりと私との距離を詰める。そして目の前までやってきた時、「遅くなってすまない。迎えに来たよ」と手を差し出してきた。その言葉に応えようと辰也の手のひらに自分の手を重ねた瞬間、優しく微笑む辰也に手を引かれ、気づけば会場を飛び出していた。

「待って、辰也…ドレス、走りにくいっ」
「ごめんね、でももうすぐだから。出たところにタクシー停めてあるから、そこまで頑張って!」
「っ、うん!」

遠くの方から聞こえてくる夫になるはずだった人の私を呼ぶ声や、高校時代の部活の仲間の声援を背中で受け止めながら、私は、私たちは、必死に走った。ドレスで走る事なんて今までした事なかったし、慣れない事に何度も転けそうになりながらも、彼の用意してくれていたタクシーへと乗り込んだ。

「アツシから今日の事を聞いた時、気が変になりそうだった」
「たつや?」
「さっきの事も、もし断られてしまったらどうしようかとヒヤヒヤしたんだ」

「でもよかった、俺を選んでくれて」辰也の家へと向かい走り出していたタクシーの中で、私の手を握りながら彼は優しく微笑む。そんな彼につられて、私も笑みが溢れてしまった。それと同時に、昔に全部出しきったと思っていた涙が、また、ぶわあっと溢れ出る。

「ごめん、また泣かせてしまったね」
「ま、た?」
「どうせまいの事だから、俺と別れた後毎日泣いていたんだろう?」
「な、泣いてないわよ!」
「はは。そうか、ごめんごめん」

ぽんぽん、と頭を撫でて子供扱いする辰也にムッとして、少し頬を膨らませた。…やっぱりこの人には全部お見通しなんだな。そう言えば、いつも辛い時は何も言わなくても側にいてくれたっけ。

「遅くなってしまったけど、言わせてくれるかな」
「…うん」
「俺と、結婚して下さい」

辰也の肩を引き寄せ、そっとキスを落とす。「幸せにして下さい」と返事をつけて。


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