チェリーボーイズ | ナノ

今日は俺の命日


 

 現在地、某ファミレス内。
 おに・・・王子様と4人がけの席に向かい合って座ってます。


 蛇に睨まれた蛙どころか、鬼に食われる赤子並みに肝を冷やしてた俺は、あの後ちょうどよく鳴ったチャイムによって救われた。


『この後予定無くなったんだよね?さっき電話してたの聞こえちゃったんだ。
 君さえ良ければどこかゆっくり出来るとこでお話しよう?』

 ・・・・・佐藤美桜のこの一言を聞くまでは。

 一応伺いを入れてくるが、俺に拒否権がある訳ない。
 現に荷物を取りに教室へ向かう際、彼の左手が俺の右手首を掴んでいた。それこそ絶対逃がさないためだろう。
 こわい、怖いぞこの男・・・


 そのままドナドナと連れていかれるれるがまま着いた先は、学校の最寄り駅から3つ先の駅。

 連れられてる間考えることを放棄していた俺は、電車に乗っていたことにも気づかず、降りて駅の改札を抜けて見覚えのある風景に、やっと思考が戻ってきた。

 あれ、俺の家の最寄り駅だ・・・

 不思議に思った俺がどこに向かっているのか聞けば、「僕の家だよ」という答えが返ってきた。

 僕の家・・・?
 ぼくのいえ・・・ぼくのいえ・・・

 さ、さささ佐藤美桜の家ぇ?!

 衝撃の事実だが、まさか佐藤美桜が俺と同じ駅を使っていたとは・・・!
 停車駅はあるもののそこまで広くないこの町で、今まで1回も出会ったことはないのだが。

 どちらにしろこんな偶然、今はちっとも喜ばしくない!


 それまで大人しく引っ張られていた俺だが、その言葉に掴まれていない方の手も使って彼を引き止めた。

 無理無理ムリムリ・・・!!
 王子様の家って、つまりお城ってことだろ?!(混乱中)

 そんなの絶対にむりだ!!

 声には出さなかったが首を振って訴える。

 しかし佐藤美桜は、その必死な俺に有無を言わせない笑みを向けてくるだけ。
 鬼か・・・!
 いやもう鬼だ!こいつは王子様の皮を被った正真正銘の鬼だ!!


 それでも彼の手を外そうと抵抗し続ける俺に、さすがの鬼も悪いと思ったのか──ため息が聞こえた気がするから面倒くさがっただけかもしれないが──最終的には聞き入れてくれた。

 彼の家は駅に近いようで、それじゃあと俺が提案したのが駅近にあるこの某ファミレスだった。



 そして現在。
 出されたお冷の氷を必死に見つめ続ける俺を、ニコニコサワヤカな効果音付きで見つめている王子様、という不思議な状況にいる。

 なんというか・・・こちらから彼の心情を察せないため、俺としては非常に殺伐とした雰囲気に居た堪れなさが半端ない。

 そしてさすがと言うべきか、他の女性客からの視線がバシバシとこの目の前の王子様に集中していた。
 ここに向かってる途中の道でも、男女問わず彼に見惚れる人が多かった。
 まぁ慣れてるのか、全く気にしてない様だったが。


 ああ、帰りたい。帰りたいけど、今ここで帰ったらそれはそれで後が怖いから、今はとにかく大人しくしているしかない。
 それと、彼がしているであろう誤解をとかない限り帰れない。

 だがしかし、席に座ってからお互い一言も発していないこの状況で、どう切り出せばいいのだろうか。
 さっきの様子だと、謝罪だけじゃ許してくれなさそうだし・・・

 いやもう言い訳と思われようがここは真実をきちんと話して、誤解をとくしかないな。

 よしっ!



 「あの、実は──」
 「お待たせしましたー。カリカリポテトと、パリパリ唐揚げと、シャキシャキシーフードサラダになりまーす。」

 俺が意を決して話だそうとしたとこでちょうど、店員が品物を持ってきた。
 先程、せっかく入ったんだから注文しなければ、と俺がここでいつも食べてる物を頼んであったのだ。

 た、タイミング悪い・・・

 ごゆっくりどうぞーと言って去る店員の後ろ姿を見送り、そっと前にいる人物を伺い見る。
 彼は、運ばれてきた物を見てどこか不思議そうに目を瞬かせていた。

 そういえばこいつ金持ちらしいって聞いたな、田中に。
 もしかしたらこういうリーズナブルなお店には来たことないのかもしれない。
 外見だけでなくて、生まれも育ちも王子なんだな。

 凄いなとは素直に思ったが、何故か羨ましさは感じなかった。

 ・・・とりあえず食べてもいいだろうか・・・
 腹が減ってはなんちゃらっていうし、こういう時だからこそ飯食って落ち着きたい。

 ただ、この状況下で食べるのはさすがに無理だろう。
 田中であれば或《ある》いは可能だと思うが、俺にはあいつのような豪胆さは持ち合わせていない。
 というかあのバカは空気が読めないだけであるのだが。


 俺はひとつため息をついて、俯《うつむ》いた。
 そして美味しそうな匂いに誘惑されながら、再び話し出す心の準備を整える。

 何度か軽く深呼吸をした後、あの!、と顔をあげると同時に切り出した。

 顔をあげた先の佐藤美桜は、俺をじっと見つめていた。

 一瞬怯むがグッと堪え、続きを話すために口を開く。


 「実は俺───」
 「錦くんは、僕のことが好きなの?」

 おう・・・また、被ってしまった・・・
 しかも1番最悪な誤解をしていた・・・

 やっぱ俺は運に見放されたのだろうか。



 今日は俺の命日だろうから・・・来世では幸運値全振りでお願いします神様─────




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