チェリーボーイズ | ナノ

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「さとう、みおう・・・」


 予想もしてなかった人物の登場に、俺はそう呼ぶしか出来なかった。

 窓から射し込む夕日が彼の後光を担っているのか、何倍にも増してキラキラして見える。

 足長い・・・


 少し顔を眇めつつ未だポカンとした顔の俺に、「錦くん?」と呼びかける佐藤美桜。

 更には、片膝を床につけもう片膝は立てたマヌケな忍者のような体勢のままの俺に、手を差し伸べてくる。


 キラキラサワヤカ
という効果音まで聞こえてくる始末。

 イケメンって手まで綺麗なんだな・・・

 ん?これに掴まれってことなのか?

 え、俺明日死ぬの?



「錦くん」

 差し出された手を凝視しながら、ひとり静かに脳内会議を行ってた俺に焦れたのか、再度俺の名前を呼んだ彼は、差し出していた手を引っ込めた。

 代わりに、そのまま俺と目線を合わせるように彼が片膝を床につけてしゃがみ込む。
 俺とほぼ同じ体勢だが、彼がやると童話に出てくる王子様のようだ。
 しかも俺より背が高いため、顔は少し見上げる位置にある。

 それでも必然的に、国宝級の美男子の顔面が先程より近づくわけで・・・。

 さっきは逆光で少し見えにくかった部分が、今ははっきりと見えた。


 明るめの癖のない茶髪はサラサラで、前髪は細身の眉に少しかかる程度。
 顎から頬までの整った輪郭に 、スっと通った鼻筋。
 口角の上がった唇は、血色が良いのか紅く染まって見える。

 そしてなんと言ってもその綺麗な瞳《め》。

 長いまつ毛に縁どられたそれは、丁寧に磨かれた琥珀のような色合いで、見てるこっちが溶ける程甘そうだ。


 確か彼の母親が外国籍なんだっけか・・・

 不覚にも彼の顔を直視してしまった俺は、しばし完璧な造形美に魅入っていた。

 しかし本人は、不躾にも観察しまくっていた俺の視線を全く気にしてない様子。

 それどころか煌煌《きらきら》しい微笑みまで向けてきている。


「錦くん、大丈夫?どっか痛いの?」

 イケメンビームを直で喰《く》らい、眩しさに耐えれず顔を背けた俺に彼は心配げに問うてきた。


「だ、いじょうぶ・・・です・・・」

「ふっ・・・同級生なんだから、敬語じゃなくていいんだよ?」

「あ、はい・・・や、うん・・・・・」

 こんないかにも王子様って感じなのに、とってもフレンドリーなんだな・・・
 そりゃ皆に好かれる訳だ。
 男の俺でもグラッと来る。


 ハッ!
 そういえばさっき俺に用事がある的な事言ってなかったか。

 今年の春から同じクラスになったが、今まで話したことすらない俺に王子様が一体なんの用が───

「大丈夫そうなら良かった。

 ──ところで、錦桃也くん。これは君の物で間違いないかな?」

 そう言って王子・・・もとい、佐藤美桜が差し出して来たのは俺には見覚えのありすぎる小さめの手帳。


「あっ・・・」

 そ、それは・・・
 俺の失くしたメモ帳・・・!!
 しかも明らかに俺の名前が書かれているから間違えようもない。

 何故、それを、彼が持っているのか────


  ま   さ   か

 嫌な予感に冷や汗が止まらない。
 俺は一縷の望みをかけて、彼の手の中にあるメモ帳から視線をそろそろと上に移す。


 キラキラニコニコ

 一片の淀みもなく微笑む王子様。
 だがしかし何か一物を抱えてそうなその表情に、俺は悪い予感が的中した事を瞬時に悟った。


見るつもりはなかった・・・・・・・・・・んだけど・・・広がったまま落ちてたから拾った拍子に見えてしまった・・・・・・・んだ。

 それで・・・どうして僕の情報がこんなにも書かれているのか、聞いても良いかな?」

 依然、笑みを浮かべたままの佐藤美桜。これはもう全部お読みになられている・・・

 それに、心無しか顔が近づいて来ている気がする。
 まるで、答えを聞くまで絶対逃がさないとでも言うかのように・・・

 あぁ・・・俺の人生終わった・・・

 最上級に最悪な状況、まさかの本人に拾われてしかも中身まで閲覧済み。

 会いたかったぜ、俺の明るい未来・・・


「えぇっと・・・その、なんと言いますか・・・」

 答えようと必死に言葉を探す俺は、されどあまりの気まずさに目線を下に逸らした。

 これは本当のこと言っても、ただの苦し紛れな言い訳にしか聞こえないことだろう。
 ああどうしたものか。

 くそっ・・・何もかも田中のせいだ!

 あいつが俺に頼まなければこんな状況にあわなくて済んだのに!
 一発殴らなきゃ気が済まない。


 心の中で恨みつらみ吐き出した俺は、だがそんなことでこの状況を打破できるはずもなく、必死で打開策を脳裏にめぐらす。

 そんな俺を佐藤美桜は静かに見下ろしていた。居た堪れなさすぎて顔をあげられない俺は、さっきからずっと「あの、」「えっと・・・」と意味の持たない言葉を発している。

 と、とにかくまずは謝ろう。こんなにも見た目王子様なんだから、心根もきっと素晴らしい方に違いない。
 そんな優しい彼なら、素直に謝れば許してくれるはずだ。


「ごめんなさい!もう二度とこんな事は致しません!」

「ああ、ごめんね、僕は別に謝って欲しいんじゃないんだよ。
 ただ、僕の許可なしに色々と嗅ぎまわってる理由が知りたいだけなんだ。」

 こ、これは大変腹に据えかねていらっしゃる・・・!
 誰だよこの人を爽やか王子様って言ったやつ。キラキラはそのままで頭に鬼の角が生えて見えるぞ・・・

 普段あまり怖がらない俺でも、恐ろしさを感じる。




 やっぱり一発だけじゃ足りないぜ田中。

 首を洗って待ってろ───!!




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