「ありがとう、錦くん、助かったよ。」 そう言って小西先生は優しく笑った。 小西先生は生物の担当で、もうすぐ定年を迎えるおじちゃん先生だ。 「いえいえ。」 俺は、持っていた教材たちを教卓に置いて、自分の席につく。途中橋本さんと目が合って、目礼されたので軽く頷き返す。 着席すると同時に隣の席のやつが話しかけてきた。 「おい、先生の手伝いするために、俺にお前の分まで教科書持ってかせたんか。」 そいつは少しからかい気味に言ってきた。 そう彼が俺の唯一の親友、立花響である。 「ちげーよ」 軽く片眉をあげて意地悪げに覗き込んできたため頬を押し返す。こういうやつではあるが、きちんと頼み事を受けてくらいには良い奴だ。 ・・・良い奴、だよな? ──あのあと俺は、無事本たちを社研に届けた。 山ちゃんはいなかったが机の上に置いときゃきっと大丈夫だろう。任務は完了だ。 そうして次の目的地である理科室に向かってると、途中で重そうな荷物を持って歩いている小西先生を見つけた。 ちょうど次の授業が小西先生担当だったので手伝った、という経緯である。 「分かってるって。 どうせ来る途中で、とかだろ?このお人好しめ。」 響は小さく笑いながら俺の肩を軽く叩いてお疲れ、と言った。昼休み俺が情報収集をしてたことは事前に言ってある。 手伝うかと言ってくれたが、俺の仕事なのでどうしようもない時以外は自力で成し遂げたい。だが申し出は有り難かった。 俺は改めて、響が友人で良かったと思った。 響は、顔はイケメンとまでは言えないが、男女ともに話しやすいヤツだからまぁまぁモテる。でもって他校に彼女が居る。 ・・・・羨ましいなこの野郎。 まぁなんと言っても、俺の良き理解者でもある。 「ありがと。」 響は「ん。」と言って前に向き直った。 俺もそれに倣ってノートと教科書を開いて、授業に集中する。 ・・・・・・開始10分で寝てしまったが。 ────────────── ──────── ──── ── ――――ない。 ・・・ない、ない・・・どこにもない! 俺は今、必死で廊下に這いつくばって探し回っている。 通りすがる人たちが奇異な目で見てくるが、そんなのは気にしない。 ・・・キニシナイ! そんなことより、だ。俺はとても焦っている。 ────────── 全授業が終わり、放課後。 響は部活でHRが終わってそうそうに出ていき、バイトがあることを思い出した俺もすぐに帰り支度をする。 ポンッ♪ 席を立ち上がろうとするとメールがきた。相手はバイト先の店長からで、少しトラブルが起こって1時間程遅れて来て欲しい、との用件だった。 トラブル・・・?何があったんだ?てかむしろはやめに行った方が良くないか? でも店長がこういうってことは、やっぱ行かない方がいいのか・・・。 まぁ、その間に取材任務を続行して時間潰すか。 チラッと佐藤美桜の方を伺うと、相変わらず人に囲まれて、立ち上がる気配もない。 教室出る前で良かった、とカバンからメモ帳を取り出す。 ・・・取り出す。 と、とりだ・・・ あれ・・・メモ帳が・・・ない・・・・ ドっと冷や汗が流れる。 やばい、失くしたのか・・・?どこで・・・ とりあえず探しに行かねば。 取材対象が目の前にいるが、それよりもあのメモ帳を誰かに見られる方がやばい。 そう、現在遂行中の佐藤美桜の情報が色々書かれているメモ帳を。 表紙にはしっかりと俺の学年・組・名前が書かれており、さらに言うと、新聞部は存在が薄いため、俺が部員であることを知ってる者は少ない。 ましてや他学年になんてもっと知られてないだろう。 ここで問題点が2つ。 1つは、記事が出来上がる前に情報が漏れてしまえば、その価値がなくなってしまうかもしれないこと。 もう1つは、そのメモ帳はこの間買いかえたばかりで今日初めて使ったため、佐藤実桜のことしか書かれてない。 つまり、そのメモ帳を拾って中身を見てしまった人は、その持ち主が佐藤美桜について調べている、ストーカーかなんかだと思われてしまう可能性もあるのだ。 これは一大事だ!ある意味機密情報満載でもあるので、色んな懸念を考慮して非常にまずい状況である。 |