チェリーボーイズ | ナノ

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橋本さんはうちのクラス(3組)で女子の学級委員長だ。

 普段はおとなしい感じの子だが、仕事をテキパキとやることで好評である。
 ・・・・俺の中でな。

  それに俺より少し(少し!)背が高いのに猫背気味でもったいないな、っていつも思ってた子でもある。



「よかっ・・・あ、橋本さん血出てる。」

  さっき手をついた時に擦れたのか、彼女の手のひらには血が滲んでいた。


「本当だ・・・こ、これくらい大丈夫です!」

「ごめんちょっと手貸して。」

「へっ?」

  俺はポケットから絆創膏を出して、彼女の手をとって傷のうえに貼る。
 ・・・これはセクハラになるのかが一瞬頭を過ぎったが、緊急事態だからと気にしないことにする。
 まぁ同級生だしな。


「・・・・よし、おっけ。ほんとごめん・・・」

  たとえかすり傷だとしても、女の子の身体を傷つけるなんて男として情けないわ俺。


「あっいえ、ご丁寧にありがとうございます・・・・錦くんって絆創膏持ち歩いてるんですね。」

 自分の手に絆創膏が貼られるのを見つめていた橋本さんが、少し意外そうに問うてきた。

 男子で絆創膏持ってるの珍しいんか・・・?
 

「え?あぁ、同じ部活のヤツでよくケガしてくるやつがいて・・・おれは常備してるな。」

  まぁ田中のことだが。
 あいつ面白いことには体を張って挑むから、昔から生傷が絶えないんだよな。

 本人はあんまし痛がらないで放置するから、見てるこっちが我慢できなくてついつい看護してしまうのだ。

 顔に傷を作っても気にしないのを見た時は、さすがに頓着してくれ、と俺も怒った。結構大きめの怪我だったから余計に見てられなかったのだ。



「そうなんですね!ふふっ、錦くんってお母さんみたい。」

  お、お母さん・・・・?


「え、っと・・・ありがとう?」

  一応褒められたとして礼を述べるが、腑に落ちん。
  そうなると俺、田中の母親になるのか・・・

 ・・・・いやあんなドラ息子いらねぇわ。



「あー・・・そういえばこの本たちどっかに持ってくのか?」

  さっきぶつかった時に落としたのであろう、下には数冊の本や紙が散らばっていた。思い出した俺はしゃがんでそれらを拾い出す。


「え?・・・あっ、そうだった!社研に持ってくよう頼まれてたんだ!急がなきゃ・・・に、錦くん?」

 ハッとした彼女も慌てて拾おうとするが、もう既に全部俺の腕の中だ。

 よっこいしょ、と立ち上がり教科書などを抱きかかえた俺に、譲り受けようと手を差し出す橋本さん。

 しかし、俺は渡す素振りもせずそのまま立っているため、橋本さんが不思議そうに呼ぶ。



「ちょうどいいや。俺山ちゃんに用事あるからついでに持ってく。」

 山ちゃんは社会科の先生で、ついでに新聞部の顧問でもある。

 理系の先生じゃないのに何故か白衣を着ており、両ポケットにお菓子がたくさん常備してる人だ。

 よく俺たち新聞部にも分け与えそくれるのだが、出てくる量があまりにも多いため、密かに四次元ポケットと内輪で呼んでいる。

 外側からだとそんなに入ってるように見えないのが、余計にそう思わせるのだ。



 おっとそうだった。これらを持っていかねば。
 ずりさがりそうな荷物を軽く持ち上げ直す。


「そんな!自分で行きます。」


「いやほんとついでだし、ケガさせちまったからお詫びとして。」
 
 むしろこれぐらいはさせて貰えないと俺が自分を許せん。


「ケガだなんて!こんなのどうってことないですし、走ってた私が悪いんですから・・・」

 そう言って未だに受け取ろうと差し出した腕を更に伸ばしてくる橋本さん。
 それをスっと腕を軽く横に背けて交わす俺。

 きっと橋本さんは、人に頼るのが苦手な子だ。少し強引めにやらんと引き下がってくれないだろう。



「それに次移動教室だろ?あそこ教室から遠いじゃん。
 俺もう教材持ってったから準備万端だし。橋本さんは教室に取りに行かなきゃだろ?」

 聞き込みで時間かかると思ってたから、おれの唯一の親友に一緒に持ってってくれと頼んであった。

 ん?田中?いや、アイツは親友ではないな。切りたくても切れない厄介な腐れ縁ってやつだ。



「ほら、はやく行かないと昼休憩終わるぞ。」


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて。
 ありがとう錦くん。」

 少しはにかんだ彼女が渋々さがり、お礼を言う。


「おう!今度は誰かとぶつかんないようにな!」


「は、はい・・・あ、そうだ!
 あの、変な質問かもですけど、さっきの"同じ部活の人"って男の子ですか?」

  橋本さんはいきなりそんな質問をしてきた。
 たしかに意図のわからない質問ではある。


  「?そうだけど・・・なんで??」

  まぁ田中はあのキノコ頭で顔が見えづらいけど紛うことなき男だ。・・・超がつくほどの胸好きな変態だもんアイツ。



「……が……けで………かな…」


  俺が答えると、橋本は何か呪文のような言葉を呟いた。

  "うける"だとか聞こえたけど・・・俺なんか面白いこと言ったけ・・・



「えぇっと・・・橋本さん?」

 自分の世界に入りだした橋本さんを呼びかける。

「・・・んえ?・・・あ、やだ私ったら!何でもないです!
 すみません!ではお願いします!」

  彼女は顔を赤くしてそう言うと、勢いよく一礼して走り去っていった。

  あれじゃまた誰かとぶつかるな・・・・てか結局なんのための質問だったんだ?



「やべ、時間ねぇや」

  俺は気を取り直し、本を抱えて急いで社研へ向かった。




 ・・・てかこれ結構重いな。これもって走ってたんか橋本さん・・・



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