チェリーボーイズ | ナノ




 「そもそもこういうのはおまえの担当だろーが・・・」

 ゴシップ系や個人取材は基本、部長である田中の得意分野だ。まぁ本人が大好きという理由でもあるが。


 俺はまぁ、そういう記事は得意ではない。というよりあまりやりたくない。

 新聞部に入りたての頃は何回かやったことがあるが、質問のし過ぎやらで相手に要らぬ誤解を生み、少し揉め事を起こしてしまったことがある。

 それからはゴシップなどは気乗りせず、日常系のほのぼのとしたものを中心の今のスタイルにしたのだ。



 でもまぁ・・・たまにはいっか。アイツがこういうのを頼んでくるのは珍しいし、やってやらんこともない。
 それに、皆が読んでくれるうんぬんはきっと本心からの考えだろうし、そういうとこは俺も尊敬してるからな。



 今日はもう遅いから明日取材を始めることにして、途中までだった記事の推敲作業を続行した。




 ……絶対あとで学食のS定食(¥1,100)奢らせてやるけどな。



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 「え?佐藤について知ってることを教えてくれ?
 んー・・・そーだなー・・・」

 一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに山田は少し長めのあごに手を添えて、考える仕草をする。


 トイレから出てきた山田をとっ捕まえて、いきなり質問したのには訳がある。




 俺は、困っていた。



 昨日あのバk…クソに頼まれて引き受けた(少々気乗りはしないが)のはいいものの、ターゲットである佐藤実桜に話しかけようにも、なにせ彼は人気者。更にはこのクラスの学級委員長でもある。

 休み時間は必ず周りに人が集まって団欒してるため、近寄れず、俺はコミュ障ではないものの大人数相手に立ちはだかる勇気がない。さっそく手詰まりだ。

 現に、俺が早弁までして佐藤美桜が1人になったところを狙っていたのに、昼休みの今、彼は教室で5,6人の友人と飯を囲んでおりなかなか一人にならないのだ。


 そこで俺は攻め方を変えた。

 今までは、
『校舎裏で集う猫たち』
『屋上で雀と戯れる神田先生』
『中庭にある池の鯉が増えた!?』
 だとかをメインに記事を作っていたし、こういう取材は久しぶりで、しかも本人には近寄れないとなるとどうすることも出来ない。

 だからまずは周りから、つまり佐藤実桜と関わってそうな人たちから攻めようっていう作戦を思いついたのだ。


 そして今の山田で4人目。


「ありがとな山田。これ、お礼のアメな。」

 俺は山田からターゲット情報を無事仕入れた。

 佐藤美桜と話したことのありそうな人で、俺からも話しかけやすい人を選びに選びながら、有り難いことにこの作戦で順調に着々と情報が集まってきてる。
 まぁ1番は本人に直接がいいんだけどな。


 てかそもそも佐藤美桜に許可は取ってるのか?
 今更になってそのことに気づいたが、まぁなんとかなるだろう。いやなんとかさせる・・・田中にな!



「いやアメかよ!・・・にしてもなんで急に佐藤のことなんか調べてんだ?お前らそんなに接点ないよな?」

 文句を言いつつも早速飴玉をなめながら山田が聞いてくる。
 ついつい顎に目がいってしまうのを慌ててそらす。

 だが確かに、ただの同級生というだけで話したことすらないやつを調べあげてるのは、我ながら怪しさ満載だ。

 情報を書き込んでるこのメモ帳なんて、きちんと新聞に載るまで絶対誰にも見せられん。
 秘匿情報だからなのはもちろん、こんなもの見られた日にゃ俺のメンタルが恥死《はずかし》ぬことだろう。

「・・・次の記事に使うんだよ。」


「ん?・・・あぁ!錦って新聞部だっけか。そっかそっか。ま、頑張れよ!」


「わっ!ちょ・・っ・・やめろ!」

 山田は俺の髪を掻き乱して颯爽と去っていった。
 これで4回目。質問した奴ら全員にやられたんだが・・・・・今の流行りか?

 決して俺の身長が低いからとかではないはずだ、決してな!

  おかげでセットが台無しだろーが。

 ・・・まぁクシで梳いてすらいないんだけどな。



 さて、情報もある程度集まったし、そろそろ切り上げるかな。
 昼休みも本鈴まであと10分ちょっとだしな。続きは放課後でも大丈夫だろう。

 次は移動教室であるため、そちらへ向かう。
 曲がり角まで数メートルのところで、そこから人が飛び出してきた。

 あ、ぶつかる・・・


 ドンッ バサササ...

「うおっ」
「きゃっ・・・」


 案の定、向こうとぶつかってしまった。
 と同時に何かが落ちる音。

「すまん!ケガはないか?」

 俺は幸いにもよろめいただけだが、相手方は尻もちをついていた。慌てて駆け寄る。


「いえ!こちらこそごめんなさい!」

 相手も慌てて立ち上がって頭をさげて謝る。

 あれ、この子はたしか・・・


「ほんとに大丈夫?橋本さん。」

 ふと顔を上げる彼女。あれ・・・名前違ったっけ・・・


「は、はい!大丈夫です!・・・錦くんこそ怪我してませんか・・・?」

 心配そうにのぞき込まれ、彼女のメガネに俺が映る。
 俺はひとまず名前が合ってたことにホッとした。



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