祓魔師パロ11000リク閑話 後編 | ナノ


「捕まえましたっ!」

伊月と連絡をとりつつたちが校内の探索を行い、汗だくになった降旗が叫んだ。標的の妖を見つけたのは良いが、祓魔師たちはその姿を見て呆気にとられた。

妖は降旗の腕の中にすっぽり入るような、仔犬の姿になってしまっていたのだ。黒と白の毛並みで、ぽちりと白い眉のような柄があるところや丸まった尻尾が何処と無く柴犬……?のように見える。

「………」
「多分、巨狼(フェンリル)の子供なんじゃないかと……」

今日は満月だ、狼のような獣の妖は力が否応なく活性化され、妖自身でも力の制御がきかなくなるのはよくあることだ。

「他の種との雑種で、本来ない力が発現したのでしょうか…。空間転移を使って"そとくに"から渡ってきたのかもしれませんね」

考察を続けつつ、降旗は仔犬の頭を優しく撫で続ける。仔犬は早くも降旗になついたらしく、撫でてくる手に擦り寄っていた。黒子もそわそわと落ち着かない様子で仔犬を見ていた。

「もともと穏やかな性格みたいだし、満月で気が立ってたのと、祓魔師に怯えて攻撃してきたんだな。と、言うよりは排除か」
「学校にいたのは……小学生に拾われてこっそり飼われてたのかもしれないな」

と、いう木吉と伊月の考察も尤もであるだろう。降旗は腕の中の小さな妖を見下ろして、不安そうに尋ねた。

「それで…この子どうしましょう」
「日向のあの封じで消えてしまわないから、仔犬の時点で少なくとも中級以上なのは確かだな」
「放置するわけにもいかないしねぇ」

木吉の補足の言葉もありリコは腕を組み暫く考えていたが、取り敢えず連れて帰りましょうと一旦事務所に帰ることになった。道中、彼らはたまに仔犬に目をやり、「どっかで見たことあるんだよな…」と悩んでいたりした。





「この犬黒子にそっくりだー!!」
「それだ」

小金井はわぁっと妖を抱き上げる。ぶんっとやりたい放題されている妖はそれでも楽しそうに尻尾を振りまくっている。明るい光の中でよくよくみると、妖の目は透き通った空色で、黒子の目とお揃いだった。祓魔師たちはなんだそういうことかとモヤモヤの原因がわかりすっきりとしていた。

仔犬を囲みわぁわぁと盛り上がる中、一人だけ表情を暗くして輪の中に入れずにいる者がいた。気付いた伊月が声を掛ける。

「…………火神、さっきからどうした?」
「いっ!!………え、なんでもねぇ、です」

火神はおどおどと落ち着かない様子でちらちらと仔犬を見やる。水戸部は小金井の肩を叩いた。

「水戸部?……ねぇ、火神ってもしかして、犬系苦手なの?」

って水戸部が心配してるよ?そう火神に聞いてくる小金井が、今だけ憎かった。火神はぐっ、と言葉に詰まり、首を縦にも横にも振らない。

黒子が冷たい目で火神を見た。

「ああ、だからあんなに狼狽えてあんな失態を晒していたんですか」
「お前"魔女の虎"だろ!!」

黒子と日向の辛辣な言葉が火神の胸に刺さる。火神はうっすら涙目になった。

「こういうときばっかり言うなよそれ!です!!」

火神だって自分でも情けないとは思っているのだ。それでも苦手なものは苦手で、簡単に治るものでもない。火神は落ち込んでその場にしゃがみこんだ。

「よし、それじゃあ飼うか!」

木吉がいつもの調子で提案した。それじゃあの繋がりが理解不能だった火神は真っ青になって反論した。

「でっでででも、コイツ巨狼だろ!満月のたんびに暴れるかもしんないじゃんですよ!」

その言葉に即座に反応したのは、意外にも火神の同期三人だった。三人が三人、不自然なほどはきはきと、笑顔で正論を述べた。

「だったら尚更祓魔師の俺たちが見てやらなきゃならないなぁ?」
「故郷がどこだかわからないし、投げ出すのはちょっと…な?」
「よし、飼いましょう。飼ってたら火神も犬に慣れるかもしれないし」

「おっお前らぁぁぁぁぁぁぁ!!」

同期の裏切りに火神は絶望した。思わず叫ぶと降旗、河原、福田は火神を冷ややかな目で見てきた。火神はそれを、始めは仕事で足を引っ張ったが為の軽蔑の眼差しであると身の縮む思いで受け止めたが、福田の「抜け駆けしやがって」という言葉でどうやら間違っているらしいことを知った。

「ふかふかだったんだろうなぁ…」

はぁ…と発せられた河原の憂いを帯びたため息を聞き確信する。ふかふかといえばアレしかない。

こいつら、木吉さんの尻尾に触れない当て付けを………!下らねぇぇぇ!!ふかふかだったかもしんないけどテンパり過ぎて全く覚えてねぇっつぅの!!

巨狼のこどもは小金井が黒子の下の名前をとって『テツヤ二号』と命名したことで余計愛着が湧いてしまい、事務所でほぼ飼い犬として飼うことが決定した。日向が封印を兼ねた首輪を作ってやり、満月以外は余分な力を発することもなく普通の犬として過ごしている。二号もそんな犬としての生活に不満はないらしく、いつも尻尾をぶんぶん振り回して事務所の中を元気に駆け回るようになった。

「ほら、火神くん。ちゃんとリードを持って下さい」

黒子は全くもう、と呆れて言う。じぃわじぃわと鳴く蝉の声を聞き、余計暑さが増すようだ。しかし小さな毛玉は青々とした原っぱを掻き分けて楽しげにぐいぐいと歩いてゆく。

ショック療法を施された火神は怯えながらも、二号を散歩に連れていくことくらいは出来るようになったのだった。


やわらか自由落下



20130111
(11000hitキリリク作品)

あとがき


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