祓魔師パロ11000リク閑話 中編 | ナノ




祓魔師たちはそれぞれチームを組み、手分けして浄化作業を始めていた。

火神は水戸部と一緒に校舎の中を歩く。勿論黒子も一緒だ。黒子はきょろきょろと楽しげに辺りを見回している。

「ちっちゃい椅子ですね」
「小学生の使う物だからな、サイズはちいせぇよ」
「へぇ、黒板、こんなにでっかいんですか」
「いや、えっ…何言ってるの?つーか置いてくぞ」

そんなとりとめのないことを話したり、途中浮遊霊に成仏を促したりしつつ、彼らはある地点を目指していた。火神の手には赤字で何やら書かれた白い札がある。日向から手渡されたものだ。指定された場所に貼ってこい、と命じられている。

それは良いのだが…火神は困っていた。火神はちろ、と水戸部に視線をやる。すぐに気が付いた水戸部は、にこ、と火神に笑いかけた。

やばい。会話できない。

普段絶妙なタイミングで話の橋渡し(と、いうか通訳)をしてくれる小金井がいないのだ。えーと例えば話題で荷物大きいデスネとでも言おうか、それとも既に何か話しかけられているのか。ぬおおお、と火神は水戸部の声を、言葉を、感じようとしたが。

「……………なんでもねっす」

無理だった。

ともあれ日向に指定され割り振られた三ヶ所に札を貼り終え引き返そうとした時だった。

「…火神くん」
「おう、来たな」
「!」

水戸部も少し緊張して妖気の流れて来る方を見る。

…ゥ……、ぐる…る……

唸り声が暗い廊下の奥から小さく響く。例の大きな"なにか"はどうやら獣の妖、らしい。ただ唸っているだけで今のところ何か仕掛けてくる様子はない。しかしこの、見えないという状況はいけないなと火神は思う。見えない、どんな存在かわからない、無限に広がる可能性が不安感を煽

「ぐる……」
「っぎゃあああああああああああああああ!!!!」
「!?」
「火神くん!?」

ガラス窓から射し込む月光のもとに現れた一匹の、それこそ廊下にいることすら窮屈そうなほど大きな狼を見て、火神は絶叫した。驚いたのは火神の近くにいた他の二人と、一匹だ。

混乱しているのか火神は即座に銃を抜いた。ここまで狼狽している火神は見たことがない。水戸部は目を見開いて咄嗟に銃口を手で押さえ付ける。引き金が引かれることはなかったが、ここまでの動作だけでこちらに敵意があると伝わるには十分だ。

獣の大きな空色の目が爛、と闇に光った。

「――ッ!」

まるで相手を退けるように前足が振られ、火神たちがいた場所が薙ぎ払われる。水戸部が火神と黒子をまとめて引っ張り回避したために事なきを得たが、妖の爪先は窓にぶつかり、ガラスの破片がキラキラと夜空に舞った。

黒子が戸惑い、火神に問う。

「火神くん、しっかりしてください。どうしたんですか」
「お、お、おれ」

火神は怯えふるふる、と体を震わせた。話にならない。そもそも防御の水戸部、攻撃の火神でチームを組んでいる。片方が働かなければ動きが鈍るのも当然だ。水戸部は心配そうに火神に目を遣りつつ、手にしていたペットボトルの封を切った。水がぱっと火神たちの周りに飛び散る。ただの水だった筈の液体はぼう、と僅かに光り、結界が出来上がった。

これで、取り敢えず防御は完成した。そう思い水戸部が一瞬気を抜いた時だった。水戸部の目には窓枠に縁取られていない、そのままの満月が映り込んでいた。

「――!?」

足下には今まで自分達がいた筈の校舎の全景までもが見えた。体の周りには先程結界を作るために撒き散らした水が舞っている。あとは何もない。温い風が下から吹き付け、光を失った水は夜空へと吸い込まれた。気持ちが悪い浮遊感を感じ水戸部たちは自分達が結界ごと空中に放り出されたことを知った。

『物が勝手に動くって』

リコの情報はつまり、獣のもつ"空間転移"という稀な能力を示していたのか――!

叫び声も上げず、火神たちは落下する。体勢は整えるが、なにぶん高さがありすぎる。落下予測地点には木が幾らか生えている。死なずに済むだろうが、怪我は免れないだろう。覚悟を決めた時だった。

――――ぼすっ

そんな音を立てて、火神たちは突然何か柔らかなものに絡めとられ、気付くと地上にいた。

「あ〜〜、近くにいて良かった良かった…」

間延びした声が、緊張感もなく言った。

「木吉さん」

黒子は少し驚いた顔をした。タイミングよく現れた木吉は大きな三角の獣の耳が生えており、黒子たちの下にはクッションのような、銀色でふわふわと柔らかな毛皮がたっぷりと広がっていた。

毛皮。黒子は問う。

「………あのー、木吉さん」
「ん?」
「ありがとうございます、それで、これもしかして木吉さんの尻尾ですか?」
「おう!そうだぞ!」

にっか!と木吉は笑う。黒子は表情こそ固いが、ぱぁと顔を輝かせた。

「ふかふか…ふかふかです……!」

黒子はぽふんっとまたクッションとして使われた木吉の尻尾に顔を埋めた。

「はは、黒子が綺麗にしてくれたからだぞ、きっと!」
「ふかふかがいっぱいですね、すごいです!」
「ああ。だって俺は」
「なっごんでんじゃねぇぇぇよ!!ダアホ!!」

日向が怒鳴りながら駆け寄ってきた。伊月や他の祓魔師たちも後からやってくる。大丈夫か、と心配そうに声をかけてきた。

「怪我はないみたいだな……札は貼れたのか?」
「火神くんが貼ってましたよ」
「そうか。……じゃあ全部貼れたな。話は後で聞くぞ」

日向は真っ赤な札を取り出し、校舎の壁に人差し指と中指で押し付けた。ぶつぶつと日向の口が小さく動き、徐々に赤い札に霊力が籠められていく。記号のような文字の羅列は火神たちには言葉として聞き取ることが出来ない。ぎ、と集中するように日向の目が細められた。

「……"封縛"!」

校舎全体からが一瞬光の柱が上がった。光は中心へ向かって収束していった。その閃光と同時、校内からきゃんっと鳴き声が、聞こえた。



 

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