祓魔師パロ11000リク閑話 前編 | ナノ


ふわふわ、ふさり。気分に任せ揺れる銀の毛並みが陽を浴びてきらきらしている。まるでそこだけ光が増しているように柔らかだ。

この、木吉鉄平の尻尾を狙っている者は多い。彼の尻尾の美しい色合いとふさふさふかふかふわふわな毛並みは誰から見ても魅力的なのだ。彼と共に誠凜祓魔事務所を立ち上げた仲間たちは必然触らせて貰える機会が多々あったのだが――新入りの四人は先輩にそんなことを頼む機会もないかった。彼らは虎視眈々とその機会を狙い続けるしかなかった。

だから黒子の発言には火神も降旗も福田も河原も「なん、だと…?」と目を見張った。

「木吉さんの尻尾触りたいです」

珍しく火神から離れた黒子は休憩をとっていた木吉に向かってそう言った。実に単刀直入な申し出だ。新入りたちは歯軋りした。宴会のノリでも自分たちには言えない、言えなかったことを主張しているこの悪魔が……憎いっ。

「別に良いぞ?」

しかも予想通り、木吉はあっさりと快諾してしまう。火神たちはちらちらと黒子と木吉の様子に目を向ける。

「ありがとうございます。……わぁ、ふわふわですね」

黒子は側にしゃがみこみ、嬉しそうに尻尾に触る。しまいにはぽふっと顔をうずめた。微笑ましい、そしてなんて羨ましいんだ。

木吉は黒子の遠慮のない、子供っぽい仕草を見てけらけら笑った。

「さっき毛繕いしたからな。でも自分の体とはいえ、尻尾だからやりにくいんだよなー…」
「じゃあ、僕がやりましょうか?ブラシでとけばいいんですよね?」

黒子は顔をあげて、自ら申し出た。ブラシをかけるということは必然尻尾に触れる回数が増えるということだ。黒子はこの尻尾が相当気に入ったらしい。木吉は本当か?と嬉しそうに目を見開いた。触らせていた尻尾がぱたっぱたっと愉快そうに揺れる。ふむ、黒子が自ら進んで、何かをやろうとするとは。木吉はこの機会を逃したくないな、と考えた。

「そうだよなぁ、黒子も事務所の一員だからなぁ、ちゃんと仕事も必要だよなぁ。――よしわかった、黒子は俺の尻尾の毛繕い係な!」

決まりだ!、と宣言する木吉。その大きな手で、わしわしと黒子の頭を撫でまわした。話を最初から聞いていた木吉の同期は呆れた顔をし、新人四人はやはりぎりぎりと嫉妬で歯軋りした。

「――さて、ちょっといいかしら」

リコが出力したデータを手に、全員に呼び掛ける。

「今年もやってきたわよ、学校浄化!」
「うはぁーもうそんな季節かぁー」

小金井はぺたり、と机に伏せた。

学校浄化、はそのままの意味を指しており、夏に入りちびっこたちによる肝試しといったお遊びがされる際に滅多なことが起こらないよう、こっそりと祓魔を完了させておこうという仕事だ。面白がって漂ってくる下級の幽霊位しか出没しないので力は使わないが数が多く手間がかかる。また、学校の他にも廃病院や事故現場など、いかにも出そうな場所も別件として浄化活動にあたることになっている。

「いい?こっそり!こっそりやるから、バカガミと鉄平はとくに心してかかりなさいよ!」

名指しで注意をされた二人はちょっぴり不服そうな顔をした。





むっとした熱気がこもり、空気の中を魚たちが泳ぎまわってもおかしくないほどの熱帯夜。今からこんな暑さでどうするんだ、と火神は汗を拭う。

怪我のため本調子でない小金井を事務所に残し、誠凜の祓魔師たちは総出で或る小学校まで来ていた。大きな満月を背景に街灯の僅かな明かりだけがぼんやりと示す建物は、昼の姿とは表情に違いがある。

「まずは一件目ね、それじゃ各班振り分けた通りに行動………ってどうしたのアンタたち」

リコは指示を出そうとするが、初っぱなから小学校を見たまま、じっ…と動かない数人に気が付いた。あまりに不自然だ。問いかけに木吉がうーんと少し困った顔を見せる。

「いやぁ、なんか……いるんだよ」
「いるな、ですね」
「いますね」

木吉、火神、それから黒子までもが、このただの小学校の校舎内に何か大きなものが"いる"と感じ取ったらしかった。リコは面倒だと言いたげに口の端を下げた。

「えぇー………正式な要請だし、陽泉調査隊がちゃんと事前に下見をしてくれたはずよ?そんなでかいのは見落とさないと思うけど」
「だよなぁ、でも…いるんだよなぁ……」

敏感な彼らがそこまで言うのだから本当なのだろう。他の祓魔師たちも口には出さなかっただけで気配自体は感じていたようだ。もしかしたら調査から今日の祓魔までのタイムラグで何か入り込んだのかもしれませんね、と降旗が冷静に推測する。祓魔師たちは今回の浄化作戦にちょっぴり不穏な気配を感じ始めた。伊月は既に"目"を使い校内の探知を開始したらしく、集中するために黙り込んでしまった。

木吉は祓うべき相手の情報を得ようとリコに尋ねた。

「リコ、この小学校って怪談とかないのか?」
「この一帯は小まめに浄化活動をしてるから、そんな話は出てないわよ。出ると言っても幽霊とか、そんなもんじゃ……あ、ひとつだけあるわね。最近の話」

幽霊の悪戯だと思ってたのだけど、とリコは言う。

「物が勝手に動くって」
「ポルターガイストみたいなもんだと思われてたのか。もしかして、ちょっと違うかもな」

木吉は苦笑いをした。日向は静かに話を聞いていたが、

「じゃあ、作戦立て直すか。明日も平日だし、ガキどもが学校にくるからな…危険ならどっちにしろ今日片付けた方がいいだろ」

そう言って、小学校内の見取り図を広げ始めた。そして普段から持ち歩いているのか、コンパスと赤いペンを使って何やらマークをつけていく。日向の行動を見て、リコは慌てて日向の肩を掴んだ。

「ちょっと!日向くん何してんの」
「まとめてやった方が良いだろ?確かに目立つけど、木吉が何かやらかすよりはマシだ」

日向は不機嫌そうにちらっと木吉に目を遣った。

「………と、いうことで日向に任せるよ」

木吉はへらりと、しまりのない顔で笑った。



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