※桜受け ※キセキ黒要素あり ※捏造多め ※方言、わかりません 「おー、部活やってんな」 「あ、青峰さん、こんにちは」 サボり癖はまだ抜けきってはおらず、やや遅刻してきた青峰はほぼ足元からかけられた声に少し驚いた。 「あ?良、なんでこんな隅っこにいんだよ」 桜井がいるのは体育館入り口の角だ。ちなみに彼は床に座り中途半端な前屈の姿勢で止まっている。 「す、すみません、その、委員会で遅くなって遅刻で…すみません」 「だから柔軟やってんのか。つか舞台でやりゃ良いのに。……ふーん、よし、手伝ってやるよ」 手伝う、という青峰からは絶対に出ることがないであろう単語を怪しむこともなく、桜井はただただ慌てた。 「えっあっえっ!?すみませっ青峰さんそんなの良いですよすみませんすみません!」 青峰は桜井の背中に両手をあてる。 「遠慮すんなっつーの、おりゃ」 「わわっ」 くにゃり そんな擬音語が見事に当てはまる。桜井の体は胸が膝にくっつくまで、ぺたりと綺麗に前屈の姿勢をとった。 「………良、お前体やらかいな」 「は、はい…キモくてすみません…」 「いや…キモくはねーけど…」 「成功しとったらようやったって言うてやってもよかったんやけどなぁ」 「あ?なんの話だよ」 練習が続くなか早々に部活を抜け、部室へと行った青峰を待っていたのは今吉と若松だった。どうして既に引退した今吉がいまだ顔を出しているのかというと、「引き継ぎがまだ終わってへんねん」、らしい。だから若松も部室にいたのか。 今吉に意味深に話しかけられ青峰は苦い顔をする。こんなことになるなら部室に来なかったのに。今吉は知っているぞとばかりに言った。 「そやかて青峰、お前桜井にちーとばかしやらしいことさせよ思ったんと違うか?」 「…あー、みてたんすか」 「はぁ!?青峰テメッなにやってんだ!!」 「なに食いついてんねん若松」 思わず若松がツッコむと理不尽な指摘をされた。もちろん若松は狼狽えた。 「ちょっ、いやっ、違ッ」 「むっつりとかキメェ」 「ハァァァァァ!?」 「うるさっ」 今度は青峰の呟きにぶちギレ、若松は叫ぶ。近くにいた今吉は被害を受け思わず耳を塞いだ。青峰は悪びれずに答えた。 「いや、あれは昔テツにやったらすげえ面白いことになったからよ、良もおもしれーかなって」 「まぁありがちやけどな。前には何があったんや」 「いや、ただ単に柔軟してたんすけど。っと――ほれ」 『………ッ、あ、あおみねくん、いたっ…いたいですっ……ふ、や、そんな強くしないでくださっ…も、むりっ』 「」 「」 青峰が操作した携帯から流れ出した音声に二人は絶句した。 「……なんで声、とっといてんねや」 今吉の声がぽつん、と部室に浮かんだ。 「なんか使えそうじゃん」 「何に使うんだよ!脅迫か!?」 青峰はしれっと成果を告げた。 「取り敢えず黄瀬は前屈みになった」 「あの黄色いわんこ、ホンマにぶれへんな……」 「そのあと音源寄越せってうるさかったぜ、やんねーけど。そういや、録音しろって言ってきたのは赤司だったな」 「おいあの魔王なに考えてんだ」 「あー、多分やけどただただ面白がってんと違うかな、あとは相当黒子が好きなんやな」 『悪童』花宮からサトリと言わしめられる今吉の考察であるから、概ねあっているのだろう。 「ふんっ、桜井の体が軟らかいことなんて普段一緒に部活でてりゃ、わかんだろが。サボってるから失敗すんだよバーカ!!」 「若松さんてガキすか?」 「お前に言われたくねぇぇぇぇぇ!」 「…………。まぁ、柔軟でああいう声を桜井に求めるのは無理やろな。ちぃと息を詰めるくらいやろ」 「そうすね…って今吉さん!!ナチュラルに話を駄目な方向に持ってくのやめて貰えますかね!?愉快犯ってわかってるんすよ!!?」 「若松…!?気付いてたんか、ゆうかそんなんわかる脳があったんか!!」 「ちょいちょい酷いこと言わないで貰えますかね!?」 もう若松は涙目だ。 「でも、他に良を喘がせる方法ってあるか?」 「あえっ…!?」 さらりと青峰が言うのに若松はぼっと顔を染めた。 「……ムッツリ」 「ウルセーよ!!!!」 「王道やったらひとつあるやん」 「「えっ」」 二人は同時に今吉を振り返った。この二人、どこか似ている。多分馬鹿なところだ。 「足つぼとか」 「あー、確かに王道だわ」 「これ、ついでに他にもイイコトがあんねんな」 「え、なんですか」 なんだかんだ食いつく若松。今吉はとてもいい笑顔で言った。 「半ズボンやったら内腿がちらちら見える。あと足先好きに弄くれる」 「「……おおおおお」」 馬鹿しかいねぇ。 「いや、でもそれっていつやるんだよ」 「部活中は無理やろなぁ?」 「足つぼやってやるっておかしすぎるっすからね…でも仕掛けるとしたら次の合宿とかか…」 「あいつ拒否はできねーし押しきっちゃえば…」 ぶつぶつ計画を練ったりない頭をひねり始めた二人を見て、今吉はくつくつと笑っていた。 その頃、練習が続く体育館には諏佐が訪れていた。 「桜井、練習捗ってるか」 「あっ諏佐さん、すみませんこんにちは」 「そろそろ休憩か。キリがいいなら、ちょっとこっち来いよ、」 「はい」 桜井はさっと諏佐の側へ駆け寄った。 「こないだ桜井が言ってた雑誌のバックナンバー、何冊か思いきって取り寄せたんだ」 諏佐の話に桜井はぱっと顔を輝かせた。どうやら桜井が相当読みたいと思っていた雑誌らしい。 「えええ!ほ、本当ですか!?」 「おう、俺も読みたかったしな。桜井も勿論読みたいよな?」 「はいっ、あ、俺なんかがおこがましいですねすみませんすみません」 「はは、読みたくないのか?」 「っえ、あ、」 ちょっと意地悪な諏佐の返しに桜井は言葉に詰まった。 「そこは素直に『はい』だけで良いんだよ、な」 諏佐は諭すように言う。桜井はおたおたした後、俯いて頷いた。 「……はいっ」 「おう。じゃあ、うーん、持ち運ぶには少し重いし、今度の休みに寮に来るか?」 「ええっ、でも僕なんかがお邪魔しちゃ」 諏佐はにこりと笑う。桜井の卑屈さにはすっかり慣れているのだ。 「重いから来てくれると楽だ」 「あわわ、で、でも」 「俺も勉強してるし、お互い静かにしてたら良いさ」 「あ、う、ありがとうございます!」 断る理由がなく、ついに桜井は素直に礼を言った。 「じゃあ――ってあれ、桜井なんかついてるぞ?」 「へ?」 「首のとこ……埃か?」 諏佐が桜井に手を伸ばし、短く切られた爪の先が僅か皮膚に触れた位のことだった。 「ひゃ、」 桜井は肩を跳ねさせて身を引いていた。諏佐は大袈裟な反応に驚いていた。 「さくらい?」 「すっすみませんすみませんすみませんすみませんすみません!!じっ自分くすぐったいのが苦手で…!!」 「えっそうなのか!?1年一緒にいたのに全然知らなかったわ、………へー…」 「す、諏佐さん?」 不穏な空気を感じ取り、桜井は諏佐を見上げる。諏佐は両手を伸ばした。 「どれ」 指先が楽しそうに暴れた。 「っひゃあぁぁ!?っちょ、んやっ、あ、ひ、やっです、っん、諏佐っさん!!やだっ!」 両手で首を擽られた桜井は逃れようとばたばたともがいた。が、相手が先輩であるのが引っ掛かり決定的な抵抗はできなかった。 「あはは!マジで弱いな!」 「はっ、だからっ、言ったじゃないですか!!」 桜井は涙を少し浮かべつつ肩をすくめ、上目遣いに諏佐を軽く睨んだ。珍しく少し怒っているようだ。 「ははは、悪い悪い!それじゃまた、次の休みにでも」 言って宥めるように諏佐は桜井の頭に手をやった。 いまだ部室で無駄話を繰り広げる青峰たちは、諏佐の一人勝ちを知らない。 20121219 あとがき back |