「あいつらホモだよね?」 「あいつらがどのあいつらなのかわかっちゃうんだよなぁ…」 早くに部活から上がって部室で着替えながら宮地が言い出した。木村は肩を落としながらそれに答える。 「でも恋愛感情かは微妙なラインじゃないか…?」 「ん?あいつらって誰のことだ?」 信じられないものを見るかのような目が大坪に向けられた。 「おい おい嘘だろ」 「それはねぇよ大坪、冗談だよな?」 「いや、冗談を言っているつもりはないのだが…」 大坪はぽりぽりとこめかみを掻く。 「レギュラーの1年コンビだよ!鈍すぎだろ!!」 「あれってただ単に仲が良いだけなんじゃないのか?」 「仲良すぎっつか歪みすぎだろあれは!」 宮地は全力で大坪に反駁するが、木村は顎に手をあてた。 「いやでも大坪には友情に見えてるんだから、まだホモではない、のか?」 「んなわけあるかぁ!」 宮地はぐぁぁと叫ぶ。 「移動の時は送迎してクラスでもべったり部活でもめっちゃ馴れ合ってる(わりと一方的)!ネタはあがってるんだよ!!しかも高尾に至っては緑間に『好き』って何回言った!?多すぎて思い出せねぇんだけど!!」 「……………言われれば言われるほど際どい……」 「そうか?」 やはり大坪はぴんとこないようだ。 「まぁあれでも可愛い後輩だからなぁ、あんまりそういう考え方はしないのかもなぁ」 大坪の包容力に宮地は一時停止した、が。 「――わかった、じゃあそういう目で見てみろ。そしたら俺の言うことが絶対わかっから!」 そう真剣な目で大坪に迫る宮地を見て、大坪は若干困惑しつつも頷いた。 「お疲れっす!!」 数分後高尾と緑間が部室に帰ってきた。おつかれさん、と三年レギュラーも言葉を返す。緑間はいつも通り愛想が悪く、むすっとした顔で自分のロッカーに向かっている。 「皆さんまだ部室残ってたんすねー!!てっきりもう帰ったかと思ってました」 「そういうお前らは随分遅かったな。でも、練習し過ぎもよくないから気を付けろよ?」 「はいっ」 穏やかに注意する大坪に高尾はにぱっと向日葵のように笑って見せる。全員が和んだ。 大坪・宮地・木村は自分達がいまだ話に夢中になっているようなふりをして部室に残り、高尾と緑間の観察を続ける。二人は着替えを始めていた。 「…………」 ぺたっ 「は?」 Yシャツに着替えていた緑間が不意をつかれた声を出す。高尾が手を伸ばして緑間の腹を触っていたのだ。ぺたぺた。ぐにぐに。 「おい高尾何をしている」 「いや腹筋スゲーなと思って。めっちゃ割れてるんだけど」 「今さら珍しいものでもないだろう」 緑間はさらりとそう言い捨てたが……。いいいいい今さら珍しくもない!?だとぅ!?三年はびくぅと動揺した。 高尾は緑間に頷く。 「そりゃ部活とか着替えで見ちゃいるけどさぁ」 おあああああそうだそうだった俺らも見てんじゃん!!三人は今度はふぅぅと安堵のため息を吐いた。ホモ疑惑を持っていることで彼らは完全に空回っていた。 「いきなり触るな。不快だ」 「んー?いきなりじゃなきゃいいの?」 「そういうこっちゃないのだよ」 「どういうこっちゃなのだよ」 「高尾、真似するな。それと日本語になっていないのだよ」 「あははっ」 むっとした緑間が今度は高尾のシャツの裾をつまんだ。 ぺろ 「うわっ」 「……………ふん」 シャツをめくりあげた先にあった高尾の腹を見て、緑間は鼻で笑い手を離した。 「えーなんだよその反応!ちゃんと俺だって腹筋あんぞ!割れてんぞ!ほらほらっ触ってもいーぜ!!」 高尾は自分でシャツをめくりあげて主張した。 「いらん!腹をしまえ!そもそも男の腹筋に対して反応も何もないだろう」 「恥じらうとか」 「意味がわからん」 |^o^)┐<…? 宮地の中ではやはり彼らは完全にクロらしく、二人のやり取りにやきもきしていた。木村はうーん…とどちらとも言えないと首を捻っている。一方大坪は部室に残った目的を完全に見失ったらしく緑間と高尾のやり取りを微笑ましそうに見ていた。大坪は小さな声で嬉しそうに言う。 「緑間は突き放すようで、案外高尾の相手してるんだな。ちゃんと仲良くしてて改めて安心したよ」 「大坪ォ!お前はオカンか!!」 宮地がキレた。 「す、すまん」 「まぁまぁ。…そういや、明日って調整日だよな」 木村がとりなすように話題を変えた。 「ああ、祝日なのと、監督の都合でな」 「じゃあウチ来てさ、DVD見ようぜ。バスケの。宮地はアイドルのライブDVD持ってくるんじゃねーぞ」 「えー、布教しようと思ったのに」 宮地は不満げだ。 そんなとき、緑間が高尾に言った。 「明日、本を買いにいく」 「ふーん」 「リアカーは要らないのだよ」 「えっ」 (((えっ))) おそらく緑間以外全員の心がひとつになっていた。 あんまりにも急な話だったため、流石に高尾も困惑気味に緑間に尋ねる。 「待ってちょっと待って俺も行くの?」 緑間は偉そうに鼻を鳴らした。 「そうだ。わざわざ本屋に行くと俺が宣言しただけだとでも思ったのか」 「うん確かに不自然だとは思ったけどね、ごめん油断してたわ…」 宮地・木村はぎぎぎ…と音を立てて高尾たちを振り返る。緑間から、デートのお誘い…だと…(※違います)。しかも高尾、良いのか、そんな誘われ方で不満はないのか。 高尾はうーん、と少し考えて答えた。 「明日はガチで予定ないしー、まぁいいけど」 良いんだー!!!! 「真ちゃんと本屋デート楽しみぃ〜」 「ふざけたことを言うんじゃないのだよ、馬鹿め」 冗談めかして高尾はけらけら笑う。対して怒りつつも緑間はまんざらではなさそうであった。少なくとも、宮地の目にはそう映った。 「なぁ…なぁ、ほもだろ?」 「うーん…」 「まぁ仲が良ければ良いじゃないか」 「「………」」 結局三人の立場は変わらないまま、おそらく無駄でしかない議論は一度幕を閉じたのだった。 20121123 あとがき back |