忘れ勝ち 01 | ナノ


01


俺もまだ高校生で子供なわけで、お正月にはとてもシアワセなイベントを迎えることができる。日本の素晴らしき風習、お年玉だ。毎年約束されている臨時収入を得て俺の懐は随分とあたたかになった。早速そのお金の一部を使おうと俺は駅近くのBOOK・OFFに向かった。目的はゲームだ。

出場することはなかったけれど、WCも終わって部活も一度落ち着いて来ていて、多少融通の利く時間が増えたのだ。それでやることがゲームというのもやる気がないというか生産性がないというか…あまり良いこととは言えないけれど、まぁお気楽な身分なのだから許してほしい。

年始に浮わつく街の中を、久々にほのぼのした育成ゲームなんてやりたいなぁ、と浮わついた気持ちを押さえることもなくふらふらと歩いた。途中見かけたクレーンゲームで一発でぬいぐるみがとれたなんてラッキーが起きたり。この調子で良い一年になってくれるといいなと思う。

そして商店街に入ろうとした時に、視界に、高校一年生にして洛山高校バスケ部主将、ついこの間生まれて初めて敗北を知った人――のそっくりさんが映り込んだ。

いやいや現実逃避なんてしてないって。それにしてもよく似ているなー。身長は俺とおんなし位だし髪は赤いし両目の色は赤と黄のオッドアイだしってああああああ言ってたらなんだか自分が追い詰められている気がしてきたぞ。

俺はぷるぷると首を振った。気のせいだ。絶対に気のせいに決まってる。俺、何にも見てないし。そもそもあの魔王がこんなところにいるワケないって他人他人!

鋏の錆びになりたくない俺はさっさと人混みに紛れてしまおうとした。黒子ほどではないが、人の中に隠れるのは得意なのだ。けれど最後にちらりと目の端に捉えてしまった彼は初対面の時に感じた、あの尋常でない威圧感が全くなくなっていた。それどころか上等そうなコートの裾をぐしゃっと握り潰して、今にも泣き出しそうな顔をして突っ立っていた。人々が何かを目指している中、河の中にぽつりと沈みそうになっている岩みたいだ。

その姿はあまりにも頼りなかった。彼の表情は足を一歩踏み出すことすら怖れているかのように見えた。何か……困っているのだろうか?

俺は肩の力を緩めた。

「………ああ、もう」

父さん、母さん。もしかしたらさようならかもしれません。

半ば冗談、半ば本気で脳内で呟く。俺は数回深呼吸を繰り返し、鋏の餌食となるべく赤司征十郎その人に近付いた。

「あの、赤司…くん、だよね?」

情けないくらい弱々しく声をかけると赤司はぴくりと肩を震わせた。彼は体を一歩後退させ、怪訝な顔で俺を見た。

「……………だれ?」

うわー。

羞恥で死にたくなった。そうだった、俺は周りから得る情報もあって赤司のことを知っているけれど、赤司はWC開会式で俺に帰れと言ったあの僅かな時間しか俺を認識していないのだ。目立つ火神と違って俺は凡百な存在であるし、その上自己紹介なんてできる状況ではなかったから名前も知っていないだろう。あとは試合中ベンチにいたけれど、眼中に無かっただろうし…。

顔が熱くなるのを感じつつ、俺は補足した。

「え、と…黒子と火神のチームメイト…なんだけど…」
「…クロコ?………よくわからない、でも」

がしっと赤司が俺の両肩を掴んだ。

「なぁ、君は僕のことを知っているんだよな!?」
「へっ!?あ、赤司!?」

ぐっと距離を詰められて、びくりと怯えてしまった。そして赤司の発した言葉の意味がちょっとよくわからない。

赤司は泣いてしまいそうな、悲痛な顔で言った。

「なんにも思い出せないんだ、ねぇ、僕は誰なんだ?」



20121120

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