秀徳無駄話 01 | ナノ


※微妙に小説版2巻ネタがあります





「宮地さんて女装似合いそうですよね!」
「よぉし、高尾歯をくいしばれ」

宮地は拳を握った。

「えっちょっいやいやいや待って待って待ってくださいよ宮地サン!!」
「るっせぇな、確実に喧嘩売っただろ今ぁ!!女顔って言いてぇのか?大体190超えの男子が女装とか死んでるだろ!!ねぇよ!!」

宮地の弁舌は尤もであったが。

「そうですか?」

言ったのは緑間で、意外過ぎる人物の介入に部室にいるレギュラー皆がポカンとした。

高尾は青ざめた顔で訊ねる。

「え…………?『俺、女装した宮地さんでもイケるのだよ』ってこと?真ちゃんそういう趣味あったの?」
「違うのだよ!どうしてそうなる!!」

よくわからない深読みを始めた高尾を受け、理由を説明する必要があるなと嘆息して緑間は口を開く。

「中学の頃、文化祭で紫原が女装させられたことがあったのだよ」
「…!?」

宮地は恐る恐る緑間に問うた。

「緑間…紫原って確か…」
「その頃から身長は2mを越えていました」

でけぇ…。高尾だけがぶはっと噴き出した。

「しかも、その姿がかなり好評だったんです」
「なんだそのイリュージョン」
「それで緑間は身長の高い宮地でも女装は似合うと言ったのか」
「理由はわかったけど何一つ良くねーよやっぱコイツら轢く」

木村がつっこみ大坪は緑間の説明に概ね納得したが、依然として宮地は戦闘体勢に入っていた。大坪は穏やかに言う。

「まぁ、宮地は確かに可愛い顔だし、
「大坪!?」
似合うかもとは思うけれど、高尾とかも似合いそうだな」

話の矛先が自分に向いて高尾は驚く。

「えっ、俺っすか」
「ああ、高尾は目が大きいし童顔っぽいからな」
「うぇー…嬉しくねぇー…」
「それをテメーは俺に言ったんだよっ」
「あたっ」

ぺしんと宮地は高尾の頭をひっぱたいた。高尾は頭をさすりさすり緑間を見上げた。

「んー…あれ、ていうか…真ちゃんもいけそうじゃね?」
「は?」
「だって真ちゃん…」

緑間は心底嫌そうな顔をしたが高尾は続けた。まじまじと顔を見つめる。

「睫毛長いし。顔綺麗だし、ていうかそこまで男臭くないし」
「なっ」

高尾の発言のせいで全員の視線が緑間の顔に集まった。

「ガタイは良すぎっけどメイクとかすればもっと…ん?」

言いかけた高尾の目が、部室のベンチに置いてあるものに留まる。にたぁー、と彼は嫌な笑い方をした。

「真ちゃんのぉ、今日のラッキーアイテムはー………こちらっ☆」



\メイクボックスー/



「うっわ、しかも中身まで完璧揃えてあるんだな…」
「おは朝ってマジで都合良いな」

大坪と木村は緑間のラッキーアイテムをしげしげと見つめる。母親のメイクボックスでもここまでちゃんとはしていないので物珍しかったのだ。緑間にとってはなるべく良いものを求めたことが仇となった。

いやだぁぁぁぁやめるのだよぉぉぉぉと抵抗する緑間を宮地は輝くような満面の笑みで押さえつけ、高尾がこちらも輝くような満面の笑みでメイクをしていった。宮地は変化していく緑間の顔を間近で見て感心したように言った。

「高尾メイクうまいな…」
「妹ちゃんが雑誌見てやって手こずってたのたまに手伝ってたらコツがわかったんすよー、あっちょ真ちゃん動くなって!」
「なんだそりゃ仲良いな。つーか妹はおませさんだな」

宮地は緑間を押さえている腕に力を更にこめた。高尾の妹ちゃんはお年頃なのだろうか。きっと化粧に憧れて、親の道具を借りて試していたのだろう。

そうして暫く経つと緑間の顔は――ものすごいことになっていた。

高尾は身震いする。

「俺…………自分の手が恐ろしいわ…」

すごい美人が出来上がっていた。

高尾は抜かりなくベースメイクから丁寧に始めらたらしく、滑らかな肌には綺麗にファンデーションがのっている。頬にはほんのりとチークを。もともと長かった睫毛はビューラーで上を向かされて、マスカラもつけられて綺麗に伸び、目を縁取るアイラインも濃すぎず効果的にその威力を発揮している。アイシャドウは落ち着いた紫、口紅は強めの紅にぷるんと透明感を出すグロスが重ねられている。

「……………………」

美人はむっつり黙り込んで物凄く不機嫌だった。

秀徳レギュラーはしげしげと緑間の顔を見つめる。

「いやマジで凄いって。短髮でも見れちゃうってどういうことなんだ」
「このきつめの赤い口紅が似合うヤツって女でもそういないだろ。目のやつ、アイシャドウ?も案外強い色が似合うんだな。紫か」

単純に完成品に驚嘆する木村に対し、宮地は高尾の化粧の技術にも唸っている。

「それにしても、化けたなぁ……すっげぇ美人なオカマって感じか?」
「俺最初『緑間キメェ』ってオチがつくと思ってた。いや緑間も体は普通に男だし充分キモいけどそうでなく」
「わかるぞ。俺たちがやったら絶対にオチはそうなってただろうな」
「な。想像するのを脳が拒否するレベルだし……でも、」

大坪と木村は言って、ちらと視線を交えた。言葉を超えたやり取りが、瞬時に行われた。

最終的にいい気味だと緑間を笑っていた宮地は完全に無防備な状態だった。

「ざまぁー…へっ?」

がしり、と大坪と木村の二人は左右から宮地の腕をロックした。

「「高尾」」
「了解でっす☆」

呼び掛ければこちらももう言葉は要らない。緑間も犠牲者が増えることに同情こそすれど止める気はなかった。

何が行われるか悟った宮地の口からはこれでもかというほどの罵詈雑言が飛び出したが、木村と大坪による拘束はほどけることもなく、十数分後には高尾の手によりまたも筆舌しがたい芸術作品が仕上がっていたのだった。

「なぁ、ところで、これって水で落ちるのか?」
「あっ」



20121029

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