海常無駄話 01 | ナノ


※笠受け
※捏造過多





「壊れたな、って瞬間ってないか?」
「いきなりどうしたんだ森山」
「いや、だから壊れたなって」

部活終わりの部室。森山が何やら言い出した。小堀は少し悩んで答えた。

「沸かしたハズの風呂のお湯がかぶったら冷水だったとき」
「ごめん小堀、そういうことじゃなかった」
「え、どういうこと」

森山の問いは抽象的過ぎて伝わっていなかった。森山は質問に条件を付け足した。

「『自分が』壊れたなって思う瞬間」
「自分が?」
「オ(レ)は★○◆▼…」
「早川は今度聞くからな?」

森山は優しく早川を黙らせた。慣れているなぁと黄瀬は思う。小堀は悩む。

「うーん…。ていうか、聞くんだったら森山にはその瞬間があったんだろ?」
「まぁな」
「話してみてくれよ」

森山は語りだした。

「俺が小5の時かな…近所に住んでた地味系女子のおねぇさんがいきなりエロカワ系素敵女子に変わったんだ」

またコイツは女子の話を…と小堀は内心ため息をついた。今は席を外しているが、笠松がいたらすかさずつっこんでくれたろうに。小堀は仕方なしに続きを促した。

「……ああ、それで?」
「いきなりどうしたの、って聞いたら『ヨシくんも大きくなったらわかるよ』って唇なぞられて耳いじられて」
「………………………!?」

もはや痴女じゃないかそれ!?

「なんか、すっげぇエロくてさ……あれでピュアな自分壊れた。オトナになりたくてしょうがなかった。開眼したんだよ。女の子の魅力は無限大だ、と」

森山は当時を思い出しているのかぽっと頬を染めている。小堀は嘆いた。森山の女好きの起源を知りそれさえなければもうちょっとコイツはどうにかなったんじゃないかと思わずにはいられなかった。

「で、どうだ小堀。お前はなんかないのか」

森山の要求はそっち系の話なのだろうが、小堀は色っぽい話には正直疎い。

「えーとー多分、森山が期待しているような話はないぞ。あーそうだ黄瀬はどうなんだ?」
「えええ俺スか!?」

小堀先輩今絶対逃げるために俺に話ふった!!とは思えど上下関係は絶対だし…。黄瀬はむぅと考えて語りだした。

「俺はですね――」



その日の夕方、黄瀬は途方に暮れていた。

父が出張。母は旅行。そして家の鍵が、ない。つまりは家に入れない。慌てて財布を確認すれば、金がない。これでは電車を乗り継いで黒子に泊めてもらうこともできない(おそらく頼んでも断られるだろうことは気付かないことにした)。

てぇことはこのままじゃ野宿!?

しかし真っ青になった黄瀬の脳に妙案が閃いた。

「笠松せんぱぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「るっせぇ!!騒ぐな駄犬!!!!」
「ひどいっすぅ!でもお願いがあるんです!!聞いて欲しいッス!!
 ――今晩泊めて貰えないでしょうか!?」
「いやだ」
「ふぇぇぇぇぇいやぁぁぁぁぁぁぁせんぱぁぁぁぁぁぁぁい!!」

黄瀬はぎゃあぎゃあ騒いで縋り付いた。親がいない鍵がない金がないとまくしたてる。笠松が今夜の自分の生命線なのだ。ご飯は我慢するからせめて寝床を!!

なんだかんだ面倒見が良いキャプテン笠松は結局断り切れず、黄瀬は笠松宅に泊まらせて貰えることになった。ごはんつきだった。

問題はここからだ。

翌朝、いつもより早めに目が覚めた黄瀬は笠松の母親に笠松を起こして来るように頼まれた。

「いつもはちゃんと起きるのに…ゆきちゃん疲れてるみたいねー。お願いしていいかしら?」

お母さんにゆきちゃんって呼ばれてるとか意外過ぎるッス!と内心爆笑しながら黄瀬は笠松の部屋に向かった。

昨日笠松に部屋には入るなと言われたが、不可抗力だと気分を弾ませながら黄瀬は扉を開けた。

黄瀬はふざけて声をかけた。

「ゆきちゃんセンパーイ、朝ですよー」
「…んん、…………うー…」

むずがる笠松の声がしてベッドを覗くと、笠松は黄色い大きな犬の抱き枕にしがみついてまるまっていた。部屋の中はなんてことはなく綺麗に整頓されていたが、ところどころ可愛い小物がおいてあった。笠松の母の趣味が影響しているのかもしれない。

「せんぱいってば」

黄瀬は笠松の肩を揺すった。

「んぁ、やぁ…だ」

笠松は枕にこめかみを擦り付ける。あれー、なんか…かわい…えろいぞー…。

「…せんぱぁい…」

もう一度揺すると、うっすら開かれた瞳が黄瀬をとらえた。

「や、んぁ、……きせ?」

開かれた唇の桜色とか、夢現で回ってない頭が紡ぐ言葉とか、とろんとした目とか、抱き枕に絡み付いている足とか、あのいつも凛々しいキャプテンが甘えたのようにふにゃふにゃしている様だとか



「ストレートだと思っていた自分の性的指向に対する見解が壊れた瞬間だったッス……………」

「…」
「…」
「…」

早川までもが黙った。黄瀬、お前はこんな他愛もない無駄話になんてもんをぶっこんでくるんだ。

「いや…でも実際笠松は…エロい」
「森山!?」

同調した森山に小堀は慌てた。

「ッスよねー!?」
「笠松のハイソ(じゃないけど)とかなんだろな、狙ってるだろ。ハイソ似合う男子高生っていていいのかね」
「もりやまー!!?」
「小堀は思わないのか?」
「ぐっ」

小堀は視線を泳がせる。

「………………………思う」
「やっぱりな」

小堀はもじもじと言った。

「そのな、笠松は小さいから、こう…いつも上目遣いなんだよな。………そいうとこ、とか」
「小堀センパイわかってるッスね!!」
「笠松センパイはなんかや(ら)しいですよ!!」
「早川もか…!!」

その時がちゃりと部室の扉が開いた。

「あ、お前らまだ着替え終わってねぇの?ちんたらしてんなよな」

笠松が部室に戻ってきた。

「ああ、悪いな」
「今着替える」
「オ(レ)急ぎます!」
「荷物まとめるッスー」

素直に言うことを聞く4人に笠松は首を傾げる。

「どうかしたのか?」
「「「「いえ、別に」」」」

今日の結論。

我らがキャプテンは――エロい。



20121018

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