祓魔師パロ12 | ナノ


※ややグロ注意


火神の負傷は首の痣といくらかの裂傷、全身の筋肉痛だけだったためその日のうちに退院となった。体は重かったが火神はそのまま小金井の病室へ向かった。個室であることが小金井の状態が如何に悪かったかを示唆しており、無事だとわかっていても火神の心臓は嫌な鳴り方をしていた。

病室には日向と福田がいて、小金井は眠っていた。血色が良くなっていて、火神は胸を撫で下ろした。

「お、火神。退院したか」
「うす。その…今回は、すみません」

火神は日向の目を見ることが出来なかった。そのことがますます後ろめたい、気まずい、ばつの悪い気分にさせた。

「別にお前は悪くないだろ、気にすんな」

日向は口元に優しく笑みを浮かべ、言った。

「………。小金井さんは…」
「熱が出てる。だけどそんなに高くはないしあとは順調だと思うぞ。安心しろ」
「…そ、すか」

小金井にも早く自分のいたらなさを謝りたかったが、まだ時間が必要であるようだった。福田は火神の後ろを見て水色のひっつき虫が見当たらないと首を傾げた。

「黒子はどうしたんだ?」
「……出てこようとしないんだよ」

福田はえ、とひどく驚いた顔をした。

「そうなのか?アイツが約束破るのなんて初めてだな」
「まぁしゃあないだろ」

日向は黒子を咎めることは何も言わず、訳知り顔で頷くだけだった。そして、腰をあげて、

「それじゃ…見てるだけもあれだ、火神も来たしこのまま一旦帰」
「よっ!小金井、起きてるか?」

日向の言葉に被さるように木吉が病室の入り口にひょこりと顔を出した。気を抜いているのか公共施設にも関わらず尻尾は出っぱなしでぱたぱたと揺れている。ついでブチッ、と何かが切れる音がした。こちらは木吉からではなく、たぶん、日向の、血管…から。

えっ、何でこのタイミングで?火神と福田には理由がわからなかった。

立ち上がった日向は大股で木吉に近づいていった。その迫力はあの木吉が思わず身を引くほどで、火神と福田も緊張してしまう。日向は低い、それは低い声で言った。

「木吉…ここはどこだ?」
「? 病院だな」

木吉は何を聞いてるんだとでも言いたげに答える。

「なに病院だ?」
「普通の総合病院…霧崎病院だぞ」
「そうだ、だから……」

日向は右手を振り上げた。

「テメーは絶対来んなって言っただろうがぁぁぁぁぁぁ!!」

スッパァァァン!!と非常に良い音を立てて日向の手は木吉の側頭部をひっぱたいた。火神たちは呆気にとられる。手加減なしの本気の一発だった。だが、それでも木吉への効果はイマイチのようで、木吉は叩かれた場所を手で押さえ反論した。

「イテテ、でも小金井が心配じゃないか!」
「おのぞみならばカメラでムービー撮ってでも見せてやるっつの!!だから来んなって、あれっほどっ言っただろがこのダアホがぁぁぁ!!」

ぎゃあぎゃあ騒ぐ二人の会話の内容に火神と福田は追い付くことができない。一番は小金井が起きてしまわないかとハラハラしたが眠りが深いらしく、彼は変わらず規則正しい寝息を立てていた。

「と、取り敢えず落ち着いてください」

控えめに福田が日向の肩を叩くと病室であることを思い出したのか、日向は苦い顔をして黙った。しかし説明が必要だろうと、一度は閉じた口を再び開いた。

「……霧崎病院には付属で研究所があるのは知ってるな?」
「はぁ…。ここに一番近いのは"霧崎病院附属第一研究所"、ですね。敷地内ですし。第一では怪異の研究がされている筈ですけど」

福田が答える。"こちら"のことに疎い火神はそうなのか、とこっそりと覚えた。

「そんで所長の花宮ってヤツがこっちでたまに医者もやっててだな…」
「昔ここに入院中だった俺の右足を勝手に切って持ってっちゃったんだ」
「っえぇ!?」

徐々に苛立ちを殺しきれなくなっている日向に続いて木吉があっけらかんと言った。ぺしぺしと自分の右足を叩いて、今はちゃんと足があることをアピールしているけれど正直新人二人には意味がわからない。人間の四肢というのはそんなに簡単に着脱することができただろうか。

日向がふぅぅ…、と深いため息をついた。

「すぐに取り返したけどな。木吉は半妖だろう?研究がしたかったんだと」

足だけ持っていってどう研究したかったのかはわからないけれど、と日向は言った。当時を思い出しているせいか、疲れた様子を見せている。

当事者・木吉からの説明を聞いたところ、眠っている間に間に突然足を切断されて(つまり麻酔も無し)、あまりの激痛で飛び起きたら血塗れの鉈と自分の右足を持った花宮がいたらしい。

「いやー、あれは驚いたし、痛かったなぁー」

もう次元が違いすぎてのんびりと過去を振り返る木吉に誰もつっこむことはできなかった。日向は説明は終わったとばかりぐいっと木吉の背を押した。

「と、いうワケだ。オラ、とっとと帰るぞ」

しかしまたしても日向は邪魔されることとなった。

「ふーん、帰るんだったら手か足か、頭でも良いぜ。おいてけよ、木吉」

背を押され病院の廊下に出た木吉の正面には、白衣を着て不穏な笑みを浮かべた医師が一人立っていた。ただ、立っているだけなのに、危険。そんな言葉がよく似合う。格好こそ医師ではあったが、纏う暗い雰囲気のせいで行き来する看護師たちからは完全に浮いていた。

医師の姿をみとめると木吉はにこりと笑ったが、日向の表情は一層険しくなった。

「花宮、久しぶりだな」

火神と福田は花宮、という単語に驚いた。丁度例のぶっとんだ話を聞いたばかりなので、警戒せずにはいられない。

「あと、すげー痛いから体切り取るのは勘弁してくれな」

木吉は冗談めかして笑った。花宮はふーん、と気のない返事をした。

「じゃあ髪の毛くれよ。こないだは誰かさんたちのせいで邪魔されてまともに調べられなかったんだ、ちゃんとDNA解析するからよ」
「おう!そのくらいだったらいいぞ」
「木吉ッ!!」

蟠りを感じさせることもない木吉と花宮の会話についに日向が怒鳴った。花宮はそこに来てやっと日向を見ると、顔を近付けた。

「うるせーなーここ病院。騒いでんじゃねぇよ、バァカ」

日向の口元は怒りに震えた。

「こら、花宮、煽るな。いてっ」
「よし髪の毛げっとー」

花宮は木吉の頭に手を伸ばすと遠慮せず髪の毛を五本ほど一気に引き抜いた。抜いた髪の毛はポケットから出した試験管に詰めている。日向にはもう目もくれていない。

「あとはついでに」

ぺたぺたとスリッパを鳴らして花宮は木吉と日向の脇をすり抜けると、火神の正面に立った。

火神は怒気を含んだ眼で花宮を見下ろす。

「…んだよ」
「別に?」
「、イテェっ!?」

花宮は火神からも髪の毛を引き抜いた。本調子でないこともあり突然の行動に火神は避けることができなかった。当然火神はますます感情を尖らせた。

「んでだよ!?」
「お前も半妖だろ」
「ちげーよ!!それはくろっ」

黒子が、と言いかけて火神は喋るのをやめた。花宮に特殊な悪魔の黒子のことを教えることに抵抗があった。

「…」
「大人しくなったな。理由は聞かないでおいてやんよ」

調べりゃわかる。花宮はそれだけ言って火神の髪の毛も別の試験管に入れると、病室から出ていこうとした。

火神はその背中を睨み、呼び止めた。

「待てよ!」
「あ?何だよ、敬語も使えねーのかテメーは」

花宮の言うことは確かに尤もではあり火神は言葉に詰まったが、声だけは落ち着けて構わず続けた。

「……なんで、木吉サンの足、切るようなマネしたんだ。研究のためとか、お前自分のことばっかじゃねーか。それに、」
「ふはっ、そんなことかよ。簡単な話だ」

花宮は火神の言葉を遮り、嘲った。

「人権があるのは、人間だけだろーが」


どっちつかずの持つ権利



20121017
20121026

 

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