祓魔師パロ8 | ナノ


いい大人二人が公道をひた走る。しかもガチだ。道行く人は彼らを不思議そうにはてまた怪訝に振り返った。しかし男たちはそんな視線には構わず疾走していた。

ヤバイ。

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!

「何アレ!何だよアレ!!悪霊が黄瀬涼太に憑依してんのかぁぁぁ!?」

全速力で走りながら小金井が絶叫した。突然のことに混乱してしまっているのだろう。火神も怒鳴り返す。

「あんだけヤバイのが憑いてたら人間の肉体はそうそう持たねぇよ!!です!!多分完全な人間の姿に顕現できる上級悪魔だ!!」
「火神くんご名答です」

いつの間にか黒子は消えていて火神の影から落ち着いた声がした。火神は今度は黒子に怒鳴った。

「テメッ黒子ッ!!嘘ついたなあんな凶悪なのが仲間とか聞いてねぇぞ!!」
「失礼ですね、嘘なんてついてません。言ってなかっただけですし仲間じゃないです。今は」
「『今は』じゃねぇぇぇぇぇ!!向こうはなんだか未練たらたらじゃねぇかぁぁぁぁぁ!!」

しかもちゃっかり影に入って楽してんじゃねぇよ!僕は足が遅いですからこっちのが都合良いんです。つーか俺なんて武器持ってねぇよぉぉぉポケットに小銭しかねぇ!そうして無駄に会話を続けていた時黒子が強い口調で言った。

「取り敢えず、事務所への帰還は避けませんか。あそこの僕が這いれてしまうレベルの結界に黄瀬くんが入れない訳ないです。それに武器があっても戦闘には向かない場所ではないですか?」
「………うーん、だなぁ、んじゃせめて俺が戦いやすい場所に行かせて貰うな!火神、ついてこいっ」

息は大分上がってしまっていたがなるべく速度は落とさずに二人は走った。

だが、

「駄ぁ目。全然遅いッスよぉ」

「!!!」

ざぁっと急停止した二人の靴と地面が擦れる。黄瀬はにこにここちらを見ながらガードレールに凭れていた。ちらほらと人目もある中で、唯一武器に銃火器を持っている火神も無闇に発砲することは出来ない。一般市民を巻き込むとリスクばかりが増してしまう。小金井もパーカーのポケットに手を突っ込んでいるだけで、相手の出方を待たなくてはならない状況が出来上がってしまった。

黄瀬は相変わらず邪気を垂れ流したままさらりと前髪を揺らす。黄色が、鈍く光る。

「へへ、うっかり追い付いちゃったッス」

顔は無邪気でも言葉には悪気満載だ。火神は脳内で様々な逃走経路を展開させるが、小金井の後に続いただけであるためここらでの土地勘はまるでないし、火神自身黄瀬を足止めするような防御系の技を持ち合わせていない。弱った、正直そう思う。

「ていうか相変わらずイラッときますね君の発言って」

悩む火神の背後から唐突に、毒づきながら黒子が現れた。言うまでもなく不機嫌だ。黄瀬は苦笑しながら答える。

「えぇ〜?相変わらずって、ずっとそんなこと思ってたんスかぁ!?黒子っち、ヒド……」

言いきらぬうちに、黄瀬から笑顔が消えた。不可解そうに、随分と冷めた目で黒子を見つめる。

「…黒子っち今どこから………?」
「何言ってるんですか、ずっとここにいましたよ」

黒子は端的な答えを返した。そんな黒子に黄瀬が向けたのは随分と懐疑的な視線だった。

「……ふぅん、そうだっけ?」

不穏な様子の黄瀬から、黒子は一歩後退した。明らかに気圧されている。蚊帳の外の二人にわかるのは黒子の行動のうちの何かが黄瀬を激しく苛立たせているということだけだった。

黄瀬はぐいっと前髪をかきあげた。

「もぉぉ面倒ッスね……黒子っちと一緒にいるってだけでズルいしさぁ、
 ――も、こいつら殺していっかな」

黒子ばかり見ていた黄瀬の目が、鋭く火神と小金井を捉えた。全員が邪気の中にはっきりとした殺意を感じた。諦めて火神が拳銃を抜くより先、小金井はパーカーのポケットから小銭を黄瀬に向かってばらまいた。

追い詰められた人間の憐れな行動か。しかしそう判断するには早過ぎたようだ。

「"結べ"っ!!」

小金井が叫ぶと小銭と小銭の間に閃光が走り、黄瀬を中心にひとつの陣が結ばれた。不意を衝かれた黄瀬は怯んだ。

「なんスかこれっ」
「今だ走るぞッ!!」

小金井は火神の手を引き走り出した。火神は武器がないと言っていた小金井の突然の攻撃に驚きを隠せない。

「今のは!?」
「金属を使った簡易結界だよ。即席のだから強度は保障できねーけどっ」

つーか今ので五百円玉捨てちゃった…泣きてぇー…。涙目で小金井は説明した。そしてついでさっさと火神の影に潜った黒子に問いかけた。

「で、黒子、さっきの結界って有効?」

間を置いて黒子が答える。

「"やまと"の術って基本"向こう(そとくに)"と性質が違うんですよね。効果抜群とは言えませんが、黄瀬くんにとってもあの結界を敷かれるのは初めてですし簡易なら三分持てば良いんじゃないですか」
「みじけぇっ!」
「ははっ充分だぜ!」

正直な火神に対し小金井は鷹揚だ。

息を弾ませながら、火神も黒子に話しかけた。

「…なぁ黒子、」
「はい」
「お前、"そとくに"から来たんだな」

黄瀬が話したことと黒子の発言をまとめると火神でも簡単にその結論に至る。小金井もちらりと、地面に落ちる火神の影に目を向ける。

「…ええ、まぁ」

歯切れが悪いが、黒子は肯定した。火神は穏やかに言う。

「あとで、話せよ?」
「……」

何を、とは言わなくても通じるだろう。

これは疑問を放置した無責任さが呼んだツケなのだと火神は思う。黒子は返事をしなかったけれど、火神はあまり黒子を責める気はなかった。

そして、彼の話を聞くためには、黄瀬をどうにかしなければ。


鬼ごっこ続行中



20121008

 

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