祓魔師パロ6 | ナノ


なるほど、ミイラ取りがミイラだ。

火神が少女に連れてこられたのは自然公園の奥まったところで、年を重ねた桜の大木がひっそりと、でもどっしりと生え空へと枝を伸ばしていた。その桜の枝の先の方、頭上高くに仔猫が一匹。しきりに下を見てうろうろしているのは降りれなくなったからだろう。そしてもう少し下の方にちいさな子供が一人、木にへばりついている。半べそをかいていて動こうとしない。どうやってこの状況が出来たのか想像に難くなかった。

人があまり分け入ってこない場所であるため、木霊は火神たちを呼びに来たのだろう。

「先に子供から救出すっか…」

火神は木に手をかける。気を付けろよ、と背後から声がかかった。自分の体重がけして軽くないことはよくわかっているので、言われた通り枝の強度を確認しつつのぼった。子供がいる場所はそこまで高くない。火神はすぐに子供の側までのぼり、しゃくりあげる子供を抱き抱えると地面に飛び降りた。

「よっ、」

きっちり膝を折り曲げ衝撃はほとんどなかった筈なのだが、地上に降り立つと子供はわんわん泣き出した。

「うおっ!?、え、なんで!?」
「乱暴なんですよキミは」
「まぁ手っ取り早ぇけどな」

黒子はため息をつき、河原は笑う。火神は狼狽えつつも一生懸命子供をあやそうとするがうまくいかず、降旗にパスした。

「さて次は猫か」

福田は懐に手をやりつつ毛玉を見上げる。

「それじゃもっと手っ取り早く終わらせるか」

取り出したのは経文だった。福田が経文は開かないままに経を唱え始めると、しゅる、と経文が白い蛇に変わり、枝を伝って仔猫に緩く巻き付いて、仔猫を連れ地上に戻って来た。

「お疲れさま」

蛇は福田の手のひらに戻るともとの経文へと姿を変えた。

蛇に大人しく巻き付かれていた仔猫は地上に降りたときで恐怖が臨界点を突破したのか、一目散に走り去っていった。

「つれない…」
「いや、蛇は充分怖いって」

残念そうな福田に河原は冷静に突っ込んだ。

事態の終息を見届けた木霊の少女は火神たちに微笑んで手を振ると大樹の中へととけていった。先ほどとは違い、落ち着いた風が穏やかに花弁を降らせる。

「…立派な樹だな」
「そうですね」

黒子は火神を見上げた。

「誠凜祓魔事務所は不思議ですね」
「え?」
「僕は、祓魔を狩りだと思っていました。だから、人と人でなしとの関係も大抵が喰い合い、喰われ合う関係と思っていました」

でもキミたちは僕たち怪異とほどよく付き合うんですね。

火神は初めて祓魔に行った時のことを思い出す。祓魔を終えた後、木吉はこんなことを言っていた。

――火神、確かに人間に害をなす怪異は祓うべきだ。お前たちは人間なんだから。だけどな、だからといって人間の都合を押し付けるような祓い方じゃ、やっぱり駄目なんだよ。

きっと木吉の存在が、半分妖であるということも誠凜事務所で働く人々に影響を与えているのだと思う。彼らはとても優しい。降旗、福田、河原もきっともっとそういう性質が強くなっていくのではないだろうか。

しみじみと感傷に浸っている間に実は先ほど救助した子供が迷子であることが判明した。先程の仔猫を追いかけているうちに公園の深い場所まで入り込んでしまったらしい。

だよなぁ…。

「ここの公園、園内放送あったよな?そっち行って…」

降旗がそう言って移動しようとした時、ピンポンパンポーン、とういうお馴染みの音階が公園内に響いた。

『――迷子の、お呼び出しを致します』
「あ、丁度呼び出しが…」

全員が耳を傾けると。

『赤い髪に赤い目をしたバカっぽい…むしろバカな身長190cmくらいの男の子と、茶髪と短髪と坊主頭でそれ以外特徴を丸めて捨てたような三人の男の子を探しています。全員二十代前半です。服装は…』

「う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

誠凜祓魔事務所新人祓魔師たちは自分たちの侵したミスと二十歳を越えて酷い内容で迷子放送をされた羞恥のあまりに絶叫した。しかし放送は止まってくれることもなく、淡々と火神たちの細かい外見の情報を伝え続けた。

人の多い場所に行くと沢山の、おいさっきの放送コイツらじゃねーかという視線が突き刺さった。居たたまれない。男の子を連れたまま慌てて放送のあった場所まで行くと、建物の外に強かに酔っ払いいつもより何倍も容赦なくなっているリコたちが待ち構えていた。

火神たちを建物の裏手に引きずり込んでリコは笑った。

「ねぇ〜、どんな気分だったぁ?成人式なんてとっくに終わったっていうのにさぁ、迷子放送されちゃってさぁぁ、ねーぇー、どんな気分だったぁああ?」
「いや、もう…ほんと………すいません…………」

謝ることしか出来ず新人たちが縮こまる。水戸部がおろおろと、困ったように動いた。小金井は酔っ払ってひっく、としゃくりあげながらいつも通り通訳した。

「止めたんだけどダメだった、ごめんね、だってぇ〜、あはは、水戸部やっさしーい」
「ていうか、俺視野広いから、お前らがいる場所くらいフッツーにわかったんだけどな」

にこりと笑って言うのは伊月。彼は顔には出ていないがそこそこ酔っているらしく、楽しそうだから黙ってた、とほざいた。

やっぱり先輩祓魔師たちは火神たちへの制裁として園内放送という手をとったらしい。酔ったノリで放送内容にも口を出したのだろう。……えげつなさすぎる。

す…と日向が前に出てくる。顔が真っ赤だ。もうアル中でぶっ倒れる寸前なんじゃないかと疑いたくなった。

「取り敢えず、シメル」

日向は細長く切られ中央に何やら書き込みがされた紙を四枚取り出すと、ビッ、と横に空を切るように投げた。瞬間リボンのように伸びた紙はそれぞれの体に巻き付くと、ぎちぎちと捕食を行う蛇のように全身を文字通り物理的に、締め上げた。

「えっ、ちょっとひゅうがさっイタッいたたたたたたたたたたたたいたいいたいイッテェェェェェ!!!!」
「いきっ、いきができねぇっ!」

締め上げられる四人を見て、日向は今度はしょんぼりと眉を下げた。

「折角お前らのための集まりなのに、主役がいなくなったら意味ないだろ、ダアホ…寂しいじゃないかよ…」
「日向さ…っ!言ってることはっなんか感動的…なんすけど……っ主役が永遠にいなくなりそうです…………!!あっ」

つっかえつっかえ反論していた福田は突然くたりと抵抗をやめた。

「福田ァァァ―――!!」
「福田がオチたぁぁぁ!」

気を失った福田を目の前にして騒いでいると背後で大人のものではない、高い、風船が弾けたような盛大な泣き声がした。

「ッうぁああああん!!」
「えっ何!?」

事情を知らない者たちは驚いてそちらを振り向く。輪の外にぽつねんと立っていた黒子の隣りで子供が怯えて大泣きしていた。

「えええ!何この子!いつからいたの!?」
「最初からいました」
「うっそ、あいつらに気ィとられ過ぎて気付かなかった!!」

黒子は子供をあやそうともせず、放置。慌てて土田が子供の相手をした。

そして突然いなくなった理由がわかった日向はやっと後輩たちを解放し、

「じゃあ親探して呑み直すかー」

と、伸びをした。

放送をかければ子供の親は直ぐに見つかった。一件落着だ。

しかしこのお花見で新人祓魔師たちはこの事務所の制裁の厳しさを骨の髄まで思い知り、例の放送内容を思い出してがっくりと肩を落としたのだった。


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20121004

 

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