黒こげハンバーグ2 | ナノ


ちょっぴりご機嫌ななめな青峰を引き連れ桜井は店内を一周した。明日の弁当用のベーコンと挽き肉もカゴに入れ一通り買い物を終えると、二人はレジに向かった。覚悟はしていたけれど、物凄い渋滞だ。棚の間の通路にまで会計待ちの列が伸びている。一気に疲労感が増し思わず仰ぐと上の方の棚に不安定に商品が積んであるのが見えた。きっと商品の置場所に困った店員がやむなく積んだのだろう。まぁ珍しくもない光景だ。

どう考えても待ち時間が長くなりそうだったので、桜井は青峰に先に帰ることをすすめようと青峰を振り返った。

「青峰さ…」

しかし、その青峰の向こう、すぐ後ろで、偶然さっきの子供がふざけた拍子に棚に強くぶつかるのが見えた。

「良!?」

考えるのよりも先に体が動いていた。だから何がどうなったのか桜井はよく覚えていないけれども、子供がぶつかった衝撃で落下してきた商品はぼこぼこと桜井の頭や背中に当たって、抱き締めた子供に何かがぶつかった様子はなかった。

落下してきたのはどれも軽いものばかりで数も少なくて助かった。あの荷物の積み方はやっぱりちょっといただけなかったかなぁと思いつつ、桜井は子供から身を離す。

「大丈夫?」
「………うん…」

子供は桜井を見上げてもじもじと答えた。流石にこの状況は自分に非があるのがわかったのだろう。危ないことを分からせるなら今だ、店員がやって来る前に諭そうと桜井は穏やかに話し始めた。

「じゃあ、ここであんまり騒ぐとあぶないって、わかったよね。あのおにいちゃんもさっき――」
「たくちゃんどうしたの!?」

だが、試みは甲高い女性の声に遮られた。恐らくこの子供の母親だ。母親は桜井と子供の間に割り込むと子供を庇うように抱き締め、キッと桜井を睨んだ。

「何やってんのよ!ウチの子供に何?どこの学校よアンタ!!」
「へ、えぇっ!?す、スイマセン、スイマセンスイマセン!!」

キツく一方的に責める口調に桜井はテンパって反射的に謝ってしまう。桜井が何かをした訳ではないことは一目瞭然であるのに、この母親は随分と視野が狭いらしい。たまに見掛けるタイプだ。事情がわかっている周囲の人も呆気にとられている。

「おい」

そんな中青峰が母親に向かって低い声を出した。

「何勘違いしてんだ。テメーがガキの面倒ちゃんと見てねぇからこうなってんだろーがよ。ガキから目ェ離すな。勝手に離れねぇように手ェ繋ぐとかいろいろあるだろ。良を責める前にちったぁ考えろよそんくらい」
「はぁ!?」
「ちょ、青峰さんッ」

青峰の嫌悪と非難を隠さない言葉が一触即発という言葉がとてもしっくりくる状況を作り出した。このような事態に直面した場合謝ることしかスペックにない桜井はもうどうすることもできない。

眉をつり上げた母親が反論しようと口を開いた、が、丁度その時店員がやってきた。間に人が入ることで少しばかり冷静さを取り戻したのか、周囲の異物を見るような目に気付いた母親はもう一度青峰と桜井を睨んで去って行った。ただ、その母親についていく子供の方は申し訳無さそうな視線を最後まで桜井に向けていた。





「卵買ってなくて良かった…」

はぁー、と桜井は息をつく。さっき子供を庇った時に買い物かごを投げ出してしまっていたのだ。桜井が持っているレジ袋には無事買うことが出来た食材たちがいる。

冷たい風がひやりと額を撫でていった。日はすっかり沈んでもう夜だ。隣を歩く青峰はわかりやすいくらい苛立っていて、口をへの字に曲げているのが街灯の光で見えた。

「………」
「……ふふっ」
「あん!?」
「スイマセン!!」

吹き出した桜井を青峰は睨んだ。しかし、同じバスケ部、クラスにいてもうちょっとで半年が経つ。桜井も青峰にちょっとは慣れて来ているワケで。

「スイマセン、でも、青峰サンがあの時すごくまともなこと言ってたから…あははっ」

謝りながら桜井は笑いだしてしまう。一方青峰はきまり悪そうにしていた。

「テメ、今日はやけに笑うな」

青峰は桜井を小突いた。そして、少し声のトーンを落として続けた。

「つか……お前らしくない、ああゆうの」
「え?はは…たまには僕だって頑張りますよ」

桜井は苦笑する。ついでにふと、青峰だったらどうやって子供を助けていただろうかと考えた。自分は身をていして子供を守るくらいしか出来なかったけれども、本気の青峰ならもっと格好よく、最低限の被害で済ませるのではないだろうか…。そう思うと、あの時は精一杯カッコつけたけれど、何故だか恥ずかしい気すらしてくる。

「こっそり、知らねぇ女からかっこいいって言われてたの、聞こえてたか?」
「ええ!?そ、そうなんですか…?」
「かわいいとも言われてたなー」
「はぁ…」

かわいいは微妙だけど、かっこいい、はちょっと嬉しいな。普段言われない言葉に桜井の口元は少し緩んだ。

「でも俺は可愛い良の方が好きだな」
「へ」

思わず桜井は青峰を見上げた。青峰も桜井を見ていて、感情の読めない顔で繰り返した。

「かっけぇ良よりかわいい良のが好き」

桜井が何も言えずにいると、青峰は視線を前に戻して、右手を顎にあてて何やら思案している。

「そんでさ…………、良は俺にだけ可愛いって言われてりゃ良いんだよ、うん」

桜井は混乱する。青峰がどういうつもりでそんなことを言っているのかわからない。男に向かって、可愛い方が良い、なんて。桜井でもむっとしてしまう言葉だ。そんな言葉な、筈なのに――どうしてだろうか、桜井は青峰に可愛いと言われることを、少し嬉しいと思ってしまった。

胸の奥が、擽られてるみたいにむずむずとする。それを誤魔化すように桜井は青峰に質問した。

「……明日キャラ弁、何にしますか」
「んー…、じゃあ、バスケットボール」
「楽で嬉しいんですが、スイマセン、それ、キャラじゃないです」

お互いの通学路の分岐点まで、青峰と桜井はゆっくりと歩いた。頭上の街灯が一度だけぱちり、と瞬いた。


黒こげハンバーグなんてヘマはしない



20121002



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