祓魔師パロ5 | ナノ
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ぶわっと強く吹き付ける風の中には柔らかな草木と桜の薫りが混じっている。吹き飛ばされた淡い色の花弁はひらひらと舞い踊り、その中の一枚は黒子の髪の上に着陸した。

どーん!と地面に大きく広げられたブルーシートの上には、見慣れてきた顔が集まっている。

見上げれば快晴。絶好のお花見日和だ。

リコは立ち上がり青空に向かって紙コップを掲げた。

「ってわけで!歓迎会兼お花見を始めまーす!!いらんことは言わない!呑みたい!カンパーイ!!」

元気な乾杯の音頭に合わせて、それぞれが紙コップを手に取り互いにぶつけ合った。中身は大半がビールで、一部の下戸はオレンジジュースだ。黒子は悪魔なのでおそらく年齢で言えば何回も成人を終えているだろうけれども、人目につくとややこしいので有無を言わさずオレンジジュースを与えられていた。

「まぁ、麦酒は苦いですし最初からこっちの方が良かったんですけどね」

作られた時代が古いものはなんでか知ってるんだよなぁコイツ。黒子の声が聞こえた日向はビールに口をつけつつそう思う。この間事務所のコーヒーメーカーを楽しそうに、不思議そうに見ている黒子を日向は見かけたからだ。逆にどうしてコーヒーがどんな飲み物なのか知らなかったのか疑問だ。

黒子の隣に座っていた火神は黒子の話を聞いて、やっぱコイツ子供舌だなぁ、と思ったが言うときっと拗ねられるのでやめた。ただ黙って、黒子の髪に絡んだ花びらをとってやった。

「おーい、火神。これも食べるか?」

もっきゅもっきゅと水戸部特製花見弁当をひたすら食べていると(火神の分は別枠で作られていた)、同期から声をかけられた。火神は顔を上げてそちらへにかっと笑った。

「おう、食う!サンキュ福島!!」
「福田だよ!!」
「あれっ」

盛大に名前を間違えられて福田は全力で突っ込んだ。

「ひでぇ…同期じゃん四人だけじゃんかよひでぇ…」
「わ、わりい」
「まぁまぁ、そんな気落とすなよ福田…」

項垂れる福田を、側にいた河原が慰めた。ついでに自分を指差して河原は火神に訊ねた。

「念のためだけど。火神、俺の名前はわかるよな?」
「………………………」
「最初の一文字すら浮かばないの!?」

間違えてすら貰えないだなんて…と河原は膝を抱えて福田同様に鬱モードに入った。今度は福田が慰める。忙しい。

黒子は呆れた様子で火神の肩をぺちぺち叩いた。

「火神くん、この人の名前は河原さんですよ」
「あ、そう、それだ!」
「黒子は覚えてるってどういうことなの…え、じゃあ火神、アイツの名前は?」

落ち込む河原の背中を優しく叩きつつ、福田は木吉にお酌をしている降旗を指差した。火神は即答した。

「え、降旗だろ?」
「「解せぬ」」

火神は落ち込む二人に慌てて、降旗は専門が"そとくに"だからよく祓魔の質問をされるんだよ!とフォローを入れた。

「確かに、俺たち大学じゃ仏教専攻だもんな」
「全然畑が違う、か」

二人の話を聞いて火神は一番はじめの自己紹介をうっすら思い出して、ああなんかそんなこと言ってたなぁと頷いた。火神も仏教くらいはわかる、ホトケとかシャカとか。

河原はおにぎりに手を伸ばす。

「あぁでも、降旗は優秀ってのは分野違ってもわかる。"そとくに"について研究してるって言ってたけど、他の分野にもかなり詳しいんだ。俺らのちょっと濃ゆい仏教トークに参加できるレベル」
「それはすげーけど、仏教トークて面白いのか…??」

聞けば、降旗には怪異にとても詳しい知り合いがいるのだとか。まぁ、降旗の知識量は主に彼の努力がなすところであるので、火神は純粋に降旗に尊敬の念を抱いた。

噂をすればなんとやら、火神たちの方へ降旗がやってきた。

「なーに話してるの?俺も混ぜて」
「お前の話だよ」
「何それ照れちゃう」

出会ってまだ日は浅いが、火神たちは和気藹々と親交を深めた。黒子は進んで交流しようとはせず、うっかり忘れられるくらいこっそりと火神の背の後ろに半分隠れていたけれど、たまに自分に振られる話には静かに答えていた。

十分ほどそうして、火神は同期で固まりすぎかもしんねぇなぁと腰を上げた。

「てーか日向さんたちにも話…わぷっ!?」
「火神!?」

そう切り出した時、大量の桜の花びらの塊が火神の顔面にぶつかり弾けた。噎せるような桜の香りが鼻をつく。うっかり吸い込んでしまい舌の上に数枚花弁が貼りついた。思わず尻餅をつくようにしてもう一度座り直した。

「っぺ、なんだ、今の」
「奇跡みたいな花のかぶり方だったぞ…」
「一気に散らかりましたね」

火神の周囲には花びらが一段濃く積もっている。ありえねーと舌打ちするとぐっ、と強く服の首根っこを引かれた。

「ぐぇっ」

今度は喉が潰れた。

何なんだよもう!誰だよ!!と火神は苛立って服を掴んでいる手を振り払うと勢い良く振り返った。

振り返った場所には十歳くらいの見知らぬ女の子が立っていた。肩口に切り揃えられた真っ黒な髪と涼やかな目元が印象的で、うぐいす色の帯で締めた淡い桜色の和服に身を包んでいる。靴を履かずに歩き回っているのか、裸足は土で汚れていた。

河原が尋ねる。

「また火神の知り合いか?」
「いや…」

少女は小さな手を伸ばして、ぐいぐいと火神の服の裾を強めに引っ張った。こっちに来て。少女は喋らないけれど、そう言っている気がする。

「おい、服伸びるって!なんだよわかったよ行くよ!だから靴履かせろ!!」
「火神!?」

火神はがぁがぁ言いながら、少女に手を引かれついていった。黒子も後に続いている。残された同期三人は暫し黙考し…腰を上げた。

「行くか…火神わかってんの、かな?」
「わかっててああなんじゃないかな。あの子、人じゃないね」
「仏教漬けでもわかるぞ。ありゃ木霊だなー…」

"やまと"の怪異たちの暗黙のルールに正直疎い火神を野放しにするのも恐ろしいと三人は後を追いかけた。

そして五分後、うっかり事務所初期メンバーで固まって呑んだくれていたリコたちはやっと気付いた。

「あれ?」
「新入りたちが……………………………いない」


知らない女の子にはついていってもいいですか?



20120930

 

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