祓魔師パロ3.5 | ナノ


重い。でも軽いものが、火神の体にしがみついていた。熱くも冷たくもなく、ただ存在している。火神はまだ重たい瞼をゆっくりと開けた。ベッドに寝ている自分の脇に、ベビーブルーが見えた。

「………朝か」
「おはようございます火神くん」

呟くと、丁寧な挨拶が返ってきた。そこで漸く、火神は現在の状況のおかしなことに気が付いた。

「おい」
「なんですか」
「どうして俺のベッドに寝てんの。お前俺の影に住むんじゃなかったのかよ」
「そうですけど、あんまり寝心地の良さそうなベッドだったので、つい」

黒子には悪びれた様子もない。悪魔相手に道徳を説いても無駄なのか。火神は話を続けるのも面倒だったので、そーかよと言い捨てた。会って間もない黒子ではあるが、不思議と不快感がなかったためさほど気にならなかった。

起き上がり、顔を洗うと火神は朝食の準備を始めた。朝は資本だ。まずはコーヒーメーカーにスイッチを入れる。ハムエッグを五つほど作り、更にソーセージも炒めて盛りつけた。次に冷蔵庫からレタスとキュウリ、トマトを取り出し簡単にサラダを作る。ドレッシングを選んでいると、トースターから二枚食パンが飛び出した。部屋に食欲をそそる、良い匂いが漂っている。

ここでひとつ問題が生じた。

「で…黒子。何がしたいんだお前は」

例の悪魔少年はずっと火神の後ろをついてまわりぺったり貼り付いていたのだった。まるで親のあとを追いかける幼児だ。物珍しそうにコーヒーメーカーを見つめていた目が火神を振り返る。

「別に。見学みたいなものです」
「………一緒に食べるか?」
「また悪魔に食事を勧めるんですか。奇特な方ですね」

火神は片眉を上げた。そしてふっと目線を落とすとトーストにバターとマーマレードを塗ったくり、皿にのせて乱暴に黒子の前に置いた。

「ほれ、座れよ。食うぞ」

簡単にそう言うと、火神はどかりと座ってトーストにこってりとバターを塗り始めた。

黒子はぽかん、と火神の様子を見た後、くすりと笑みを漏らした。席につき、いただきます。丁寧に言って黒子はトーストに小さくかぶりついた。

「そーそ、食っときゃいーんだよ」
「火神くんの取り分が減りますよ?」
「いや、俺今なぁんか食欲わかねぇし、ちょっとくらい良いよ」
「充分食べてるじゃないですか」

もっさり盛られたハムエッグ、ソーセージ、サラダを見て、黒子は嘆息する。間もなくそれらは理解できない速度で火神の胃の中に収まった。

ふぅー、と一息ついて火神がコーヒーに手を伸ばした時、黒子がコーヒーをじぃ…っと見つめていることに気が付いた。

「…飲むか?コーヒー」
「こーひー。さっきあの不思議な機械で作っていたものですね」
「あれはコーヒーメーカーだ」
「いい香りがしますね。飲んでみたいです」

火神はマグカップに一杯コーヒーを入れて黒子に差し出した。黒子はわくわくしながらマグカップに口をつけて――盛大に顔を歪めた。

「にがいです…」
「あぁ、ミルクとガムシロ入れるか」

濁った色にまた口をつけ、黒子は一言。

「……やっぱりにがいです…」

どうやらお気に召さなかったようだ。バニラシェイクを好んでいるし、黒子はきっと甘党なのだろう。その様子があんまりに幼かったので、火神は思わず吹き出した。

「ふはっ、見た目だけじゃなくて、舌もおこちゃまだったな」
「………」

けらけらと火神は悪気なく笑った。しかし、火神のあんまりな言い様に黒子はむっと拗ねて、誠凜事務所に着くまで火神の影の中に引っ込んでしまった。





「なるほどな、いつもああじゃなくて、拗ねてたのか!」
「そーなんすよ」
「拗ねてないです」

木吉は火神の説明を聞いて納得した。黒子は木吉との約束を守り影の外に出てきていたが、むっつり黙ったままだったのでずっと疑問に思っていたのだ。

今、事務所にいる祓魔師のほとんどは昼休憩をとっている。火神のデスクにはやはり大量のパンが盛られていて、誠凜の祓魔師達はげっそりとそのパンの山を見た。

黒子は火神の隣にイスを貰って、足をぶらつかせている。木吉は黒子の頭に手を伸ばした。

「でも黒子、俺もブラックコーヒーは飲めないぞ」
「そーなんスか?」

火神が意外そうな声をあげる。わしりわしり、黒子の頭を撫でながら木吉は苦笑いをした。

「ありゃ苦くてかなわん。コーヒー牛乳っていう世界的発明があるから、今度一緒に飲もうな」
「……はい」

穏やかな木吉の誘いを聞いて、黒子はほんのり口の端をゆるめた。

「木吉さんの影に住むのも良いかもしれないです」
「ん?そうか?今度ウチに遊びにくるか?」

木吉は友人を招くような気軽さで黒子を誘った。話を聞いていた祓魔師はぎょっとした顔で木吉を見た。黒子も目を見開いている。

しかし。

「――でも、駄目なんです」

黒子はいつの間にやら機嫌良く言った。

「火神くんじゃないと」

木吉には黒子の執着がどこからきているのかわからなかった。

「んじゃ俺、コーヒーとってきます。牛乳あったら折角だからカフェオレ、作ってくる」

火神はがたり、と席を立った。黒子も一緒に席を立つ。ツンツンと拗ねていたのに、何故だか黒子は火神から離れようとしないんだよなぁ。木吉はくつりと喉を鳴らした。


適切な甘みとまろやかさ



20120927

 

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