祓魔師パロ1 | ナノ


いつも通りマジバでハンバーガーを二十個ほど購入して火神大我は席についた。高い身長と、錆びたような赤い髪と目のせいで彼はとんでもなく目立っていた。しかし火神は普段から目立っているため全く意に介さず、バクバクとハンバーガーを消費しはじめた。

昔から大食らいだったけれど、最近更に腹が減るようになったなぁ。火神はそんなことをつらつら考えつつ食べる。盛られたバーガーの半分くらいを食べ終えた頃だろうか、不意に声をかけられた。

「随分な量を食べるんですね」

火神は咀嚼を続けたまま、ちらりと声の方へと目を向けた。

もやしのような少年が立っていた。薄い水色の髪にそれと揃いの大きな瞳。病的なほどに真っ白な肌。中性的な佇まい。服装はパーカーにジーンズとよく見かける物だ。

ただのティーンズに見えたのだが、職業柄火神は少年を警戒していた。理由は少年が話しかけるまで火神が彼を認識できなかったからだ。武器はいつでも取り出せるようになっている。

火神は口の中身を嚥下すると少年に答えた。

「……まーな。早食いも得意だぞ」
「賞金のある大会に出れば、食べるだけで生きて行けそうです」
「そこまで言われたのは初めてだな」

火神の食いっぷりを見て話しかけてくる人は案外いるけれど、なんだか突飛なことを言われ火神は笑いを漏らした。

「確かに、知らねえおっさんが喜んで一皿奢ってくれたりなんかはある」
「楽しそうですね」
「………ああ、まぁ。つーか、」

座れば。警戒はしつつも、火神は少年に席をすすめた。少年の儚げで寂しげな姿が初対面なのに放っておけなかった。火神の兄貴分が見ていたら怒りそうな状況だ。

少年はびっくりして戸惑っていたが、ぽすりと火神の席の向かいに座った。

「俺、火神。お前は?」
「…そうですね……黒子と言っておきます」
「なんだそりゃ。じゃー黒子、お前なんか頼まねぇの」

座れと言っておいてなんだが注文する様子もないのが気になった。黒子はお金がないんで、と言う。

「それになんだか君が食べているもの、油っぽくてしつこそうですから、嫌です」
「食ってる奴の前で言うなよ。つか、もしかしてマジバで食ったことねぇの?」
「店に入るのも初めてです」
「………珍獣だな」

全世界に店舗を展開している大型チェーン店であるマジバに入ったこともないとは…。火神にとっては奇跡のような存在だ。

「じゃあこれ飲んでみるか?」
「? なんですか、これ」
「バニラシェイク」

黒子は首を傾げながらシェイクを受け取ってストローに口をつけた。こくりと喉が鳴り、ほんの少し、黒子の無表情に変化がついたように火神は思った。

「……めっちゃおいしいです」
「そりゃ良かったな」

火神はなんだか勝ったような気分になりにやりと笑った。それじゃあストロー換えれば良いだけだしシェイクを返して貰おうか、と手を伸ばしかけた時にまた黒子がシェイクを飲み始めた。別にあげてないし俺のなんだけど、と言おうかと迷ったが黒子がいたくバニラシェイクを気に入ったようだったので、火神はシェイクに別れを告げたのだった。

黒子がシェイクを飲み終わった時、丁度火神のトレイの上のハンバーガーもすっかりなくなった。

「あー、食ったぁ」
「シェイク、ごちそうさまでした」

火神に向かって黒子は礼儀正しく頭を下げた。火神は気にすんな、と答える。警戒もいつの間にかといてしまって、火神は黒子に対して何も疑っていない。どころか、屈託のない笑顔を向けている。

「一人で飯食うよりも楽しいしな。でも、もう時間遅いし帰った方が良いんじゃねぇか?なんだったら途中まで…」
「火神くん」

火神の言葉を遮って、黒子は初めて火神を名前で呼んだ。そして、今までの無表情から想像がつかない、可愛らしい笑顔を浮かべた。

「僕、君のこと気に入っちゃいました」

火神が瞬いた一瞬の後、もう少年は目の前から消え去っていた。

「!!」

がたっ、と思わず立ち上がり周りを見渡すが、どこにも黒子の姿はない。慌ただしく動く自分の影だけがテーブルの上に落ちていた。

確認に持ち上げてみたシェイク用の紙コップの中身は、しっかり空になっている。

そのまま暫く呆けてしまったが、ずっと店にいても迷惑だ。火神は釈然としないままマジバから出た。くあぁと欠伸を漏れる。時刻は間もなく零時を指し、欠伸が出てもおかしくない時間だった。

ふと見上げた空には煌々と輝く満月がひとつ。黄ばんだ外灯なんかには負けない明るさだった。そういえばテレビか何かで今日の月はスーパームーンだと聞いた。いつもの満月よりも二十パーセントほど明るいのだという。満月というだけで闇の化物は活性化してしまうというのにますます奴らが暴れてしまう。いつもなら祓ってやりたいけども、今はちょっと眠たいから勘弁して欲しい。

化物といえば火神はさっきまで確かに一緒にいたはずの黒子のことを思い出す。そして自分の甘さを反省した。黒子はきっと悪魔だ。そして、自分を『気に入った』と言った。波乱の予感しかしない。

明日から新しい事務所で働き始めるというのに、前途多難だ。ポジティヴな火神にしては珍しく、これからを思ってため息をついた。


はじまりの、ちょっと前とこれから



20120924


back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -