好奇心は罪深い | ナノ


※R15作品につき閲覧注意
 ただひたすら下品




「テツヤ、良いものがあるから君もウチへおいで」

下校中、赤司がにこりと笑いながら黒子に声をかけた。突然の誘いに驚いて、黒子は無防備な顔をした。赤司の周りには青峰、黄瀬、緑間、紫原とキセキの世代が勢揃いしている。どうやら彼らもこの後赤司の家へと向かうらしい。

今日、部活はミーティングのみで普段より帰りが早かった。黒子は家に帰って読みかけの本を読むつもりでいたのだが、本は逃げない。もしかして何かバスケに重要なものでも披露されるのだろうかと黒子もついて行くことにした。

結論それは黒子の読み間違いで、大きな失敗であった。



『あァっ…あぁあんっんぁっ、いやぁ……だめっそこだめぇっ!ふかいよぉっ!あっ、やぁぁぁっ』

「………………………」

大画面のテレビに映し出された乱れる女性と繋がっている性器。つまりはアダルトビデオだ。明らかに中学生が視聴してはならないものである。

えぇと。帰っても良いですか?そう思ってふかふかと座り心地の良すぎるソファで黒子は身を捩った。両脇には黄瀬と赤司が座っている。…そうだダメだ、赤司に「ちゃんと見るんだよ」と言われていた。逆らえない。

黒子は否応なく目の前に晒される性の映像にげっそりとした。ぬちぬちとした水音や喘ぎ声を聞いて世の中の男性は興奮するのだろうが、今はその気にもならない。疑問と戸惑いが多すぎるのだ。なんだってこんなものを見るためにこのメンバーで集まったのだろうか。最後は呆れながら赤司たちを振り返ると、皆テレビを見てはいなかった。目線こそ合わないが黒子の方を見ていて――。

え?

「………黄瀬君。どういうことなのか説明してください」
「エッ」

びくっと肩を震わしオロオロと視線をさ迷わせる黄瀬をみて黒子はこの集まりが非常に馬鹿らしいものなのだと確信した。

黄瀬は明らかに挙動不審な態度で言葉を繋ぐ。

「いやぁ〜、あれっスよ黒子っち。赤司っちがこーいう素敵なDVDをゲットしたって言うから、た、たまには良いもの見ようって皆で集まっ」
「AVを集まって見るほど僕たちは仲が良かったようには思えませんが」

すかさずつっこむと黄瀬はむぐっと言葉を詰まらせた。他のメンバーはもうこちらを見ていない、むしろ見ないようにしているのが伺える。しかし、黒子はさっきまで彼らの視線が――自分の股間に向いていたことに気が付いていた。

「青峰君、キミ、さっきまでどこ見てましたか?」
「ぅえっ、俺か?」

黒子は間を置かずソファの後ろに立つ青峰に尋ねた。嘘など吐かせてなるものかとじっと青峰の瞳をのぞきこんだ。

「映っていたのはキミ好みの豊満なバストの女性ですが、どうしてか画面は見てませんでしたよねぇ?」
「………あー」

頬をひきつらせて唸る青峰に退路はなく。その様子を見て紫原は興味なさげにまいう棒をむさぼり、緑間は溜め息を吐き、赤司は愉快そうに口の端を上げた。

「だから馬鹿らしいと言ったんだ。悪趣味なのだよ」
「えー、言いつつミドちんも参加してんじゃーん」
「……賛同して参加した訳ではない」
「黒子っちぃー怒んないで欲しいッス」
「別に良いもん見れてんだしどーでもいーだろ」
「どういうことか説明して下さい」

ぐだぐだ話す皆に焦れて、しかし表情は静かなまま黒子は説明を求めた。

青峰がボリボリと後頭部を掻きながら、さらりと今回の集まりの主旨を述べた。



「いや、テツって勃つのかなって」



流れっぱなしになっているDVDでAV女優が絶頂を迎える声が、室内に間抜けに響いた。

黒子は思う。今、自分は物凄い喧嘩を売られたんじゃあないだろうか。そして男としての矜持を守るための非常に大切な局面に立たされているのではないか、と。

「何もテツヤがEDとか不能だとは言っていないよ」
「赤司…もっとオブラートに包んだ言い方をするのだよ…」
「だってあんだけさつきのおっぱい押し付けられて息子が全然元気にならねぇってどういうことだよ」
「青峰っちちょっと黙って!」

包み隠さず発言する赤司と青峰を緑間と黄瀬で制止する。しかし悪びれずに青峰は黒子に尋ねた。

「で、どうなんだよテツ」
「僕は…」

黒子は口を開きかけて、はたと気付いた。

「…………ちょっと待ってください。なんで僕はこんなところで自分の性事情を曝露しなければならない運びになっているんですか」
「知らん」

冷たく言い放ってはいるものの、緑間は黒子に同情の目を向けた。彼はもしかしたら、この馬鹿な集まりのブレーキ役としてここにいてくれているのかもしれない。完全なアウェイではないと思うと緑間の存在はありがたいと思えた。ヘルメット抱えてるけど。

さてどうしようかと黒子が悩んでいると、ずっとお菓子を食べて口をもごもごさせていた紫原が動いた。

「黒ちーん。ちょっと立ってみてー」
「……? はい」

いきなりの紫原の言動を訝しみつつ黒子は立ち上がった。それが良くなかった。紫原は彼の大きな手の甲で、躊躇うこともなく、黒子の股間に触れたのだった。するると指が局部のラインをなぞる。

「……………」
「アララほんとだぁ、全然固くない。あれぇー、ていうかちっちゃ
「コラ敦」

決定打だった。

「く…黒子…」
「帰ります」

気の毒そうに声をかける緑間にも黒子は応えない。ただ、あまりのことに大爆笑する青峰と黄瀬の腹にはしっかりイグナイトを叩き込んでKOさせてから黒子は赤司の家から出ていった。

むしろ、今日のこの事件で不能になりそうだと思いながら。





何度も何度も唇を押し付ける、押し付けられる。回数を数えなくなったのはいつからだろうか。それすら思い出せない。窒息しそうになっているとやっと唇が離れて、黒子はぷは、と息を吸い込んだ。

「くろこ、」

呼吸を整えていると、今度は顔中にキスの雨が降る。火神は先程の長いキスなんて、余裕なようだ。それが黒子には恨めしい。

その時何故か、中学時代のキセキどもからのあの仕打ちを思い出した。今思っても非常識で死ぬほど馬鹿らしい。そして腹立たしい。

あの後はどうしたんだったっけ。確か次の日に黄瀬は飛び付いて謝ってきてうざくて肘鉄入れて、青峰からはまた不能だの短小だの随分なことを言われたからもう一度イグナイトで沈めたんだったか。緑間と紫原は素直に謝るものだから、なんだか怒るに怒れなくて許してしまった。赤司は………悪かったねとか言いながら笑顔でAVを寄越しやがった。もうちょっと自分に度胸があったら目の前で割ってやりたかったなぁと思う。

「なぁ黒子、何考えてるんだよ」

昔のことをつらつらと思い出していると火神は機嫌を少し損ねた声を出した。返事をしようと黒子が口を開くと、声を出す間もなくがぷりと噛みつかれ、舌を差し込まれた。

「ん、ん」

弁解の言葉を伝えるのもできなくて、ひたすらに咥内を荒らされる。仕方ないと諦めて黒子からも舌を絡めると、火神は驚いて口を離した。

「ヘタレですね」
「…るせっ」

決まり悪そうな火神を見て黒子はうっすら笑う。そして漸く弁解した。

「さっきは、僕だってちゃんと興奮するんですよ、って思ってただけですから」

きょとんとする火神に黒子は抱きついて、欲を訴えるように自分の腰を押しつけたのだった。

好奇心は罪深い



20120923

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