11 祓魔師パロ無駄話 | ナノ


「この中で彼女いる奴!挙手!!」

それは事務所職員が珍しく全員事務所に集まっていて、各自昼休憩を取っている時のことだった。突然で突飛な日向のいまいち目的のわからない内容の掛け声に、事務所にいる人間全員が一瞬動きを止める。その後、挙げられたのは土田の右手だけだった。あ、土田先輩リア充だったんだ…というのは新入りの四人。黒子はこの話題に少しも興味が無いようで、火神の膝の上でのんびりとカフェオレを飲んでいた。

「あの…いきなりどうしたんですか?」

怖々と日向に尋ねたのは降旗だ。新入りを代表しての問いかけである。日向はそれに対してにっこりと笑顔を浮かべ答えた。

「目的のひとつとしてはただ単にリア充がいたら嫌がらせでもしてやろうかと思っただけだ」

随分と辛辣な内容だった。しかし河原はそこであることに気がつく。

「土田先輩は素直に挙手しましたよね?先輩にも嫌がらせするんですか?」

途端、先輩からの冷ややかな視線が河原へと注がれる。

「土田に嫌がらせしようとするとか…最低だな河原」
「見損なったぞ」

「いやいや先輩たち容赦なさ過ぎだろ河原涙目だぞ」

と、間に入ったのは火神。普段空気は読まないだけで、重要な所で的確な判断を下し…今回の場合フォローをいれた、というのは彼の長所のひとつの現れではあった。

「…まぁ日向が拗ねてるだけだ、日向からは中々浮いた話を聞かないからな。新入りたちはあんまり気にしないでいいぞ」

珍しく苦笑いを浮かべた木吉がそうフォローを入れる。ただ、木吉が気付いていないだけで、もしかしたら日向はどこぞで失恋してきたのかもしれない。それでこんな話題を振ってきたのかもしれない。そう思いながら全員がつられて苦笑いをした。

しかし、日向はちげぇ…とその場の推測を全面的に否定した。

「ちがう、違うんだよ…いや、確かにさっき言ったみたくリア充がいたら俺たちの手で末永く爆発させようとは思っていたんだ…でもそうじゃねえ。非リアで溢れてるから安心している訳でもねえ。むしろ言いたい。何で…何でお前ら彼女の一人や二人作ってこねえんだよ!!」
「いや、そんな錬成しろよみたくお手軽に言われましても…」

福田は困ったように眉毛を下げる。急に声を荒げはじめた日向にその他全員は戸惑いを隠せない。日向の声は何かを必死に伝えようとしている。福田につっこまれたお陰なにか、ほんの少しだけではあるが、日向は冷静さを取戻したようだ。今までの感情的な話し方ではなく、理論立てながらの日向の説明が始まった。

「俺たちが生きているこの世界には何らかの意志を感じるんだ…口にするのも恐ろしい事なんだが、この世界の大半の男たちと一部の女がその意志に引きずられて生きている…俺はそう感じている」

本当にしょうもない一言から始まったこの無駄話が、どうしてかシリアスに転んでいっている。そしてその日向の伝えたい内容がはっきりと具体的に告げられたのが次の言葉だった。

「お前ら、自分がホモじゃないって胸を張って言えるか?」
カントクに関してはレズな。

日向の問いかけは一同に一瞬の静寂をもたらした。が、次にはどっと笑い声をあがった。その理由について記述までする必要はないだろう。きっと誰がそんな質問をされたって、マジョリティに属しているのなら笑ってしまうに決まっているのだから。

日向の真剣だがあまりに間抜けた質問に伊月は腹を抱えながら応え、

「日向、本当にどうしちゃったんだよ。そんなことある訳…」

途中で言葉を止めた。

「随分と突飛な事を言い出したなあ、俺は至ってノーマ…る…」

同様にしゃべり始めた木吉もが、言葉を止めた。

小金井も水戸部も降旗も福田も河原もリコでさえも全員が全員笑い声を上げた後に――深刻な面持ちで沈黙していた。

「嘘…だよな?」

今、誠凛祓魔事務所の全員が日向が提示した、荒唐無稽な危惧に愕然としていた。

「どういうことだ…まるで図ったかのようにこの事務所にはホモになりかねない人間が集まって、いる、だと?」

伊月は口元に手を当て、今度こそ真剣に事態の検証を開始した。小金井は混乱しつつ、あっと火神の方を見て焦った様子で注意を始めた。

「駄目だよ火神――いや、今やっている事は別になんら疚しいことがないことはわかっているんだけど膝抱っこは駄目だ!!ホモホモしすぎる!!」

小金井の必死そうな声に、火神は難し気に首を捻る。

「いや、でもこいつ離れたがらないんすよ…」
「火神くん、これ飲み終わっちゃいました」

黒子は祓魔師たちのパニックにはやはりまるで興味が無いようで、飄々とした様子で自分のペースを崩さない。そして、どちらかというと火神も黒子寄りの薄い危機感しか持ち合わせていなかったようだ。

「おー、飲みきるの早かったな。」
「次は前に言ってたカフェモカが飲んでみたいです」
「良いけど…多分お前ス○バのホワイトモカが好きだと思うぞ。めっちゃ甘いから」
「本当ですか?では、帰りに飲んでみたいです」
「そのかわり、夕食ちゃんと食えよ?約束だからな」
「むう」

黒子はちょっぴり複雑そうな表情で頬を膨らませた。


「それをやめろっつってんだよ!!!!」


日向が絶叫する。激おこだった。

「つまり、うちにはホモを量産する…つまりは生殖能力を遠回しに低下させる呪いのようなものが発生している、ということか…?」
「土田にだけ作用していない所を見ると”土”に特化した人間にはあまり効果がない、ということかもしれない」
「私の目も伊月くんの目も、そんな呪い見えてないわ…呪術なら足跡がきっちり残っているのに」
「そもそも誰が何の為に…?」

当初の和やかな日常からは想像がつかないような混乱の渦に誠凛祓魔事務所の面々は巻き込まれて行っていた。それもその筈、幾ら考えども、そんな呪いのような何かをかけられた理由が、彼らには全くわからないのだ。理由、そして目的さえもが彼らが理解する所の上をいっている。

怪異とは、理解出来なければ理解出来ないだけ威力を発揮してしまう。だから知る事が大切にされている。黒子もとい”無知”と遭遇したこともその例のひとつである。自分たちに見えないベクトルは、好き勝手に操作されると目も当てられない結果が待っていたりするのだから彼らの抱いた危機意識はプロの祓魔師としては当然のものだった。

「見えない敵との戦いか…」

木吉がふっと薄く笑いを漏らす。その笑いが事務所の人々を少し安堵させることを、木吉は知っている。何も図って笑いをこぼした訳ではない。しかし、キセキを相手取った戦いと似たような恐怖と高揚が木吉と――事務所職員全員の心の中に湧き始めていた。

「呪いとおぼしきものは、微弱なもので俺たちはまだノーマルとして生きることも可能だ――屈服するにはまだまだ早すぎる。敵の姿を暴く事が先決だ。必ず、この戦いを…真っ当な道を歩き続ける戦いを、制してみせよう」

木吉がそうまとめると事務所の人間はおう!とそれに応えた。

しかしこの間も依然火神の膝の上には黒子がいたし、体が暖まって眠くなったのか火神の逞しい胸板に頬を押し付けてうとうととしていた。加えて火神にもやはりこの状態がおかしいと認識する能力がかけらもないらしく、黒子の体を抱えたまま苦手なデスクワークを一生懸命にこなしていた。


同性への恋愛感情を刺激し、生殖能力を著しく低下させる呪い。

その呪いを掛けているのはまさしく”私”であり、その呪いが強くなったり弱くなったりすることはこちらの気分次第である訳だが、彼らはその理不尽な創造主を生涯知る事はないだろう。



20150313

あとがき

100000hitフリリク部屋

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -