ここには、 | ナノ


※思いついた言葉を赤司くんに言わせたかっただけの駄文
※捏造多々

それでも良ければどうぞ、赤司くんと緑間くん、降旗くんのちょっとしたお話です。



※ひとつめ、帝光時代



昼休みの喧噪が届かない、人気のない空き教室に二人はいた。

王手。そう言って赤司は角を動かした。目の前の将棋盤では緑間の王将はもはや逃げ延びるすべを持たない。じくじくと敗北の予感に焼かれる時間が終わる。ふう、と息をついて緑間は投了した。一体いつになったら自分は赤司に勝つことが出来るのだろうか。全てに勝ち続ける赤司に一度で良いから報いてみたいと、緑間は思う。

「緑間は将来医者になりたいそうだな」

将棋盤を眺め、自分の戦いぶりを脳内で検討していると、赤司はふとそんな話題を振ってきた。いきなりなんなのだろうか。緑間は盤上に向けていた視線をあげ、赤司の顔を見る。赤司は勝利に浮かされることもなく、少し微笑んでいるだけだ。

「なんだ、薮から棒に」
「いや、ちょっと小耳に挟んでな」
「…どこかで言った覚えがない」
「ふふ、まあいいだろうそんなことは」

不審がってみても赤司は曖昧にごまかすだけだ。緑間は腑に落ちなかったが、きっと追求してものらりくらりと躱されてしまうのだろう。素直に頷くと、赤司はやはりそうなんだな、と呟いた。

将来の夢。人事を尽くし天命を待つ。そういった自分の生き方で言えば、将来の夢とはいえども具体的な目標に過ぎない。ただ変人緑間ですら、僅かだが友人と話し合うには気恥ずかしい話題だと感じる。赤司はそんな緑間のもやっとした感情には気付いているのかいないのか、話を進める。

「緑間のことだから、きっと夢を達成するのだろうな。ただ、お前はどの分野に特化した医者になりたいんだ?外科か、内科か、小児科か、産婦人科か。…ああ、何も体に限定することはない。精神科というのもあったな」
「…確かに俺は人事を尽くすことを信条としているが、この年ではまだそんな具体的なところまでは決めていないな。今決定することが、必ずしも人事を尽くしたことになるとは思えないのだよ」
「それもそうか」

はは、と軽く赤司は笑う。机に肘をついて軽く凭れているのを見ると、普段と違い気を抜いて見える。赤司と友人であると思っている緑間からすると、自分の前で少しでもリラックスしてくれている様子を見るのは素直に嬉しく思えた。

「――医者とは、おそらく人殺しよりも、人を殺すということに関して深く理解しているんだろうね」

が、赤司がまた、突飛なことを言い出すものだから、そのちょっとした喜びは薄れてしまった。

「またいきなりだな…一体なんなのだよ」
「別に、思ったことを言っているだけだが?」
「……からかっているのか」
「まあいいじゃないか緑間。たまにはこんな物騒な会話も」

赤司は渋い顔をする緑間を見て愉快そうに目を細めた。午後の柔らかな光が、赤司と緑間の両方に降り注いでいる。その光の加減だろうか。平生深紅の双眸を持つ赤司の、左目だけがうっすらと橙に透けて見える。

「それから、誰よりも多くの人を殺したり、殺しはしなくともあの世へ送り出したりするのもきっと医者だね」

これまたテンションの下がることを赤司は言う。緑間はため息をついた。これじゃあまるで進路相談だ、医者になることの重さを諭されているようで、しかもそれが同年代の友人であることもあり緑間は居心地悪く思った。赤司は肘をついてない方の手で何気なく自分の使っていた王将の駒をつまみあげた。それを手の中で弄って遊んでいる。緑間は教室に設置されている時計を見上げた。急げばまだ、もう一戦できそうな時間。また、盤上の駒の位置さえ覚えて置けば途中で時間が来てしまっても再び続けることが出来る。再戦を申し込もうか、と緑間は赤司を振り返った。

「真太郎」

不意に下の名前を呼ばれて、やや吃驚しつつもなんだと返事をする。赤司は駒で手遊びして、緑間の方を見ない。ただ、そのまま言葉を続けた。

「いつか僕を殺しておくれよ」

なんてな。緑間に再び顔を向けた赤司は、先ほどの違和感を感じさせない、いつも通りの赤司だった。 


ここには今、何人の人間がいる?





赤司征十郎は、一人ではない。

俺がそのことを知ったのは洛山との対決を控えた、とある夜のことだった。黒子が帝光時代のことを事細かに離してくれたからだ。黒子は普段から小説を読んでいるからか、とても重たい、話すには難しいことを淡々とわかりやすく話した。どのくらいの覚悟を持ったならばあのキセキの世代と渡り合おうと思えるのか、必要だからと自分の一番弱い部分をさらけ出せるのか。黒子の強さには本当に舌を巻く。

そうして赤司の秘密を知って、再び赤司と会ったときには恐怖以外の感情が生まれていた。多分、好奇心と言う奴だろう。ひょんなことで会話をする機会に恵まれ、相変わらずの魔王オーラに腰が引けつつも彼と言葉を交わすことに成功した。内容は他愛もないことだ、黒子がまた頑張ってるとか火神がこれ以上飛んだら人類の枠を超えるんじゃないかとか。話はそれなりに盛り上がっていたのだが、赤司は不意に無言になり、じっと俺を見つめてきた。

「君――降旗くん、は随分と色んなことをテツヤから聞いてきたらしいね」

赤と金の双眸に俺はすくみ上がった。好奇心は猫をも殺すとかいったか、やらかした。こうしたときは嘘はつかずに正直に話すべきだろう。俺は知っていることを全部ゲロった。赤司は特に怒りもせず、へえ、そんな所まで話されていたのかと頷いただけだった。

穏やかな赤司に油断したのだと思う。猫も殺すって言うのに俺はまた好奇心がむくむくと膨らんでいくのを感じていた。

「赤司」
「なんだい」
「君はいつから二人になったの」

赤司は一瞬、とても驚いた顔をした。感情をそのまま表情筋に伝達すると、赤司は童顔も相まって同じ年齢なんだなあと感じることが出来る。ぷは、と笑いをこぼしたのはその後。

「君は、臆病なようでいて以外と強かだな」
「…えーと、ごめん」
「いいよ、いいよ。ふむ、そうだね、確か小学校に上がる時くらい…だったかな」

軽い返答に俺は目を剥いた。

「え?!そんなに早くから」

物心つく前、といっても良いんじゃないだろうか。そんなに昔から、彼は。

赤司は半ば他人事のように言う。

「生まれたときからの重圧が原因だろうな。そんなに早く、と君は言ったけれども、人が狂うのには十分すぎる年月だったんだよ」

訊いておいて俺は、何も言うことが出来なかった。赤司征十郎という人は、とても苛烈だけれど基本的には物腰が柔らかく穏やかであるらしい。黙り込んだ俺に苛立ったりはしなかったようだ。沈黙を綺麗に埋めて行くように、赤司は続ける。

「でも、僕は今の自分の状態はけして悪くないと思うんだ」

赤司の双眸は、俺から外れて虚空へと向いた。

「絶対に、ひとりぼっちにはならないだろ」

黒子に火神がいるように。青峰に桃井がいるように。黄瀬に笠松がいるように。緑間に高尾がいるように。紫原に氷室がいるように。

少し、話しすぎたかな、と赤司は薄く笑った。俺はそんな赤司を見て、咄嗟に「じゃあ俺が、赤司の側に」なんて言いそうになってしまった。どうしてわざわざ、苦手な奴の側にいようとしてしまったのかよくわからない。だから、その衝動は理性でもって噛み殺して、ひとこと告げることにした。

「ちゃんと欲しがれば、いいのに」

赤司はやっぱり、薄く笑うだけだった。


ここには今、三人の人間がいる


(20141104)

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