20XX年度第一次VD論争 | ナノ


※2014年度VDネタ





黒子テツヤは立腹していた。それはもう、怒髪天を突くと…までは言い過ぎであるが、それでも怒っていた。その怒りは別に甘い香りの漂う教室内でオーバーフローすることはなかったが、明らかな苛立ちや批難や、侮蔑にも近い感情を込めて彼は火神に迫っていた。

「火神くん謝ってください」
「は?」

自分の席にいた火神は、いつもとは違い自分を見下ろしてくる黒子にきょとん、と不思議そうな顔をした。謝ってください。日本語はわかっている。ただその真意がわからず火神は黒子に思わず聞き返していた。しかしそれが更に黒子の感情を逆撫でしたらしく、黒子ははあ、と息を吐いて繰り返した。

「謝 っ て く だ さ い」
「…なんでだよ。何もしてねーのに謝る気ねーぞ」

火神も火神で、言われっぱなしでいられるようなタマではない。黒子のあまり快くない感情に気がつき、同じようにむっとして黒子に理由を問いた。黒子は何故謝らなければならないのかわかっていない火神をじっと眺めた後、視線を外して深々とため息を吐いた。

「ッだー、何だよ!!言われねえとわっかんね、」
「キミは…気付いてないんですか?!このクラス及びキミが関わった女子たちの絶望の表情に!」
「えよ、………は?」

言われた意味が理解出来ず、火神は再びきょとんと不思議そうな顔をした。その表情に焦れた黒子は、彼にしては珍しく顔を少し紅潮させて、バカガミにもわかるように――捲し立てた。

「今日はバレンタインデーですね。だからこんなにも甘ったるい香りが学校中に充満しています。ちょっと胸焼けがしてしまいそうなほど濃厚にです。繰り返します。今日はバレンタインデーです。そしてここは日本です。日本は宗教に対する考え方が浅いので、喩えキリスト教徒でなくともバレンタインデー商戦もあって盛大にバレンタインを祝います。リア充の聖日ですね。ええ、そうなんです、リア充の聖日なんです、ここは日本なので。キミにもわかるように何回も何回も繰り返し言いますが、今日はバレンタインデーで、ここは日本なんです。――アメリカと違って、女性が好きな男性にチョコレートを渡す日なんですよ。
 今日、うちのクラスメイトの恋する女子たちは、それぞれ気合いを入れてバレンタインのチョコレートを用意して学校にやってきました。どうしよう受け取ってもらえるかなまたはよろこんでもらえるかなという不安と希望を胸にです。朝下駄箱や机に放り込んでおく、という古典的な方法をとった方もいらっしゃるかもしれませんね。彼女たちは気付いてなかったんです――うちのクラスに、ダークホースが存在することを。ちょっと、火神くんそんな顔しないでくださいよまだ本題に入ってません。
 ダークホースはもう言ってしまいましょう。キミです。火神くんです。このオカン系男子はアメリカナイズドされてしまっているため、バレンタインを『日頃の感謝を伝える日』という認識でいました。脳みそがいまだにアメリカにいらっしゃるんですね同情します。だからやっちゃったんですやってしまったんです。
 火神くん、キミは今日、調子こいて作ったトリュフとアマンドショコラとチョコブラウニーをクラス内で男女問わずばらまきましたね?
 しかもオカン系男子の火神くんの作ったものは完成度が群を抜いています。勿論魔法じゃありませんから人を魅了しまくるわけではありません。ただ…チョコを溶かして固めるだけのものしか作れない女性の気持ちはぼっきり折りました。クラスの男子に想い人がいる人は、火神くん作のお菓子を食べた後の想い人にチョコを渡すことになりハードルが一気にあがりました。
 また、中には火神くんに想いを寄せてる女性もいましたね。彼女たちは一生懸命火神くんにチョコを渡しましたが…火神くんはその場でお返ししちゃいましたね、クオリティーの高すぎる代物を。彼女たちの心もぼっきり折られた訳ですよ、気持ちもなんだか伝わってないし女子力で負けてるしと散々です。キミは悪魔か何かですか…」

説明、というよりももはや説教をする黒子を、火神は悪いことしちゃったかな、なんて罪悪感を抱いた表情ではなく――にやにやと締まりのない表情で見ていた。そんな表情をされた黒子は戸惑い、内心気まずく思った。散々嫌味を言ったのに、何故この男はこんなにも上機嫌でいるのだろうか?と、もうひとつ。

「なんですか」
「いや?皆には逆に悪いことしちゃったかなって思ったけどよ…お前一個嘘吐いたなって」
「…僕は嘘なんか、」

黒子は口ごもりながらも否定するが、それを火神は否定した。

「吐いたよ。俺にチョコ渡しにくる女子たちが落ち込むのを見て、内心ざまーみろって思ったんだろ」
「…」

にやにやにや。火神は若干下品な、嫌な笑い方を続けている。黒子はそんな火神の言葉を、もう一度否定することはできなかった。若干の悔しさもあって、黒子は少し顔を背けた。

「醜いです」
「俺は嬉しいけど?」
「…」

火神はクラスメイトに見えないように、こっそりと黒子の真っ白い手をとった。ひんやりとしていて、自分の手で暖めてやりたいな、と彼は思う。火神は少しだけ緊張しつつ、でも何でもないことのように黒子に話しかけた。

「なー、俺さ、今日家に帰ったらフォンダンショコラも作ろうと思ってるんだよな」
「…」
「バニラアイスでも添えて食べようかなって思って」
気軽に学校に持って来れるものじゃ無いものだぜ。
「…」

むっとした表情のままの黒子に、火神は穏やかな調子で付け加える。

「今日放課後俺んち来いよ」

黒子はやはり、火神の方を見ない。しかし、彼は何も言わずに小さく頷いた。火神は内心、勝った、と思った。彼はこの無表情と付き合う中で火神は黒子の思うところを正確に見抜けるようになっていたのだ。

今は手に触れることしか出来ないことが歯がゆい。それにしても拗ねても妬いても可愛い可愛い恋人だな、と火神は微笑んだ。


20XX年第一次VD論争



(20141013)

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