いっしゅうねんきかく 本編 | ナノ


いっしゅうねんきかくをまとめたもの。
ぐだぐだCPなしオールキャラとなっています。





「困りました」

始まりは黒子テツヤのこの呟きだった。屋上で黒子たちの代のバスケ部で集まって昼ご飯を食べていた時のことである。黒子は何やら携帯を見ていて、ちっとも困っていなさそうな表情で言ったのだ。困りました、と。だいたい皆口の中いっぱいに昼飯を詰め込んでいて何も言えず、一番最初に黒子の呟きに反応したのは降旗だった。

「黒子?何かあったのか?」
「ええ、少し。看過するには苦しい事態です。僕はどうすれば良いんでしょう」
「ちょ、具体的にどうしたの?心配だよ」

ぼわぼわと、曖昧な言葉を選ぶ黒子が不安になって全員が黒子に注目する。黒子はその視線を受けてむー、とやっと少し顔を歪めた。黒子は、一度心を落ち着けるように空を仰いだ。晴天、天高く馬肥ゆる秋。髪を軽く揺らす風は涼しく心地いい。とてもとても穏やかな気候である。いつまでもこの柔らかさが続けばいいのに…。さて、現実逃避はこの辺にしておこう。黒子は視線を仲間たちに戻すと、困ったこと、を告げた。

「キセキ全員に集合がかかりました。ついでに火神くんと降旗くんも呼び出されています」
「はぁ?!俺もかよ!!」
「なんで凡人の俺まで呼ばれるんだよおおお!!」
「「ぃやった――!!俺ら呼ばれてない――!!モブ万歳!!!!」」

穏やかな秋、しかし、そういえば、沖縄の向こうあたりに台風が出来ていたなぁ、と火神は朝の天気予報を思い出していた。

「と、いいますか、降旗くん」

黒子はわぁわぁ焦っている降旗をキッと睨んだ。黒子の珍しいその様子にビビりの降旗は肩をびくっと震わせた。火神はきょとんと二人を見ている。そして黒子は衝撃発言をした。

「君が赤司くんとメル友だというネタは上がってるんですよ」
「なんだと」
「凡人の風上にもおけない奴だ!」

黒子の暴露を聞いた福田と河原は口から米粒を飛ばしながらぎゃいぎゃい騒ぎ立てた。少しばかりズレた批判である、凡人に風上も風下もないだろう。ただ、一般的には別に騒ぎ立てるほどのことではないと思われるだろうが、相手はあの赤司だ。魔王だ。よく考えてみろ魔王と村人Aがメル友になるのか、いや、ならない。

「あー、それで気に入られてフリも呼ばれた、のか?集合をかけた理由がわからねーとな…ちょっと赤司の意図が読めないな」

ちょっと置いてけぼりを食らいつつも、火神だけは意外と冷静に考察をしている。早々にあり得ない量の昼食を胃に収めて頭まできっちり栄養がまわっているお陰だろうか。黒子も火神の話には頷く。

「赤司くんは多くを語らないんですよ。今回のメールも集合場所と時間が書いてあるだけですよ」
「へーアイツ面倒くせえよなあ」
「火神くんは怖いもの知らずですねえ。
 取り敢えず、メール内容は僕から転送しておきます」

そう言って、黒子は携帯電話を操作した。送信ボタンを押して、黒子は顔をあげる。

「キミたちを連れて来いと"僕が"言われています。…ばっくれないで下さいね」

何故か福田と河原がゴクリと唾を飲み込んだ。間も無くバイブ音が着信を告げる。火神はいつもと変わらぬ様子で、降旗はびくびく怯えながら受信メールを確認したのだった。





数日後の約束の時間の三十分前、降旗は遅刻することが恐ろしすぎて既に現地に到着していた。とある駅構内が待ち合わせ場所だったのだが、床はぐちゃぐちゃに濡れている。外では殴りつけるような雨が降っている。絵に描いたような暴風雨。実は台風が進路を変え、関東に思いっきり上陸しているのだった。家を出るときに母に物凄く心配された。何もこんな日に出かける必要などないのではないか。降旗も勿論そう思う。だって何が目的で集まるかもわからないのだ。出来るならそうしている。普通だったら降旗も断りの連絡を入れるし、約束をしている相手にも家から出ないことをお勧めする。…その相手が悪いのだ。俺様何様赤司様。赤司様の言うことは?ぜったーいを地でいく相手をどうやって説得しようか。

そう言う訳で降旗は自分のズボンの裾がぐちゃぐちゃになろうが構わずにやってきたのであった。降旗は誰もいないからと隠すことなくため息を思い切り吐き出した。

待ち合わせ場所に二着でやってきたのは秀徳の緑間と高尾だった。びちゃびちゃと僅かに水音を立てながら、凸凹な二人は降旗を見つけて近寄ってきた。

「あーれー?誠凛の…降旗じゃん!」
「誰なのだよ」
「ちょ、真ちゃん!誠凛のスローゲームが得意な控えのPGだよ!」

真顔で失礼なことを言われているなあと降旗は乾いた笑いをこぼした。しかし、

「緑間と高尾か………って高尾?高尾も呼ばれたのか?」
「おー、なんか緑間がどうしてもついてこいってうるさくってよー」

高尾はけらけら笑いながら緑間を指差す。緑間は一気に顔を紅潮させて必死に反論した。

「ちっ違うのだよ!!赤司が高尾もつれてこいとメールしてきたのだよ!!俺は別に…ッ!」
「と、言う訳でっす」

高尾はくっくと笑って肩を揺らしている。ああなるほど、緑間をからかって遊んでいたのか。降旗は少しだけ緑間が不憫に思えた。それにしても高尾だけとはいえ自分の名前を覚えて貰えていたのは嬉しい。自分もバスケをしている仲間たちの輪の中に入れているのだなあとわかって降旗の口元は自然と緩んだ。

「それにしても、赤司は何がしたいんだろうな?キセキたちだけじゃなくって俺らも呼び出すって、なぁんか赤司も変わったよなあ」
「変わった?」

降旗は思わず聞き返す。高尾は真面目な顔で頷いた。

「だって、アイツが一番キセキって括りで閉鎖的に生きてたじゃん」
「ふん、それもそうだな」

意外にも高尾の意見に頷いたのは緑間だった。緑間は気難し気に、でもどこか感慨深そうに僅かに笑っていた。その表情を見ると、高尾が言う変化は緑間にもしっかり訪れたのだと降旗は感じずにはいられなかった。

「まあ、赤司の目的は赤司がくればわかるだろう」
「…ちなみに緑間に帰るって選択肢は」
「ない」
「ぎゃは、だよな」

降旗の問いに断言した緑間を高尾は再びげらげら笑った。

「お、お前ら早いな」

低い声が降旗たちの背後からかかる。その次なる到着者に真っ先に気がついたのはやはり高尾だった。

「あ、火神じゃーん。それに…」
「僕もいます」
「おおう、黒子」

火神の陰からひょっこりと空色が顔を出した。相変わらず影が薄い黒子に高尾は笑い、降旗はやや驚き、緑間はため息をついた。これで五人。約束の時間まではまだある。そう言えば結局何人が集合するのだろうか。気になった降旗は黒子たちに尋ねた。

「なあ、今日って結局何人集まるんだ?もしかしてキセキ全員マジで来るの?紫原なんて秋田だぞ」
「一応、メールはキセキ全員に配信されたらしいですね。紫原くんは赤司くんの言うことには従順ですし」
「もしも各校ひとり以上誰かを連れてくるというのなら、十二人以上だな」

緑間も珍しく会話に参加してきた。黒子も降旗も驚いている。緑間はふん、と軽く鼻を鳴らした。そして、今度は降旗に話しかけた。

「おい。今更だが、お前はそこまで俺たちと関わりがないだろう。何故今日呼び出された?」

じっと値踏みをするように緑間は美しい翡翠の目で降旗を見つめる。美しい故に、少し冷たくも見える。降旗はその視線に簡単に動揺して、わたわたと求められてもいないのに弁明を始めた。

「えっ、あ、お、俺は黒子から連絡を貰っただけで、その」
「降旗くんは赤司くんのメル友です」
「ッブフォオウ!!!ぎゃはははははははマジで?!すげー降旗超普通っぽいのに意味ワカンネー!!どんなメールするんだよ一体!!!あははははは!!」
「高尾!やかましいのだよ!!」

緑間との会話に黒子と高尾が茶々をいれることで会話がスムーズに進む。火神は端から彼らを見て、コイツら意外とうまい具合にバランスとれてるんじゃねーか?と思っていた。そしてまた、キセキ全員か、と頭の中で繰り返す。赤司の用事というのがもしも早く済ませることができたのなら、もしかしたら全員で分かれてバスケ出来るんじゃねーか?いや、バスケするっきゃないだろう。うん。しかしこの土砂降りの雨じゃあストバスは使えない。バスケ馬鹿火神は珍しく、赤司が権力を駆使してどこかの体育館を予約しといてくれれば良いのになと期待を膨らませていた。

そのまま五人で雑談をしてると、高尾が再びいっとうに新たなるキセキを発見した。

「お、黄瀬じゃん」
「心なしかいつものシャラシャラがなくなってませんか?」

黒子はこてりと首を傾げる。火神も皆の向ける方へ視線をやって、げえ、と顔をしかめた。

「つーかアイツ、むっちゃくちゃ機嫌悪くないか?」

火神の言う通り、黄瀬の機嫌は最底辺だった。苛立つ彼の周りにシャララ☆オーラは微塵もなく、付近にいる男性も、女性でさえもただならぬ雰囲気に自然と黄瀬を避けている。降旗は怯え火神の背後に隠れた。緑間は厄介なことになったとでも言いたげにため息をついた。高尾は爆笑するのをなんとか堪えて黄瀬を見ている。おそらくこちらに気がついていない黄瀬に向かって黒子は手を振った。影の薄さ故勿論気付かれなかったので改めて火神が合図を送った。

「…………」

黄瀬、無言。

おいいいいいいい!

「誰か!誰かどうにかしろあれ!」
「どうしようにも…黄瀬くんは拗ねると長いです」

火神がこそこそとこの状況の立て直しを求めると、黒子は淡々と自分には無理だと言いたげに答える。聞いた降旗は小声で悲鳴を上げた。

「あれ拗ねてるの?!」
「まあ似たようなものなのだよ。――高尾。楽しんでいないでお前が行ってこい」

緑間はちろりと自分の相棒に目をやった。

「ぶッ…くく……っはあ、そこで俺かよー」

高尾だけはどんな神経をしているのか、黄瀬のあまりの機嫌の悪さに爆笑していた。緑間は呆れながら黄瀬を指差す。この二人の、常人にはよくわからない上下関係めいたものは絶対であるようで、高尾はなんとか笑いを押さえ込むとひらんと体を返した。

「へいへい行ってきますよっと」

皆が見守る中、高尾は黄瀬の方へと向かった。高尾は楽し気に、少し踊るように黄瀬に近づき話しかける。黄瀬はそれはそれは冷たい視線を高尾に向けた。ブリザード級である。これは厄介だなとあの緑間と付き合いを続けている高尾ですら思った。遠巻きに見ている三人はじっと彼らの動向に注意を向ける。高尾が二言三言と会話を続けると、ドス黒い不機嫌オーラが少しずつほどけていくのがわかった。

数分後。

「皆こんにちはッス!!」

シャラシャラオーラ全開の黄瀬が一匹、合流した。

「高尾すげえ…」

降旗は感嘆の声を上げた。その側ではほんの少しだけ誇らし気に緑間が眼鏡を弄っていた。そんな中、火神はド直球に黄瀬に尋ねていた。

「黄瀬はどうしてあんなに機嫌が悪かったんだ?」
「ちょ、火神!」

折角機嫌が直ったのに、思い出しイライラしたら元の木阿弥だ。降旗は再び悲鳴をあげた。しかしそれは杞憂であったようで、黄瀬はいつもの明るい調子でにこっと笑うと正直に答えた。

「ああ、折角のオフな上こんなキ●ガイみたいな暴風雨なのにわざわざ呼び出しやがってっていうのと、足がぬかるみにはまって靴が泥だらけになって最高にむかついてただけッスよ!」
「録音しました。あとで赤司くんに聞いてもらいます。……黄瀬くん面倒臭いです」

たかだかそんなことでと言いたげに黒子は呟いた。

残りのキセキはまとまってやって来て、その上迷惑な位にギャーギャー騒ぎ立てているため高尾でなくともその到着がいち早く察知出来た。ざあざあ降り続ける雨の音をはねのけるように駅構内に声が響きわたっている。

「大ちゃんのばかぁっ!!!」
「るっせーよさつき!!耳元で叫ぶな!!」
「あーもー、ふたりともうるさ〜…いつになったらもっと落ち着くの〜…」

なんというか、いつも通りである。ただ、青峰と紫原、そして桃井という組み合わせが珍しいといえば珍しい。どうやら偶然到着前に合流したようだ。

「本当に来たよ紫原…」

降旗がぼそりと、驚きのあまりに呟きをこぼした。黄瀬があおみねっちー!!と明るく手を振ると、気がついた一行はわあわあ喚くのをやめないまま近寄ってきた。黒子と火神と緑間はうるっせえと眉根を寄せた。

「ぎゃははははは!!!!」
「ちょ、コイツもうるさいんだけど」

高尾まで爆笑し始めたためますますうるさくなっている。紫原はそんな高尾をみて更に嫌そうな顔をした。青峰と桃井が喧嘩しているのはデフォルトであるので紳士な黒子だけが桃井の愚痴を聞いてやっている。降旗はどんどん濃くなるメンバーに耐えきれず、でっかい火神の隣で小さくなっている。火神はそんな降旗を見て苦笑した。

「あ、そういえば黄瀬と紫原は同伴者がいないんだな」
「?…ああ、そうだな。なんとなく、二人のお守役の奴らがついてくると思っていたのだよ」
「笠松とタツヤだな」
「ああ。…取りあえず後は赤司が来るだけなのだよ」

騒いでいる奴らは放っておいて――まるで騒ぐ子供を放置して会話を交わす主婦のように――火神と緑間は会話していた。付き合いも長くなって、慣れているのだ。そんな穏やかな空気を感じ取ったのか紫原が青峰たちの輪から逃げてきた。子供っぽく見えて、紫原は案外性質が大人な面がありうるさいのを嫌ったようだ。

降旗が長身三人の輪の中でちょっとした劣等感に浸っていたとき、降旗の携帯がメールの受信を告げた。内容を確認した降旗は、ひっと声を上げて、しかしおそるおそる火神たちに話かけた。

「あ、あの…赤司からメールでちょっと遅れるって…」
「ッはあ?赤ちんからなんでわざわざお前にメールがいってるの?ていうかアンタ誰?」
「ごごごごごごめんなさいいい」
「紫原!降旗いじめんな!」
「お前らは小学生か!!これじゃあっちの輪にいるのと変わらないのだよ!!」

何故か機嫌を損ねた紫原と、涙を浮かべながら謝る降旗、それをかばい喧嘩腰になる火神。結局どこにいても騒がしくなるのだった。



約束の時間を五分ほどすぎた頃に、今回キセキに集合をかけた張本人である赤司征十郎が到着した。赤司は別に過去に集合した時のように逆光を背負ってやって来ることもなく、ごく普通にキセキその他の前に現れた。

「すまない、新幹線が少し遅れていてね、自然と遅くなってしまった」

その上とてもすまなさそうに詫びる。皆なんだか怖くなった。一体何があったっていうんだ…。ざあざあざあ。暴風雨は未だ止まってくれそうにもなく、一層彼らの恐怖心を煽る。

一番最初に動いたのは黒子だった。

「赤司くん、つもる話もありますが、まずはこれをお聞きください」

そう言って、黒子は携帯電話を操作した。


――『ああ、折角のオフな上こんなキ●ガイみたいな暴風雨なのにわざわざ呼び出しやがってっていうのと、足がぬかるみにはまって靴が泥だらけになって最高にむかついてただけッスよ!』


「くくくくくくく黒子っちいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!マジでやったッスねこの小悪魔!!」
「おい黄瀬ェ…こんなこと言ってたのかよお前…」
「大ちゃんドン引いたらきーちゃんがかわいそうだよ!大ちゃんも同じようなこと言ってたじゃない!」
「さつきテメエ!余分なこと言うなよ!!」

黒子は多分でもなく愉快犯なのだろう。火神と降旗はわかっているため黒子を左右から肘で小突いた。黄瀬は慌て青峰は墓穴を掘り、桃井は混ぜっ返している。緑間と紫原は「あーあ…」と冷めた視線をそちらへ送っている。高尾は当然爆笑したのだが、ついに呼吸困難に陥り苦しそうにしていた。

赤司はカッと目を見開き、黄瀬を睨みつけた。暫くそうしてから、何故かヨロヨロと誠凛の三人の方へと近寄り、降旗と黒子の間に収まった。

「……けど…………から…」

そしてぽそぽそと何やら話している。しまいには降旗の肩に額をぶつけた。降旗は緊張のあまりに硬直した。…が、話の内容はなんだか可哀想なんだか可愛いんだかわからないもので、だんだんと体から力が抜けて行った。降旗と黒子は顔を見合わせる。アイコンタクトの後、黒子が口を開いた。

「『たいふうがきてしまったけれど、せっかくきせいするからみんなにあってあそびたかった』、だそうです。赤司くんのこんなピュアな気持ちを踏みにじるなんて黄瀬くん最低ですね」
「黒子っちいいいいいじるのその辺にしといて欲しいッス!!」

きゃんきゃんと喚く駄犬はおいておいて、火神は腕を伸ばして赤司の頭をガシガシと荒っぽく撫でた。ズガタカ行為にキセキたちはひいっと息をのんだが、赤司はされるがままだった。要は今回の赤司様による大号令は、赤司が寂しかったが故に行なった可愛いテロのようなものだったのらしい。集まる学年をひとつにまとめたのも、赤司なりの配慮であったという。さっきも黄瀬のことは睨んだ訳ではなく驚きと悲しみで目を見開いてしまったのだとか。

「わっかりにくいッス!」
「赤ちん…せめて用件をメールに書いてよ〜」
「………ぅ」
「何を書いたら良いかわからなかった、恥ずかしかった。そうです」
「今恥をかいていたら世話ないのだよ」

緑間は呆れ、また未だ沈没したまま復活の兆しのない高尾の頭をひっぱたいた。その後赤司が続ける言葉に寄れば、特に遊ぶためのプランはなく、会えただけで嬉しいとか。そろそろ迷惑な話である。これからどうしようか、という話になり、口を開いたのは火神だった。

「あのさ…多分いつまでも雨が降ってる訳じゃねえし、俺の家に来るか?」
「ちなみに火神くんの家はめちゃめちゃ広いマンションです、遠慮はいりません」
「お前が言うな」

ドヤ顔で言う黒子の額を火神は軽く叩いた。行き先に文句を言う者はいたけれど、反対の者はいなかった。

再び電車を使っての移動となり、一行は駅ホームへと向かった。電車を待つ間、降旗の元へ高尾がするりと猫のようにやってきた。そしてこそこそと、でもとても愉快そうに降旗に話しかける。

「なあ、やっぱり赤司、いい感じになったな」

高尾を見ていたら、降旗はくすりと笑っていた。

「赤司だけじゃないよ」

きょとんとした後、高尾はキセキたちを振り返った。そして、そうだな、とにっかり笑った。

電車が到着する頃には風も収まって、雨はしとしとと、優しく地面を濡らし始めていた。



(20131030)

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